■ 「柴崎は落ち着いていますね。」東アジアカップの日本代表に選出された鹿島アントラーズのMF柴崎は、「慌てない選手」として知られている。相手にプレッシャーをかけられたときも、平然と味方選手にパスをつないだり、ターンで相手を振り払ったりして、ボールを前に進めることができる。そのため、鹿島の試合を観ていると、ほぼ毎試合、実況や解説者が「MF柴崎は落ち着いていますね。」、「MF柴崎は周りがよく見えていますね。」とコメントする。
「落ち着いてプレーできる。」というのは、ゲームを組み立てるボランチに必要な能力であるが、実行できる選手というのは、限られている。Jリーグの中では、G大阪のMF遠藤、川崎FのMF中村憲、広島のMF森崎和とMF青山敏、仙台のMF富田、横浜FMのMF中町など、一握りの選手だけが有している能力と言えるが、鹿島のMF柴崎は若くして、その稀有な能力を備えており、大きな武器になっている。
プロ3年目となるが、ピッチ上で彼が慌てている姿を観た記憶が無い。そして、オフ・ザ・ピッチでも、うっかりミスをする姿を想像するのは難しい。「2日前にマーガリンを買ったのに、忘れてて、また買ってしまった・・・。」というミスは、よくやってしまうが、彼がそういうイージーなミスを冒すことは無いだろう。5月28日に21歳になったばかりとは思えないほど、大人の雰囲気を持っている。
■ 16歳のときの柴崎岳MF柴崎のプレーを初めて観たのは、約5年前となる2008年8月のことである。毎年、8月のお盆の前に豊田国際ユース選手権が開催されているが、G大阪ユースに所属するMF宇佐美貴史のプレーを生で観るために豊田スタジアムを訪れた。そして、この大会には、2009年の秋に行われるU-17W杯で主力となることが見込まれるU-16日本代表が参加していて、青森山田高校の1年生だったMF柴崎もメンバーに選ばれていた。
豊田国際ユース選手権は世界各国から16歳以下の代表チームとクラブチームを集めて優勝を争うが、2008年大会はU-16ブラジル代表が参加していて、FWネイマールやMFコウチ―ニョらが来日している。「10番のネイマールという選手が凄いらしい。」という話は聞いていたので、プレーを観るのを楽しみにしていたが、そのときは意外と普通だった。なので、わずか5年でここまでの選手になるとは、想像できなかった。
U-16日本代表もスター軍団だった。もっとも期待されていたのは、MF宇佐美(G大阪)だったが、MF高木善(ユトレヒト)、FW杉本(C大阪)、MF堀米(熊本)、DF内田達(G大阪)もレギュラー格でプレーしており、ベンチには、FW宮市(アーセナル)も控えていた。いわゆるプラチナ世代であるが、MF柴崎、FW杉本、MF堀米といった選手は、このとき、初めて存在を認識して、その時から注目している選手である。
決勝戦はU-16日本代表とU-16ルーマニア代表の対戦となったが、日本が7対0で勝利している。よって、日本のいいところがたくさん出た試合だったが、当時15歳だったFW杉本については、『大柄選手にしては動きも悪くなく、反転した末のシュートシーンなど、ゴール前で体の大きさを利用したプレーが出来る。なかなか自分の大きさを生かしきれない大型フォワードが多い中で、貴重な存在である。』という感想を残している。
一方、当時16歳だったMF柴崎については、『中でも背番号「10」を背負うMF柴崎岳は、攻守両面で1対1で力を発揮し、攻守にわたって存在感を発揮。歴代の日本代表チームは、ややひ弱なタイプの10番が多かっただけに、やや毛色が異なる。』とコメントしている。左右に展開するパスだけでなく、体の強さも印象に残っていて、攻守両面でチームに貢献できる選手だという印象を持った。
このときは、「こういう選手がウジャウジャいるのならば、日本サッカーの未来は明るい。」と思ったが、さすがに、それほど話は上手くいかないものである。MF柴崎岳という選手が「数年に一度」と言われるレベルのタレントだということは、プロ入り後の活躍が証明しているが、今回、東アジアカップのメンバーに選ばれて、久々に日の丸を付けてプレーするチャンスを得た。
■ 「慌てるMF柴崎」は見られるか?MF柴崎の大人びた振る舞いについては、演じているところもあるのかな?と思う。そのことを感じたのは、先日の週刊サッカーマガジンのインタービュー記事を読んだときで、『プレー中に慌てないですね?』という質問を受けた時、『いや、それが顔に出ないんです(笑)。そもそも、僕自身は憶病なんです。臆病だから、プレッシャーをかけられると、恐さを感じます。』という風に答えている。
そして、『でも、考え方を捻ると、臆病だからこそ、恐怖から逃れるために、周りをよく見るようになる。周りを観ることで、恐怖感を取る払っておいてプレーするというか。』と補足している。『こんなこと、黙っておけばいいのに・・・。』と思ったが、聞かれると正直に答えてしまうところは、MF柴崎のいいところで、素直な性格なのかなと思うが、臆病であったとしても、顔に出ない選手というのは、相手にとって厄介である。
今回の東アジアカップは、MF高橋秀、MF青山敏、MF山口螢、MF扇原、MF柴崎と5人のボランチが選出されているが、ザックジャパンの常連になっているFC東京のMF高橋秀が軸となって、残りの4人でポジションを争う形から初日の練習がスタートすると思う。そして、3試合あるので、5人全員にそれなりのプレイングタイムが与えられると思うので、MF柴崎に限った話では、アピールのチャンスである。
初戦が中国戦で、2戦目がオーストラリア戦で、3戦目が韓国戦となるが、個人的に期待しているのは、MF柴崎が慌てるようなシチュエーションになることである。そうなったとき、普段のMF柴崎とは違う新しい一面を見ることができるのではないか?と思う。鹿島のときは、隣にMF小笠原がいて、前後にも経験豊富な選手がいるので、彼が困るシーンというのは少ないが、今回のような急造チームになると、話は変わってくる。
当然、国際試合なので、いい内容の試合を見せて、勝利することがもっとも期待される部分で、ある程度の結果は必要になってくるが、せっかく、これだけ多くの若手を召集しているので、普段、経験できないことをたくさん経験して、有意義な時間を過ごしてほしいと思う。そして、ちょっとしたことがきっかけとなって、思わぬ成長を見せることもあるので、彼のプレーぶりならびにその表情に注目したい。
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