特に反米派なんか、これで日本の属国ぶりが露わになったとか大騒ぎ。
なかでも天木直人のブログ↓なんか、気負っているというかなんと言うか、見ていてこちらが恥ずかしくなるようなことを書いている。
◆ウィキリークスの判断基準は、「お前は権力側に立つのか、弱者の側に立つのか」、だ。
http://www.amakiblog.com/archives/2010/12/05/#001762
しかし、天木氏が言うように、「権力vs反権力」という単純な”構図”で割り切れる問題ではないだろ…と思うんですよ。
そもそも、権力側が常に「悪」で、反権力が「正」とは限らないじゃないですか。
権力側の秘密を暴くことが、常に良い結果を生むとは考えられないですし、何でもオープンにすれば良いわけでもない。
外交交渉なんて、そもそもオフレコなのが基本なんだし、交渉している最中の内容を暴露することは、結果としてその交渉をぶち壊すことにしかならない筈。
やはり交渉内容を情報公開するにしても、ある程度の経過期間をおいてからにすべきなのであって、それが賢明なやり方というものでしょう。
もちろん、内部告発の有効性を認めないわけではないが、あくまでも公益性との比較考量で判断する必要があると思いますね。
そんなことを考えていたら、次のようなニュース↓も報道されました。
◆ウィキリークス:米関連の重要施設暴露 日本海底ケーブルも
http://mainichi.jp/select/world/news/20101207dde007030041000c.html
これ↑なんかどうみてもヤバイですよ。
何でも情報公開すればいいってものではない格好の見本でしょ。
これで仮に重要施設がテロに遭ったとしたら、ウィキリークスは責任取る覚悟があるのか?
取るつもりなぞ彼らにさらさら無いでしょうに。
私が思うに、ウィキリークスの行為は、明らかにやりすぎだしモラルに反している。
権力に立ち向かっているからといって、必ずしもそれが正義だとはいえない。
そもそも、ウィキリークスの代表者のジュリアン・アサンジ氏だって、自らのプライバシーはあるだろうし、それを暴かれるのは嫌な筈。
それなのに、そうした人物が、正義の代理人をよそおい「我に正義あり!」と称し、(国家権力とはいえ)他者のプライバシーを一方的に暴く権利があるだろうか?
また、情報提供者が「不正に」入手したにも関わらず、匿名で安全に告発できてしまう事の「是非」を考えることも必要ではないのか?
個人的には、これはもうモラル・ハザードの域に達していると思う。
こうした問題点をないがしろにしたまま、権力と戦うのだから…と内部告発行為を正当化する行為こそ、「(正しい)目的は、(不正な)手段を正当化する」典型でしょう。
しかしながら、それは結局、(情報公開という)目的を貶めるだけに終わってしまうでしょう。
却って、正当な内部告発すら、いかがわしいものに思われてしまうようになるんじゃなかろうか。
だからこそ、不正な行為を(情報公開という)目的を以って、正当化することは厳に慎むべき。
ある意味、今回の件は、権利の濫用に似た感じを受けますね。
もう一つ、ウィキリークスの主張に感じてならないのが、正義の仮面を被った者が放つ「独善性」。
マスゴミの傲慢さに非常に似たものがある。
そもそも、ウィキリークスの行為は、全くの「善意」から出ているのだろうか?
