■ ロンドン行きなるか?ロンドン五輪のアジア最終予選の最終節。4勝1敗で勝ち点「12」の日本は、勝つか引き分けると、5大会連続の本大会出場が決定する。2位のシリアと、3位のバーレーンは勝ち点「9」なので、日本はバーレーンに敗れたとしても、ロンドン行きを決める可能性もあるが、すっきりと勝利して、世界大会の切符を勝ち取りたい。
日本は「4-2-3-1」。GK権田。DF酒井宏、鈴木、濱田、比嘉。MF山口螢、扇原、清武、東、原口。FW大津。マレーシア戦でイエローカードを受けたFW大迫は出場停止で、ボルシアMGのFW大津が1トップで起用された。MF清武は、昨年9月のマレーシア戦(H)以来の出場となる。GK安藤、DF大岩、MF高橋、MF山村、MF齋藤学、FW工藤、FW永井がベンチスタートとなった。
■ 5大会連続の五輪出場!!!序盤はイーブンの展開となる。大差での勝利が必要なバーレーンも、しっかりとブロックを作って守ってきたので、日本はチャンスの糸口をつかめない。それでも、前半20分に、DF酒井宏が右サイドを突破してゴール前でフリーになっていたFW大津にラストパスを送るが、FW大津はトラップをミスしてシュートまで持ち込めない。前半42分にも、MF東が左サイドを突破して折り返してフリーのDF比嘉が左足でシュートを狙うが、GKの正面に飛んでしまう。前半は0対0で終了する。
後半も同じメンバーで入った日本だったが、後半10分にようやく先制に成功する。DF比嘉から左サイドのMF原口のスペースにボールが出ると、MF原口がゴール前に送ったボールをボランチから飛び込んできたMF扇原が右足で決めて先制する。さらに、後半14分にも、MF東が裏に抜け出して中央にグラウンダーのボールを入れたボールを、ファーサイドから走り込んできたMF清武が豪快に右足で決めて2対0とリードを広げる。
その後も、後半19分にMF山口螢のパスから裏に抜け出したMF清武がGKと1対1となって右足でシュートを放つが、左ポスト直撃で追加点ならず。3点目を奪うことはできなかったが、2対0で勝利。5勝1敗で勝ち点「15」となって、見事にロンドン五輪の出場権を獲得した。グループ2位となったシリアがプレーオフに進出し、バーレーンは予選敗退となった。
■ MF扇原が貴重な先制ゴール日本は、1トップのレギュラーのFW大迫が出場停止のため、FW大津を1トップで起用してきた。FW大津はフォワードでプレーした経験はあるが、1トップは不慣れということもあって、十分なプレーはできなかった。ポストプレーヤーは不在で、FW大津、MF清武、MF東、MF原口というアタッカータイプを併用したので、相乗効果が期待されたが、前半は、MF原口とMF東は試合から消えて、MF清武とFW大津はミスが多かった。そのため、前線におさまりどころが見つからずに、バーレーンの堅い守備を崩せなかった。
ただ、後半になると、MF原口のいる左サイドからチャンスを作るようになった。バーレーンはしっかりと守備を固めていたが、前半からDF比嘉のところだけはマークが甘くなっていたので、そこから打開できそうな雰囲気はあったが、MF原口も絡んでくるようになって、左サイドを完全に崩して先制ゴールが生まれた。2列目の3人は、裏に飛び出す意識が高かったが、2点とも飛び出しがきっかけとなった。
貴重な先制ゴールを決めたのは、MF扇原だったが、かなり難易度の高いシュートだった。MF扇原は左利きで、左サイドから入ってくるグラウンダーのクロスを左足でミートして、ネットを揺らしたリ、惜しいシュートを放つことは多かったが、ゴールシーンは利き足とは逆の右足のシュートだった。レフティのMF扇原は、右足に関しては、それほと精度の高いプレーはできないが、今後、両方の足が使えるようになると幅が広がってくる。
■ MF清武がダメ押しゴール引き分けでもOKという試合だったので、2点目のMF清武のゴールが、ロンドン行きを確実にするゴールとなった。左サイドに流れたMF東からゴール前にいいボールが入ってきたが、長い距離を走っていて、大きくふかしやすいシチュエーションだったが、うまく右足でミートしてネットに突き刺した。
ただ、MF清武に関しては、トータルで見ると出来は悪かった。怪我上がりとはいえ、J1の開幕戦の鳥栖戦はまずまずのプレーができていたので、コンディションには問題はなかったと思うが、このチームでは半年ぶりの公式戦で、違和感があったのか、周囲との連携が悪くてミスが多かった。本来、ここまでミスをするような選手ではないが、仕掛けのパスがことごとく相手にカットされて、期待された攻撃の起点となる働きはできなかった。
とはいえ、悪いながらもゴールという結果を残した点は、見事だった。こういう大きな試合で、結果を残せるか、残せないかは、プレーヤーとしての評価に大きくかかわってくる。MF清武らしく無いプレーが多かったので、内容的には物足りなかったが、惜しいところで決められない選手と、チャンスを確実にものにする選手では、これからのキャリアも変わってくる。勝負強さは、これからも持ち続けて欲しいところである。
■ 安定感があったディフェンスライン無失点で抑えることが、最大の目標となる試合だったが、DF濱田とDF鈴木のコンビは安定していた。シリアとの2試合は、ロングボールの対応に苦労することが多かったが、この試合は、守備でのミスはほとんどなくて、相手のチャンスはセットプレーがほとんどだった。チーム発足時から、センターバックが不安視されていたが、予選を通して、二人のコンビネーションは良くなって、個人としてもレベルアップを果たした。
