【言論StrongStyle】(234) 私は“日本一の泉健太御用言論人”を買って出ている
一時、デマが流れた。皇位継承問題の与野党協議を、立憲民主党を代表する野田佳彦・馬淵澄夫の両氏がぶち壊したと。多くの当事者に「本当ですか?」と確認を取ると、「何の話か」と皆が皆、怪訝な反応だった。早く議事録を公開してほしいものだ。事実、衆参両院の正副議長が、各党会派の代表から個別にヒアリングを続けている。額賀福志郎衆議院議長、非常に熱心だ。
別に動きは止まっていない。ただ、一部の喧嘩腰の人達の難癖に、政府も困っているようだ。難癖の第一は、女性宮家を創設せよ。それは最初から政府は想定しているので、喧嘩腰を控えればいいのに。問題は、配偶者が民間人の男性の場合、皇族の身分を与えよだ。そんな先例にないことをできるわけがない。国体の破壊だ。
どうしても女性宮家の当主が「一般人の男性と結婚したい」と仰られたら、その場合は准皇族しかないとの結論は、6月11日号の本連載で述べておいた。この提言を、各党会派のヒアリングで、6月14日に有志の会が、19日に国民民主党が両院正副議長に申し入れてくれた。ありがたい。これで“一般人の男が皇族になる”事態は阻止できるだろう。
皇位継承問題に関し、自民・公明・維新・教育無償化の会・国民民主・有志の会・NHK党・参政党と、政界の圧倒的多数が足並みを揃えている。共産党・社民党・沖縄の風は「ジェンダー平等から男系男子限定を止めろ」とかき乱しているが、衆議院で十数人、参議院で15人程度しかいない超少数派。
マスコミは皇室を玩具にしようと「今直ぐ愛子天皇を、女系天皇に道を開こう」等と煽っても、真面な政治家の議論では通用しない。その証拠に、立憲民主の意見書でも、そんな恥ずかしい意見は盛り込めなかった。因みに、れいわ新選組は独自路線。ここで「野党第一党の立憲民主が圧倒的多数に合流してくれれば、与野党協議はもっとスムーズに進むのに」との声も聞く。
これには立憲民主の特殊な事情と、泉健太代表の涙ぐましい努力を踏まえた上での解説が必要だろう。最初に断っておく。私は“日本一の泉健太御用言論人”を自認している。その立場からのポジショントークと受け取っていただいて結構。然も公平中立を装いながら、議論を捻じ曲げるような輩と思われたくないので。
民主党政権が潰れてから、自民に対し歴代野党第一党は、どれほどの勝利を献上したか。その歴代野党第一党が、当の民主党と後継政党である民進党、そして立憲民主党だ。歴代代表が野田佳彦・海江田万里・蓮舫・枝野幸男――。最近の例だと、2019年参院選で、安倍晋三率いる与党・自民党が「増税をやり抜く!」を第一の公約に掲げた。
これに対し、嘗ての土井たか子だったら「増税反対!」で国民世論のうねりを起こしただろう。ところが、この時に立憲民主が前面に打ち出したのが選択的夫婦別姓とLGBTだ。 先日の党首討論で、泉代表が夫婦別姓をいの一番に聞いたのは、こういう党内事情があるからだ。
別に、私とて少数派の権利保護やジェンダーギャップの改善に理解がないわけではない。しかし、政治にはその時点での優先順位がある。与党が増税を訴える選挙で、多数の国民を無視した公約を掲げてどうするのか。一事が万事この調子で、与党に勝ち星を献上し続け、安倍内閣を史上最長不倒の政権にしてあげた。
私は本気で「コイツら、自民党からカネを貰って態と負けてあげているんじゃないのか?」と疑ったが、どうやら違うらしい。嘗ての左翼や共産主義者とも違う、異質な価値観の持ち主の集団なのだと気づいた。確かにリベラルっぽい主張を唱えるが、あくまで“ぽい”なのだ。
自民は包括政党と言われ、右から左まで幅広く取り揃えている。右の高市早苗さんから左の野田聖子さんまで。それでも最近は“自民党らしさ”が強調され、“保守っぽく”なっているが。しかし、立憲民主の幅広さをナメてはいけない。野田さんより左もいれば、高市さんより右もいる。“革命家から尊皇家まで”と呼ばれる所以だ。因みに、私は革命家の方を見たことはないが、“立憲民主党尊皇派”とは密に交流している。
2021年総選挙で、当時の枝野幸男代表が国民民主や社民に解党を迫り、共産には「支援はしろ、姿は隠せ」と野党大結集の名目で横暴の限りを尽くしたにも拘わらず、議席を減らす大惨敗。それでもコアな“枝野信者”から「枝野さん辞めないで」の声が殺到したが、流石に辞任せざるを得なくなった。
そこで、党を分裂させない人柄の良い人物として、泉健太が代表に選ばれた。この党では珍しく主張を強く出さず、敵がいない。29歳と若くして衆議院議員に当選して、当選8回。だから、周りが“年上の部下”ばかり。遠慮せざるを得ないので、調子に乗る議員が後を絶たない。現に、政権獲得が見えてきた途端に、「泉じゃ頼りないから、政権担当可能な代表に代えよう」等と言い出す連中がいる。
このような状況下で、泉は涙ぐましい努力をしている。第一、マクロ経済政策。『日本銀行』総裁人事で、他の政党が軒並み「植田和男さんなら金融緩和による景気回復政策を続けてくれる」と賛成する中で、立憲民主だけは「植田さんなら金融緩和を止めてくれる」と賛成。因みに、植田総裁の方針は“金融緩和を無理なく止める”なので、矛盾はない。
第二、防衛費倍増。賛成と反対の双方を意見書に。党の見解を、何を言っているかわからないようにして、実質的に政府の方針に賛成。第三、皇位継承。賛成と反対の双方を意見書に。党の見解を、何を言っているかわからないようにして、女系天皇推進を粉砕。つまり、泉代表だから国家基本政策に関し、狂った方向に行かせていないのだ。実に涙ぐましい。
ところで、30年来の仲なので、“日本一の泉健太御用言論人”を買って出ているが、2人目がいない。早く2位になりたい。安倍晋三も枝野幸男も敵は多かったが、熱烈な味方もいた。野党の纏め役は“敵がいない”で構わないが、それだけでは先がない。途中経過で小突き回されても、最後は譲らない頑固さがある…という点を誰が知っているだろうか。
倉山満(くらやま・みつる) 憲政史研究家。1973年、香川県生まれ。中央大学文学部史学科卒。同大学院文学研究科日本史学専攻修士課程修了。在学中の1999年から2015年まで国士舘大学日本政教研究所非常勤職員。2012年に『希望日本研究所』所長、ウェブ配信サービス『倉山塾』開講。2013年に『YouTube』上に『チャンネルくらら』開局。『国際法で読み解く世界史の真実』(PHP研究所)・『右も左も誤解だらけの立憲主義』(徳間書店)・『工作員・西郷隆盛 謀略の幕末維新史』(講談社)・『桂太郎 日本政治史上、最高の総理大臣』(祥伝社新書)等著書多数。
2024年7月2日号掲載