彼らも人である以上、「偏向」は避けられないはず。
ウィキリークスの意図に沿った告発情報しか開示していない恐れは十二分にありえる。
彼等の正義の代理人ぶりに惑わされず、そうした点にも注意を払う必要があると思います。
そうしないと簡単に扇動されてしまうことになりますからネ。
事実、ウィキリークスの所業に何の疑問も感じずに喝采を送っている人達は、もうすでに扇動されかかっていると思う。
前述の天木氏や、フリージャーナリストの岩上安身氏なんか、いい例じゃないだろうか。
なにはともあれ、情報公開が絶対善とか、権力に都合の悪い事をすることが絶対善だとかいう「勧善懲悪」の視点から、この問題を捉えるのは間違っていると思う。
むしろ、モラル・ハザードという面から考えて見るべきでしょう。
そこで参考にしたいのが、アメリカの国務長官だったキッシンジャーの主張。
過去記事『オフレコ破りという「禁じ手」を使ってまで民主党を応援するマスコミ』でも紹介したことがありますが、この問題を考えるに当たって非常に参考になると思いますので山本七平著「日本はなぜ敗れるのか」から再掲しておきます。
日本はなぜ敗れるのか―敗因21ヵ条 (角川oneテーマ21)
(2004/03/10)
山本 七平
商品詳細を見る
(~前略)
先日あるアメリカ人の記者と話し合った。
私は、キッシンジャーが、日本の記者はオフレコの約束を破るからと会見を半ば拒否した事件を話し、これは、言論の自由に反することではないか、ときいた。
これに対して彼は次のようなまことに面白い見解をのべた。
人間とは自由自在に考える動物である。
いや際限なく妄想を浮べつづけると言ってもよい。
自分の妻の死を願わなかった男性はいない、などともいわれるし、時には「あの課長プチ殺してやりたい」とか「社長のやつ死んじまえ」とか、考えることもあるであろう。
しかし、絶えずこう考えつづけることは、それ自体に何の社会的責任も生じない。
事実、もし人間が頭の中で勝手に描いているさまざまのことがそのまま活字になって自動的に公表されていったら、社会は崩壊してしまうであろう。
また、ある瞬間の発想、たとえば「あの課長プチ殺してやりたい」という発想を、何かの方法で頭脳の中から写しとられたら、それはその人にとって非常に迷惑なことであろう。
というのはそれは一瞬の妄想であって、次の瞬間、彼自身がそれを否定しているからである。
もしこれをとめたらどうなるか、それはもう人間とはいえない存在になってしまう。
「フリー」という言葉は無償も無責任も意味する。
いわば全くの負い目をおわない「自由」なのだから、以上のような「頭の中の勝手な思考と妄想」は自由思考(フリー・シンキング)と言ってよいかもしれぬ。
いまもし、数人が集まって、自分のこの自由思考(フリー・シンキング)をそれぞれ全く「無責任」に出しあって、それをそのままの状態で会話にしてみようではないか、という場合、簡単にいえば、各自の頭脳を一つにして、そこで総合的自由思考をやってみようとしたらどういう形になるか、言うまでもなくそれが自由な談話(フリー・トーキング)であり、これが、それを行なう際の基本的な考え方なのである。
従って、その過程のある一部、たとえば「課長をプチ殺してやりたい」という言葉が出てきたその瞬間に、それを記録し、それを証拠に、「あの男は課長をプチ殺そうとしている」と公表されたら、自由な談話というもの自体が成り立たなくなってしまう。
とすると、人間の発想は、限られた個人の自由思考(フリー・シンキング)に限定されてしまう。
それでは、どんなに自由に思考を進められる人がいても、その人は思考的に孤立してしまい社会自体に何ら益することがなくなってしまうであろう。
だからフリー・トーキングをレコードして公表するような行為は絶対にやってはならず、そういうことをやる人間こそ、思考の自由に基づく言論の自由とは何かを、全く理解できない愚者なのだ、と。
(後略~)
【引用元:日本はなぜ敗れるのか/第十二章「自由とは何を意味するのか」/P309~】
天木直人氏や岩上安身氏のように”勧善懲悪”の視点に立って、こうした内部告発・情報流出を無条件で礼賛していると、その結果、キッシンジャーが指摘するように「思考の自由に基づく言論の自由」そのものが失われてしまうんじゃないだろうか。
却って自由にモノを言えない時代が到来するのかもしれない。
従来の権威が崩壊し、国家の統治能力が衰え、混乱の時代が到来するのかもしれない。
モラル・ハザードによって、相互不信の時代が到来するのかもしれない。
兎にも角にも、世界中に一瞬のうちに秘密が暴露されてしまう時代になってしまった。
これも情報化社会がもたらす必然なのかもしれないが、それがもたらす結果というものは必ずしも良い結果をもたらさない…ということを我々は覚悟せねばならないのかもしれない。
一体、こうした時代の潮流に、我々はどう対処していけばいいんでしょうね…。
実に難しい課題であります。
【関連記事】
◆オフレコ破りという「禁じ手」を使ってまで民主党を応援するマスコミ
◆アントニーの詐術【その6】~編集の詐術~
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