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一知半解なれども一筆言上

山本七平マンセーブログ。不定期更新。

アントニーの詐術【その7】~問いかけの詐術~

前回は、(一)編集の詐術によって、判断が規制されてしまい、扇動に乗せられる第一歩であることまで説明がありました。
今回は、アントニーの詐術の(ニ)問いかけの詐術についてご紹介していきたいと思います。

話は横道にそれたが、ここでアントニーの原則の(ニ)問いかけの詐術に入ろう。

一体「問いかけ」とは何であろうか。

原則からいえば「自分に理解不明のことをだれかに質問すること」が問いかけのはずである。

従ってアントニーとアンチ・アントニーが並立していて、聴衆がどちらを正しいと判定しているかわからないときには、アントニーが聴衆に問いかけてもおかしくない。

しかしアントニーは、一方向に向って、一定の基準で編集した事実を並べ、それで聴衆の判断を規制して、一定の方向へ導こうとしているのだから、「問いかけ」なぞあるはずはない――しかし問いかけている。

用心した方がいい、こういうあやしげに問いかけをする者は必ず扇動者なのだから。

(一)編集の詐術はまだいい、しかし(ニ)が加わったら必ず扇動者である。

一体この「問いかけ」の実体は何であろうか。簡単にいえば、実はそれは「問いかけ」でなく、わざと結論をいわないことによって、聴衆の「判定の規制」を誘発する方法なのである。

このアントニー型の「問いかけ」は、絶対に「質問」と同一視してはならない

いうまでもなく、一定方向に編集された「事実」は、すでに一種の「並列的な」「確定要素」の「連続」になっている。そしてその一つ一つの「事実」は確定要素という点では、数字と同様な動かしがたい要素となっている。

従って事実+事実+事実……という図式は1+1+1という形に似ているわけである。
1+1=2は子供でもわかることだが、これをわざと、「1+1ではないでしょうか?」という言い方をする。

これが詐術なのである

聴衆は内心で「2だ」とする。ところがこの場合、2以外の答えは出ない。しかし聴衆は「自分で、自分の自由意思で、自分で判断して、自分で結論を出した」と錯覚するのである。

そしてその錯覚を見とどけてから「さらにプラス1ではないでしょうか」と「問いかけ」る。聴衆は「3だ」と結論を出す。

このようにして次々と「さらにこの事実があります」「さらにこの事実があり」すなわち「プラス1、さらにプラス1」という言い方をし、その間に、「たとえ〝一方的″なように見えても、事実をただのべていくと、そういう結果が出てきてしまうのは当然ではないでしょうか」といって、そのときの総計を相手に確認させる。

聴衆は自分で確認したのだから、この総計は自分で動かせなくなる。そうやっていくと数字の総計はついに臨界値に達し、そこで連鎖反応を起し、ついに爆発するわけである。

ところがここにアンチ・アントニーがいるとそうはいかない

アントニーが「1+1ではないでしょうか?」というとすぐアンチ・アントニーはそれに反する事実をあげて「(-1)+(-1)ではないでしょうか?」というからである。

従ってこれをいわれては扇動者はどうにもならない

そこで、アンチ・アントニーを黙らすため、あらゆる手段をとるのである。その一つがいわゆる「きめつけ」「レッテルはり」「罵詈讒謗」「ダマレー」等で、これは軍人的断言法の直接話法の一つの型だが、実は最も拙劣な例で、立派(?)な軍人はもっと巧みであった。だがこれについては次にゆずる。

(~次回へ続く~)

【引用元:ある異常体験者の偏見/アントニーの詐術/P101~】


扇動者の「問いかけ」というのは、「質問」とはまったく違うものだ、という山本七平の指摘は、実に鋭いなぁ…と私は感心してしまいます。
この「問いかけ」のテクニックは、人間の心理を利用した誘導術とでもいうのでしょうか。素直で真面目な人ほど引っかかりやすそうな気がしますね。

編集された事実を並べ、問いかける。そしてアンチ・アントニーを排除する。
確かにこのような環境に陥れば、誰しも自分の判断が規制され誘導されても不思議ではないでしょう。
次回は、こうした扇動の仕上げとして、(三)一体感の詐術についてご紹介する予定です。
お楽しみに。


【関連記事】
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★アントニーの詐術【その2】~日本軍の指揮官はどのようなタイプがあったか?~
★アントニーの詐術【その3】~扇動の原則とは~
★アントニーの詐術【その4】~同姓同名が処刑されてしまう理由~
★アントニーの詐術【その5】~集団ヒステリーに対峙する事の難しさ~
★アントニーの詐術【その6】~編集の詐術~
★アントニーの詐術【その8】~一体感の詐術~


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