【言論StrongStyle】(247) 自民が“脱税”で立憲民主が“野田”…選択肢が無い!
自民党の決まり文句である。「この内外の情勢が厳しい時に、安定政権が求められる」。だから、何があろうと野党に権力を渡してはならない。自分達の政権を認めてくれ――と続く。では、本当に国際情勢は日本にとって厳しいのだろうか。
日本時間の11月5日から6日にかけてアメリカ大統領選挙が行なわれて、ドナルド・トランプが返り咲いた。では、これで日本の対米政策が大きく変わるか。あまり変わらない。アメリカでは内政の分断が甚だしいが、「中国に世界の覇権を渡してもいい」とは流石に誰も言えない。世界中でかかりきりのアメリカにとって、「インド太平洋は日本が何とかしてくれ」が国策なのだ。
幸い日本は、ウクライナ事変を機に防衛計画を抜本的に見直し、防衛費倍増に乗り出した。アメリカにとっての“戦力外通告寸前”の状況を脱する方向に動き出したのだ。これを「急げ」と言われる段階でもないし、況してや「止めろ」とは言われない。また、北朝鮮は南の併合を諦めたので、半島有事はあり得ない。中国が明日にも台湾に侵攻するなど超マイナーシナリオだ。千歩譲って半島や海峡で紛争が発生しても、物理的には対岸の火事だ。
こうした状況で、“内外の危機”など何の話なのか。少なくとも国際情勢を理由に、「野党に政権を渡すな」は通用しない。言われなくても、デフレターゲットを公約に掲げる立憲民主党に投票などしたくないのが日本国民の本音だが。
自民党は「裏金ではない。単なる記載漏れだ」と強弁するが、法律的にはその通り。だが、同じことを庶民がやれば脱税だろう。そういう法の不備で開き直る姿が道徳的にどうなのかと問われているのに、「法律に従って適切に」等と怒りに火を注ぐ。法律は所詮、最後に出た結論に過ぎない。
その法律を作ったり変えたりするのが政治家の役目なのだが、最後に出た結論に従うだけなら政治家はいらない。どういう結論を出すかの哲学が政治家には求められているのであって、それ以前の道徳はどうなっているのか。そうした姿勢が有権者に見透かされているのに気づかないなら、重症だろう。
しかし、いくら自民党に批判的でも「日銀の経済成長率の目標を2%から0%超に下げます」等とデフレターゲットを掲げられたら、立憲民主党の野田佳彦代表に首相になってもらいたい等とは思えない。“政治とカネ”が争点になるということは、裏を返せば経済が悪いから問題にされるのだ。恐らく、こんな公約を掲げた人達は、自分が「日本経済を潰します」と公言していると気づいていないのだろう。つくづく、この党の真人間には同情する。
自民が“脱税”で立憲民主は“野田”なら選択肢が無い。今までなら政治そのものに不信を抱いてきたのが日本国民だが、今回は大きく変化した。種々の不手際で失速する第三党の維新を尻目に、国民民主党が4倍増の躍進を遂げた。公約は“手取りを増やす”でわかり易い。
今の選挙制度では、選挙区は地元事情があるが、比例区では真の支持政党に投票できる。10月27日の選挙は、そうした声が反映された絶妙な結果となった。自民党は67議席減の191。過半数割れの大敗となった。仮に相手の野党第一党が“鳩山由紀夫くらいの真面な人”なら、即座に政権交代だっただろう。これで済んだだけ、自民は野田佳彦氏に感謝すべきだ。
悲惨なのが公明党。“裏金議員の仲間”と思われ、8議席減の24。結党以来初の第五党に転落した。石井啓一代表までが落選で、立て直しの道は険しい。政権交代の声だけは勇ましかった立憲民主は、50議席増の148と伸び悩み。泉健太前代表は「150を切ったら辞任する」と公言していた。その前代表を引きずりおろして、この数字。まさか無かったことにする気か?
維新は6議席減の38。微減だが、大阪の小選挙区で全勝の19勝がなければ大敗だ。既に責任問題となっている。議席数は国民民主より多いが、他の党は維新の誰と話していいのかわからず、キャスティングボートを握れない。国民民主党は21議席増の28。本当は比例でもう3議席だったが、候補者が足りず返上に。
全465議席中、与党系が無所属も入れて221。未だ過半数に11足りない。誰も過半数を持っていないハングパーラメント(※絶対多数党不在議会。直訳すれば宙ぶらりん議会)の出現だ。要するに、有権者は“1.5大政党”に辟易していた。自民党が万年与党で、歴代野党第一党があまりにだらしないので、二大政党ではなく“1.5大政党”。
過去の自民党は、過半数割れをしたら野党の誰かを連立に加えて政権を延命させてきた。しかし、新自由クラブ以来、自民と連立を組んだ政党は全て次の選挙までに消滅した。例外は公明のみ。だから維新も国民民主も連立入りを拒否する。抑も、マスコミは「誰を連立に加えるか?」で盛り上がっていたが、直近の選挙での反対党に有権者への裏切りを推奨している。
逆に、“非自民野党連合”を煽るのも同じ。野党といっても、理念も政策も異なる者同士。誰一人、“選挙後に野田首相”等と約束していない。だから、こちらも有権者への裏切りとなる。こういう場合、即座に再選挙は許されないが、早期再解散が常道だ。日程的に、年内は不可能。3月までは予算を通さねばならない。
夏には都議選、7月には参院選がある。だったら与野党で「来年夏を衆参同日選挙にする」と約束し、それに向けて双方が準備すればいい。抑も、両院とも選挙で選ぶのに、同日選挙にしないほうがおかしい。最初から期日を決めて、与野党共に準備をすればいい。与党は石破さんに予算を通してもらって、新総理で解散。野党は独自に選挙準備しても政界再編してもよし。
現在、国民民主は“103万円の壁”を突きつけている。税の負担控除額が低過ぎるので、働き控えが起きている。そこで最低賃金に合わせ、178万円に引き上げる。与党は「税収が減る」と反対だが、それ以上に経済成長すればいいではないか。引き算だけで、足し算はないのか。これがどうなるか、見ものだ。大国に戻る気分で構えていよう。
倉山満(くらやま・みつる) 憲政史研究家。1973年、香川県生まれ。中央大学文学部史学科卒。同大学院文学研究科日本史学専攻修士課程修了。在学中の1999年から2015年まで国士舘大学日本政教研究所非常勤職員。2012年に『希望日本研究所』所長、ウェブ配信サービス『倉山塾』開講。2013年に『YouTube』上に『チャンネルくらら』開局。『国際法で読み解く世界史の真実』(PHP研究所)・『右も左も誤解だらけの立憲主義』(徳間書店)・『工作員・西郷隆盛 謀略の幕末維新史』(講談社)・『桂太郎 日本政治史上、最高の総理大臣』(祥伝社新書)等著書多数。
2024年11月19日号掲載