■ 代表から引退9月7日のキリンチャレンジカップのグアテマラ戦の少し前から、一部のマスコミで報道されていたとおり、名古屋グランパス所属のGK楢正剛選手が日本代表から引退することになった。14年間の代表キャリアの中で4度のワールドカップメンバーに選ばれた日本サッカー史に残る名ゴールキーパーである。
現在34歳。次のブラジル大会では38歳。GKはほかのポジションと比べると選手寿命は長いとはいえ、34歳から38歳までの4年間というのは、これまでの「4年間」とは全く違ったものになるはずで、「現役引退」もちらつく年齢になってきている。気の遠くなるような長い話だろう。『20歳から代表に選ばれて多くの経験を積んできた。僕が経験したようなことを多くの選手が体験すべきという気持ちになった。』というコメントは彼らしいものである。
■ フリューゲルスでのデビュー奈良育英高校出身のGK楢は、1995年に横浜フリューゲルスに入団。当時の正ゴールだった「レゲエくん」ことGK森敦彦が不祥事で長期出場停止になったことが影響し、高卒入団1年目から出場機会が巡ってきた。このときの横浜Fには、MFジーニョ、MFサンパイオ、FWエバイール、MF前園真聖、MF山口素弘、MF三浦淳宏と多彩なタレントがそろっていて、個性豊かなメンバーが集まっていたが、そのチームに「19歳の守護神」が誕生した。
そういえば、ライバルであるGK川口能活も、入団2年目となる1995年にJリーグデビューを果たしている。当時の横浜マリノスにもGK松永成立というドーハの悲劇を経験した日本代表の守護神がいたが、そのGK松永がソラリ監督と対立してチームを退団し、いきなり、GK川口能活に出番が回ってきた。もちろん、この二人は若いながらも確かな実力を備えていたが、GKというポジションは経験第一のところがある。二人のGKが、チーム内のちょっとしたトラブルが元で出場機会を得るようになった、というのは非常に面白い。
■ 川口・楢時代翌年の1996年には早くも日本代表に招集される。それ以後の日本サッカー界は、「川口・楢時代」に突入する。GK川口能活は国際Aマッチで116試合に出場、一方のGK楢正剛は77試合に出場。ともに4大会連続でワールドカップのメンバーに選ばれている。この記録はおそらくずっと破られることはないのではと思われる。学年はGK川口が1つ上となるが、世界的に見ても稀有ともいえるほどの見事な「ライバル関係」を築いてきた。
一般的には「動の川口」、「静の楢」といわれている。「爆発力のあるGK川口」対「安定感のあるGK楢」。プレースタイルも、性格も、全くキャラクターの異なる二人のGKがずっと日本代表を守ってきた。近年、世界の舞台に挑戦し続けてきた日本代表チーム。我々の記憶に残る代表チームの名試合のほとんどは、GK川口か、GK楢が最後尾から支えていた。
■ 日韓大会の活躍GK楢の代表キャリアのハイライトといえるのは、日韓ワールドカップでの活躍。グループリーグの初戦のベルギー戦の当日になっても、スタメンで出場するのが、GK川口なのか、GK楢なのか、分からなかったが、トルシエ監督が選んだのはGK楢正剛。その期待に応えたGK楢は、4試合で失点はわずかに3点のみ。ワールドカップ初勝利とワールドカップ2勝目を日本にもたらした。
もうひとつ印象的なのは、A代表の試合ではないが、限りなくA代表に近いタレントが集まっていたシドニー五輪での闘い。オーバーエイジで参加したGK楢はベスト4入りをかけたアメリカ戦で試合中にDF中澤と衝突。流血しながらも、120分間、最後までゴールを守った。クールなイメージがあったGK楢だったが、そのギャップが強く印象に残った。
■ お疲れ様GKというポジションは特殊であり、一度、ポジションを失うとなかなか挽回の機会がめぐってこない。4大会でワールドカップメンバーに選ばれたGK楢も、フランス大会、ドイツ大会、南アフリカ大会はベンチから試合を見守るしかなかった。南アフリカ大会でも直前まで正GKだったが、GK川島が調子を上げてきたこともあって、レギュラーから降格してしまった。
とはいえ、多くの人は、今なお、「楢正剛が日本で№1のGK」だと思っていることだろう。劣勢の展開になることが予想された南アフリカ大会でGK川島を抜擢したことは岡田采配のヒットだったが、「相手チームのゴールを守るのがGK楢崎正剛であることの絶望感」は、(横浜フリューゲルスと名古屋グランパスのサポーターを除く、)ほとんど全てのJリーグサポーターが体験していることだろう。
率直に言うと、非常に残念である。GK川島はベルギーリーグのリールセに移籍したことで、毎回、代表に呼ぶことは不可能になった。「それでも楢がいるから大丈夫」と思っていたが、戦力ダウンは間違いない。(ザック新監督は、まだ気づいていないかもしれないが・・・。)これは大きな穴であり、サンフレッチェ広島のGK西川、柏レイソルのGK菅野、FC東京のGK権田といった選手のいっそうの飛躍が期待されるところである。
ハラ・ジャパンの2試合目。そして、カターニャのFW森本貴幸が2ゴールの活躍を見せて、未来につながる試合となったグラテマラ戦。その裏で日本代表の1つの時代が終焉した。
関連エントリー1973 2010/02/28
【PSM:名古屋×岐阜】 大型補強の効果は??? (生観戦記#3)1980 2010/03/06
【G大阪×名古屋】 誰がムーを止めるのか?1991 2010/04/03
【名古屋×神戸】 ブルザノビッチの2つのフリーキック1998 2010/04/17
【名古屋×新潟】 黒崎新監督のスタイルとは?2007 2010/04/25
【C大阪×名古屋】 サプライズ召集は家長で・・・2013 2010/05/09
【仙台×名古屋】 ケネディに救われた試合2019 2010/05/19
【J1】 ベストイレブン 2010年版 (序盤戦)2034 2010/06/06
【ナビスコ:仙台×名古屋】 ユアテックスタジアム初体験記 (生観戦記 #5)2076 2010/08/01
【横浜×名古屋】 復調気配の中村俊輔2037 2010/06/08
Over-34 日本代表チームを考える。
- 関連記事
-