しかし、相変わらずネット上を観察していると、ただちに原発を停めろという人たちが無責任にわめいていますね。
こうした過激な連中を見ていると、やっぱり反原発というのは胡散臭く見えて仕方ない。
風力発電とか太陽光発電で代替できると盛んに喧伝しておりますが、これってまるで新興宗教の勧誘みたいなものでしょう。
そもそもそれが本当に実現可能なら、今からでもただちに代替手段として検討され、そして実行に移されている筈でしょうに。
ところが現実的には、そのように物事が運ばない。
そうなると、それを阻んでいる「悪玉」があるはずだと思いこむ。
(実際は、「現実」が阻んでいるに過ぎないのだが…)
利権構造・官僚組織・マスゴミ・アメリカの陰謀、etc…。
こういう「悪玉」に責任を転嫁して「現実」から逃避する。
そうした人たちと議論すると、えてしてYESかNOかの、二者択一の議論を迫られることになるわけですが、そこで本日の本題。そうした議論に陥る愚について触れている山本七平のコラムをご紹介しておきましょう。
「常識」の非常識 (文春文庫)
(1994/01)
山本 七平
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■「二者択一以外」の道
肺炎で一ヶ月ほど入院した。
やや快方に向かい、軽いものなら読んでよろしいという医師の許可が出たので、内外の軽いニュースを読んでいるうちに面白い記事にぶつかった。
日本にもカモシカ問題がある。
同じようにどの国でも、絶滅に瀕した動物を保護すると、急速に増加するが、今度はその動物による食害問題が起こる。
すると、保護をやめて一定数以上は射殺・捕獲すべきか、あくまでも保護すべきかが当然の問題になる。
日本でも檜の苗木をばりばり食べられてしまえば、山林業者にとってはカモシカは害獣ということになるであろう。
保護をつづけるなら、山林の保護をどうするか、業者への損害保障はどうすべきかが当然に問題となる。
そしてこういう場合、論議はしばしば保護か、捕獲・射殺かの二者択一になりやすく、多くの場合、両者とも自説を固持して譲らないという対立になりやすい。
イスラエルにもガゼルの問題がある。
これはおそらく最も美しい動物だが、同時に肉がこれまた「天国の味」といわれるほど美味だそうで、そのため乱獲されて絶滅寸前になった。
ところがイスラエル独立とともにその保護がはじまり、急速に増殖したが、こまったことにこのガゼルの好物がトウモロコシの苗なのである。
はじめはなかなか人里に近寄らなかった彼らも、人間が絶対に害を加えないことを知ると、平然と農場に入ってきて、トウモロコシの苗をばりばり食べるようになった。
その全国的な食害は総生産の一割に達するというから、問題は深刻である。
この問題をどう解決すべきなのか。
ある農場の管理者があるときふと、彼らは猛獣を恐れるはず、そして多くの猛獣は糞または尿で自分のテリトリーを示すはずだと気づいた。
そこでテルアビブのサファリからライオンの糞をもらって撒いたところ、ガゼルはぴたりと来なくなった。
だがそれからが大変である。
というのは、それを聞いた農場主がみなライオンの糞をもらおうとサファリに来たのだが、残念ながらこれだけは「大増産」というわけにはいかない。
そこでライオンの糞の合成を研究することになった。
以上が記事の要旨で、ライオンの糞の合成というところで、何となくおかしくて笑ってしまった。
だが、さてと考え直すとこの解決法には面白い示唆が含まれている。
直接的には日本のカモシカ問題にも参考になるであろう。
というのは、何かカモシカが嫌いかつ恐れるにおいを、檜の苗木もしくはその周囲に撒いておけば、捕獲か保護かという二者択一のほかの第三の道が開かれるということだ。
だが、この第三の道を探すという解決法は、何もガゼル問題に限られているわけではない。
入院の直前に臨教審の第一部会が教育の自由化を主張し、これに対して第三部会長が「斬り死にしても阻止する」と言ったというニュースがあった。
「やれやれ、これでは教育の自由化の前に臨教審における論議の自由化が必要だな」と思った。
というのはこれでは、教育を自由化するか、おれを斬り死にさせないか、の二者択一となるが、この二者択一の前には議論は成立しないからである。
問題はしばしば二者択一という形で捉えられる。
だが本当に二者択一という問題は現実の世界にはない。
ただこれが最も把握しやすい形のため、どちらか一方を採らざるを得ないという思考の枠に人間を誘導しやすいというだけである。
簡単にいえば、臨教審のように、さまざまな分野の人を集めて論議させるということは、ライオンの糞の合成ではないが、二者択一以外の第三の解決法がありうることを前提としているはずである。
もちろんこの問題は臨教審だけでなく、すべての問題についていえる。
環境問題、貿易問題、また企業内の問題、各人の抱える問題、そのすべてについて、問題が二者択一のように見えてきたら、そのいずれでもない第三の道があるのではないか、ともう一度、探索してみる必要があるであろう。
【引用元:「常識」の非常識/「二者択一以外」の道/P231~】
私もこうした人たちと議論していると、どうしても「二者択一の選択」を迫られ、何を言っても敵と認定されてしまう事が多いように思います。
一旦そうなってしまうと、幾ら指摘しようが全て陰謀に操られているとか洗脳されていると勝手に決め付けられてしまうこともしばしば。
困ったもんです。
山本七平が指摘するように、少なくとも第三の解決法を求めてみて、それがどうしてもダメなら二者択一へと進むような姿勢を取りたいものですね。
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