■ 準決勝第2試合準決勝の第1試合でG大阪を破ったサンフレッチェ広島と元日の国立で対戦するチームを決める準決勝のもう1試合は、チーム初タイトルを目指す川崎Fと11冠目を目指す鹿島アントラーズの対戦カードとなった。
川崎Fは、<3-5-2>。GK川島。DF箕輪・寺田・伊藤。MF中村憲・河村・森・村上・マギヌン。鄭大世とジュニーニョの2トップ。MF谷口は出場停止。
対する鹿島は、<4-4-2>。GK曽ヶ端。MF内田・大岩・岩政・新井場。MF青木・小笠原・野沢・本山。FW田代・マルキーニョス。こちらはほぼベストのメンバー。
■ 本山の決勝弾試合は、後半27分に、鹿島がGK曽ヶ端のゴールキックをFW田代が頭で落とすと、川崎FのDF箕輪が処理しきれずルーズボールになると、そのボールをMF本山がダイレクトボレーで決めて、鹿島が先制する。
FWジュニーニョを中心に何度も決定機を作った川崎Fだったが、鹿島のGK曽ヶ端の前に最後までゴールは破れなかった。結局、鹿島が1対0で勝利し、決勝進出を決めた。
■ 試合巧者ぶり試合を振り返ってみると、川崎Fの方が多くのチャンスを作り決定的なシュートも多かったが、MF本山の一発に沈んだ。鹿島の試合巧者ぶりが際立つ結果となった。
この「1対0」というスコアに関してはさまざまな解釈が出来るが、「経験の差」とか「伝統の違い」とかいった曖昧な言葉で表現していいものなのか、現時点ではよくわからない。スコアだけ見ると、鹿島の粘り勝ちといった感じだが、GK曽ヶ端のファインセーブ連発が無ければ、川崎Fの一方的な試合になっていたとしても不思議ではなかった。
試合後の関塚監督は、「執念の差」と表現したが、その差は簡単に埋まるものではないのかもしれないし、あるいは、現実はそれほど大きな差ではなくて、すぐに捕らえられる範囲の差なのかもしれない。
ナビスコ決勝のときにも議論されたことではあるが、今シーズンの川崎Fは、こういうビッグゲームで惜しい試合で試合を落とすことが多かった。時間が解決する問題なのかもしれないが、何かタイトルを獲得するまではつきまとう払拭されない課題であるといえる。
■ 押し込んだ両サイド前述のように、90分を通してみると川崎Fが優勢で、特に、右MF森と左MF村上が鹿島の両サイドを制圧した。右の森のスピード溢れる突破は川崎Fの攻撃の中心となり、左の村上は中央に切れ込んでゴール前で決定的な仕事を見せた。鹿島の右サイドのDF内田と左サイドのDF新井場も、ときおりタイミングのいいオーバーラップを見せて、攻撃の厚みを加えることに成功したが、終始、劣勢を強いられた。
このあたり、サイドに強力な選手を擁する鹿島に対して、それでもサイドの攻防を制してしまう川崎Fの戦いぶりは非常に興味深い。川崎Fの最大の強みといえるが、「攻撃」と「守備」のバランスのよさはリーグでも頭2つ抜けていて、決して攻撃的になり過ぎず、かといって守備的にもなり過ぎない。
よく、「フロンターレは攻撃的なチーム」といわれる。確かにゴール数も多く、魅惑的なサッカーをするチームであるし、「攻撃的チーム」というのは褒め言葉の1つではあるが、ボクは、川崎Fを、単に、「攻撃的なチーム」と表現してしまうことは、やや礼を欠くような感じがする。関塚監督の作ったチームは、そういう単純にカテゴライズすることの出来ないもっと奥の深いチームだと思うのである。
■ 新シーズンに向けてこれで川崎Fの2007年の挑戦は終わった。「ACL参戦」、「我那覇にまつわる問題」、「ベストメンバー問題」、「ナビスコカップ決勝進出」と激動のシーズンを送り、日本サッカー界の主役であり続けた。
いずれの大会も、タイトル獲得するまでは至らなかったが、その戦いぶりは、各方面から賞賛が浴びせられた。来シーズンは、Jリーグ最高のタレントに成長したFWフッキが東京Vから復帰してくる。初タイトルに向けて、機は熟した。
■ 大人のフットボーラー対する鹿島は、これで11冠に王手をかけた。川崎Fに中盤を制されるなど苦しい展開となったが、ゴールキックから一瞬の隙をついて、したたかに先制ゴールを奪った。あの場面でFW田代が川崎FのDFに対して競り勝つことを確信してゴール前に飛び出していったMF本山の判断の的確さが生んだゴールだった。
川崎Fの攻撃的MFのマギヌンがややチームのリズムに乗り切れなかったのとは対照的に、鹿島のMF本山の貢献度は特筆すべきものがある。
「単なるドリブラー」と表現するのはやや適切ではないかもしれないが、若いころから、MF本山というとイコールドリブルであり、ドリブルの切れを失いつつあった近年は、完全に精彩を欠いて、停滞の時期を過ごした。しかしながら、この1年で、見違えるような大人のフットボーラーへ成長を遂げた。
この本山の覚醒の理由は何だったのか、非常に興味深いポイントではあるが、とにかく、「ドリブル」や「スルーパス」といった華やかな小手先のテクニックばかりがもてはやされた黎明期を過ぎて、日本サッカー全体が成熟してきた証の1つなのかもしれない。
■ 最高峰の試合最後に、この試合は、攻守の切り替えの早い、見ごたえのある試合となった。川崎Fも鹿島も、一発で試合を決められる攻撃のタレントが集まっていて、1本のパスで試合を決定付けることの出来る選手が中盤に君臨していたため、マイボールであっても安易にボールを失うと、即、カウンターでやられるという緊張感を持った状態の、張り詰めた試合となった。
シーズン終盤でモチベーションも高めにくい天皇杯ではあるが、これだけの試合を披露した両チームの選手には、心から拍手を送りたい。
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