サイドバックでは、DF比嘉は悪くはなかった。もともと、1対1の守備や運動量に特徴がある選手なので、攻撃面で多くを期待することは出来ないが、1点目のシーンはMF原口を生かすパスを出して先制点の起点となった。マレーシアとのアウェーゲームは、自信を失っているのか、ボールを持っても落ち着きがなかったが、この日はパスミスも少なくて、サイドバックとしては及第点以上の働きを見せた。
一方、右サイドのDF酒井宏は、前半から前線で起点ができなかったので、オーバーラップするタイミングをつかめなかった。ただ、独力でサイドを切り裂いてチャンスを作るシーンもあって、まずまずのプレーを見せた。ただ、MF齋藤学がスタメンで起用されたマレーシア戦の方が、サイドハーフとの連携が良かったので、MF清武との連携は、今後、高めていく必要がある。DF酒井宏の攻撃参加は、本大会でも武器となるので、一層のレベルアップを期待したい。
■ 制約の多い中で・・・アウェーでシリアで敗れたときは、ロンドン行きに黄色信号が灯ったが、バーレーンのアシストもあって、何とか、ロンドン行きを決めることができた。欲を言えばキリがないが、制約の多い中で、ロンドン行きの切符を勝ち取った点は評価できる。
ロンドン五輪代表チームが、過去の五輪代表と大きく違っていたのは、海外組の存在である。世代トップを走っているMF香川は、結局、一度も召集されることなく、五輪代表からは卒業したような扱いとなっている。もし、C大阪に残っていれば、五輪代表でも主力となっていたはずなので、チームはかなりの戦力ダウンを強いられた。
また、他にも、FW指宿、MF大津、MF宇佐美、MF宮市といったアタッカーの有望株が海外でプレーしており、思い通りに招集することは叶わなかった。特に、MF大津に関しては、最終予選で切り札的な存在となったが、アウェーのシリア戦、アウェーのマレーシア戦と最も必要だった試合に招集できず、2列目は駒不足に陥った。幸いにして、MF原口とMF齋藤学がスタメンで出場してゴールという結果も残したので、致命的なダメージにはならなかったが、海外組の招集の難しさを感じることになった。
■ ゼロからのスタートもう一つ、今回の五輪代表のチーム作りの難易度が高かった理由として、ベースとなるチームが無かった点が挙げられる。通常の五輪代表は、チーム発足当初は、ワールドユースに出場したチームをベースにチームを作っていく。アテネ五輪代表チームは、2001年のワールドユースの代表メンバーが中心となってスタートし、北京五輪代表チームも、2005年のワールドユースのメンバーが中心となってスタートしたが、この世代は、U-20W杯に出場できなかったので、ベースとなるチームが無かった。
関塚ジャパンが発足したのは2010年の秋だったが、1989年・1990年生まれが中心となった牧内ジャパンがアジア予選で敗退して出場権を逃したのは2008年11月で、関塚ジャパンが発足したのは、2010年の秋だったので、その間、ほとんど、この世代が集まってトレーニングする機会は無くて、全くのゼロからのスタートとなった。五輪代表は日本人監督が続いているが、今回の関塚監督がもっとも苦労したのは明らかである。
したがって、予選落ちの可能性も十分に考えられたので、アジア大会の金メダル、ロンドン五輪出場と、2つの大きなことを成し遂げた点は、素直に評価しなくてはならないだろう。五輪代表監督の人選については、他にもいろいろな選択肢があったと思うが、制約が多い中、関塚監督以上の仕事ができた人は、少なかっただろう。内容的には十分とは言えないので、ベストだったとも言えないが、及第点以上の仕事はできている。
■ ロンドン五輪への期待これで、ロンドン五輪出場が決まったが、本大会まで、この世代の選手が五輪というものを意識して、日々のトレーニングや試合に臨むことができる点が、もっとも大きい。U-20W杯に出場できなかったことで、世界大会に参加するチャンスを失っただけでなく、本大会に向けて強化していく経験ができなかった点は、同じくらいのマイナスで、ここで五輪を逃すと、完全に空白の世代となるところだったので、一安心である。
今後は、オーバーエイジを使うのか、使わないのか、海外組を招集するのか、しないのかなど、いろいろなことを考えていく必要がある。北京五輪のときは、MF遠藤やFW大久保をオーバーエイジで招集しようとしたが、叶わなかった。MF遠藤については体調不良だったので仕方がないが、FW大久保の場合は、早くからチームとコンタクトを取っていれば、本大会に出場させることもできたように思うので、早く方向性を決める必要がある。
今回はなでしこジャパンとのアベック出場となるが、なでしこジャパンは金メダルを狙うことのできるチームなので、その裏で男子だけがグループ敗退に終わるとなると、いい気持ちはしないので、グループリーグ突破が目標となる。現状のメンバーで本大会に臨んだとしても、多くは期待できないが、オールスターのようなメンバーを集めてもチームとして機能しないのは明らかで、さじ加減が重要になる。
実際に、アテネ大会と北京大会は、アジア予選後のチームの組み換えに失敗しており、期待されたような結果を残すことができなかった。したがって、どこまでベースを崩さずに、プラスアルファを加えるか。世界大会なので、ベストを尽くしたとしても結果が出ないことがあるので、成功か、失敗かの判断は難しいが、悔いのないよう強化を進めてほしいところである。
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