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一知半解なれども一筆言上

山本七平マンセーブログ。不定期更新。

アントニーの詐術【その2】~日本軍の指揮官はどのようなタイプがあったか?~

前回は、教祖型の解説を引用したところで終わりましたが、今日はその続きを紹介して行きます。
まずは、山本七平が一番辟易した型、叱咤・扇動型から、暴行・威圧型、技能型まで。

第二がいわば叱咤・扇動型である。

叱咤と扇動とはその内容が違い、扇動については後述するが、この型はほぼ叱咤を併用したので――これがいわば軍人的断言法の直接話法の一つ――まとめて一つの型にしておこう。

代表的な有名人をあげれば、辻政信参謀であろう。

この型は相当多く、いたるところに小型政信が存在したが、特に前述の秀才参謀にあった型で、本人は自分をどう思い、どう自己評価しているか知らないが、末端の部隊の本部付にとっては全く疫病神のような存在であった。

この型にはもう全くまいった
これこそ「日本軍なるものの欠点」を一身に具現しているタイプだと思ったのは、私だけではあるまい。

全く世の中には私の常識では到底判断がつきかねることが多い。

「俺を殺すやつこそ殺人罪だ」といっている『百人斬り競争』の向井少尉を処刑場におくり、三十年後にその人を殺人鬼に仕立てあげて再登場させたかと思えば、その同じ新聞が、少なくとも軍の内部では「実はあの男が多くの虐殺事件の本当の責任者なのだ」という定評のあったその参謀を、勝手に大戦略家に仕立てあげ、参議院議員にしてしまう

――一体全体これはどうなっているのだろう。私には全くわけがわからない。――話は横道にそれたが、この型の指揮官の部隊は、好調のときはいいが、逆境に弱く、すぐ潰乱するといわれた。

第三が暴行・威圧型で、よく例にひかれるのがビルマの花谷師団長である。

詳細は高木俊朗氏が『戦死』に書いておられるから省略するが、簡単にいえばだれかれかまわず撲りつけどなりつけ、「腹を切れ」というだけではなく本当に自殺に追いこみ、下級将校はもちろんのこと連隊長でも兵器部長(大佐)でも容赦せず、しかも傲慢無礼のありったけをして、団隊長会議などでは、両足を長靴のままテーブルの上にあげて司会するといった傍若無人ぶりで、徹底的に他の人格を無視し、いわば「恐怖政治」で統率していく型である。

この型は、戦後よくとりあげられるので、日本の軍人の典型のように思われがちだが、私はこれもむしろ例外ではないかと思っている。だがこの型の指揮官にひきいられた部隊は、案外苦戦に強いのである。一種「スターリン政権の強固さ」に似た面があるのだと思う。

戦争中は日本軍の将校はみな一型(教祖型)のように書かれ、戦後は三型(暴行・威圧型)のように書かれるわけであろうが、新聞だねとか話題になるのはいずれの時代でも例外なわけで、一番多かったのが第二(叱咤・扇動型)+第三型であったと思う。

もちろんこういった分け方は便宜的類型的な分け方だから、一型を気取り、実質的には二型で、これに三型を加味するというのが最も平均的なタイプであったと思う。

だがいろいろ考えてみると、これはただ軍人だけではないようにも思う。

このほかにいわば「技能型」ともいうべき第四の型もあった。これは特科部隊にある型で、一般社会の「一芸に徹した人」にあるタイプと同じであり、従って、部下はみんな「弟子」になるわけである。

私の部隊長はこのタイプで、この型が私には一番親しみやすく、おかげで大変に楽をしたと思い、今でも感謝している。だが今回はこの型は一応除く。

(~次回へ続く~)

【引用元:ある異常体験者の偏見/アントニーの詐術/P81~】


長くなったので今日はこの辺で引用を終わりにします。次回はいよいよ「扇動」の解説に入っていきます。では次回をお楽しみに。


【関連記事】
★アントニーの詐術【その1】~日本軍に「命令」はあったのか?~
★アントニーの詐術【その3】~扇動の原則とは~
★アントニーの詐術【その4】~同姓同名が処刑されてしまう理由~
★アントニーの詐術【その5】~集団ヒステリーに対峙する事の難しさ~
★アントニーの詐術【その6】~編集の詐術~
★アントニーの詐術【その7】~問いかけの詐術~
★アントニーの詐術【その8】~一体感の詐術~


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