Posted
on
ウォルター・S・マスターマン『誤配書簡』(扶桑社)
ウォルター・S・マスターマンの『誤配書簡』を読む。
三年ほど前に少し話題になったレアどころのクラシックミステリである。評判は悪くなかったが、当時は電子書籍のみの発売。そのためあまり読む気がおきず放置していたのだが、なんと最近になって紙(オンデマンド出版)でも出たというので、さっそく購入した次第である。
こんな話。ロンドン警視庁アーサー・シンクレア警視のもとへ、内務大臣が殺されたという匿名の電話が入った。いたずらかと思ったが、そこへ友人の私立探偵シルヴェスター・コリンズが訪ねてくる。コリンズによると、シンクレアから呼び出されたというのだが、シンクレアはそんな電話をかけていない。そこで二人は念のため内務大臣の自宅を訪れるが、そこで大臣の死体を発見する……。
まずウォルター・S・マスターマンという作家自体、あまり詳しく知らなかったのだが、いわゆる本格黄金時代に活躍した大衆作家で、著作数も三十作弱と少なくはない。しかし、分野が探偵小説からSF、幻想と幅広く、それが結果的にイメージを弱くしたのか、どのジャンルでも大成するほどには至らなかったようだ。
しかし、運の悪さも多分にあった可能性はある。というのも、1926年に刊行された本作は思い切った趣向が凝らされ、インパクトも十分にあり、かつ面白い作品だったからだ。
密室殺人、探偵の恋愛、ダブル探偵の設定、タイトルどおりの誤配書簡……ミステリファンが食いつきそうなさまざまなギミックを盛り込み、しかも小気味よく展開される物語は、ともすれば本格ミステリに欠けがちなリーダビリティを存分に発揮している。そしてラストで明かされるメイントリックのインパクト。今まで知られていなかったことが不思議なほどの出来だ。
残念ながらメインの仕掛けに前例があり、それで損をしているところはあるけれども、そうはいっても本格黄金時代が幕を開けてまだ数年。1926年という時代であれば、本作の衝撃は相当なものだったはず。実際、序文でチェスタトンも「この探偵小説にはみごとに欺かれた」と書いている。
ここから先、ネタバレの可能性があるため、未読の方はご注意を。
惜しむらくは、不自然な描写、あるいはわざとらしい描写がところどころに見られるため、このメイントリックが読まれやすいことだろう。ぶっちゃけ管理人はわずか五十ページ余りで気がついてしまった。これは別に自慢でもなんでもなく、正直スレたミステリマニアなら気付くレベルなのである。
上で褒めるだけ褒めておいてなんだが、そういう弱点は間違いなくあり、読み手のミステリ経験値によってけっこう影響される作品といえる。原文のせいなのか、あるいは訳のせいなのかは判断できないが、もう少しその辺がうまく処理されていれば、より高評価を得られたのではないか。
最後に物言いをつけたけれど、でもトータルでは十分満足。他の作品も読んでみたい作家がまた一人増えてしまった。
三年ほど前に少し話題になったレアどころのクラシックミステリである。評判は悪くなかったが、当時は電子書籍のみの発売。そのためあまり読む気がおきず放置していたのだが、なんと最近になって紙(オンデマンド出版)でも出たというので、さっそく購入した次第である。
こんな話。ロンドン警視庁アーサー・シンクレア警視のもとへ、内務大臣が殺されたという匿名の電話が入った。いたずらかと思ったが、そこへ友人の私立探偵シルヴェスター・コリンズが訪ねてくる。コリンズによると、シンクレアから呼び出されたというのだが、シンクレアはそんな電話をかけていない。そこで二人は念のため内務大臣の自宅を訪れるが、そこで大臣の死体を発見する……。
まずウォルター・S・マスターマンという作家自体、あまり詳しく知らなかったのだが、いわゆる本格黄金時代に活躍した大衆作家で、著作数も三十作弱と少なくはない。しかし、分野が探偵小説からSF、幻想と幅広く、それが結果的にイメージを弱くしたのか、どのジャンルでも大成するほどには至らなかったようだ。
しかし、運の悪さも多分にあった可能性はある。というのも、1926年に刊行された本作は思い切った趣向が凝らされ、インパクトも十分にあり、かつ面白い作品だったからだ。
密室殺人、探偵の恋愛、ダブル探偵の設定、タイトルどおりの誤配書簡……ミステリファンが食いつきそうなさまざまなギミックを盛り込み、しかも小気味よく展開される物語は、ともすれば本格ミステリに欠けがちなリーダビリティを存分に発揮している。そしてラストで明かされるメイントリックのインパクト。今まで知られていなかったことが不思議なほどの出来だ。
残念ながらメインの仕掛けに前例があり、それで損をしているところはあるけれども、そうはいっても本格黄金時代が幕を開けてまだ数年。1926年という時代であれば、本作の衝撃は相当なものだったはず。実際、序文でチェスタトンも「この探偵小説にはみごとに欺かれた」と書いている。
ここから先、ネタバレの可能性があるため、未読の方はご注意を。
惜しむらくは、不自然な描写、あるいはわざとらしい描写がところどころに見られるため、このメイントリックが読まれやすいことだろう。ぶっちゃけ管理人はわずか五十ページ余りで気がついてしまった。これは別に自慢でもなんでもなく、正直スレたミステリマニアなら気付くレベルなのである。
上で褒めるだけ褒めておいてなんだが、そういう弱点は間違いなくあり、読み手のミステリ経験値によってけっこう影響される作品といえる。原文のせいなのか、あるいは訳のせいなのかは判断できないが、もう少しその辺がうまく処理されていれば、より高評価を得られたのではないか。
最後に物言いをつけたけれど、でもトータルでは十分満足。他の作品も読んでみたい作家がまた一人増えてしまった。