次に中国人R氏のお手紙を紹介する。氏のお手紙は大分長く、中国の刀剣の説明があり、ついで日本刀に言及し、成瀬関次氏の著作に言及しておられるので、この「百人斬り競争」という記事に直接関係のある部分だけを摘記要約させていただこう。
氏はまず「百人斬り競争」を「事実」だと強弁した者に対して憤慨しておられる。
私は前に、なぜ姜氏の話では、この「百人斬り競争」が非戦闘員殺害に改変されているかを考えねばいけないと書いたが、その時から気がかりであったことが、事実になって現われたのである。
こういう点、日本のジャーナリストの独りよがりの独善さは、戦争中同様、全く救いようがないように思われる。
この「百人斬り競争」を「事実」だと強弁することが「日中友好の道」だなどと考えている者がいるなら、大変なことであろう。
対象が非戦闘員ならいざ知らず、軍隊で、しかも戦闘行為として記されているのである。
従って「殺人ゲーム」を事実だと強弁することと、「百人斬り競争」を事実だと強弁することは、全く違うことなのである。
だが本多記者にはこのことが全く理解できないらしい。しかし浅海特派員は従軍記者の経験があるだけあって、「週刊新潮」所載の氏の所感の背後には、はっきりとこの配慮がある。
ただこれを取材した「週刊新潮」の記者はおそらく戦後の人で、従って、この記者には浅海氏が何を配慮してあのような言い方をしているかがつかめなかったらしい。一面、無理ないことでもあろう。
「百人斬り競争」という記事自体が、言うまでもなく、徹底した中国軍および中国人蔑視の記事、当時の言葉でいえば「チャンコロ記事」すなわち中国人を人間とみなしていない創作記事であって、それを、戦後三十年近くたった今なお「事実」だなどと強弁すれば、中国人、特に抗日戦を戦い抜いた老兵士たちが激怒するのが当然であろう――中国人の間で、なぜこれが、知らず知らずのうちに「非戦闘員殺害」に改変されていったか、もう一度冷静に考えれば、このことはだれにでもわかるはずである。
特に「諸君!」にのった本多勝一氏の文章の一部などは、もし中国の軍人の目にとまれば、一悶着ではすまない部分があると思われる。
軍人には軍人独特の感情がある。
この感情は確かに国によって違うが、しかし共通した一面がある。戦後日本には軍人はいなくなったから、あの一種独特の感情がだれにもわからなくなったことは、確かに喜ばしいことであり、「軍人―病人」論者にとっては大歓迎といいたいことである。
しかしそれだからといって、私は、外国の軍人、特に中国のように「戦勝国」をもって自認している国の軍人の感情を、本多勝一氏のように土足にかけていいとは思っていない。――聞いた話だが、今の日本には「ご注進屋」という人がいて、何かあるとすぐ中国側にご注進して足のひっぱり合いをするそうで、廖承志氏に、わざわざある新聞社系の週刊誌に台湾航空の広告が載っていることを「ご注進」に及んだ者もいるほど徹底しているそうだから、この上さらに恥の上塗りの材料を提供する気はない。
そこで同氏のお手紙から得た「私の」結論――あくまでも私の結論――だけを簡単にいえば、この記事は、少なくとも中国の軍人に対しては、「戦争中このような創作記事を掲げ、祖国のため徹底的に戦われた勇敢な貴国の抗日戦の勇士を辱しめたことを謝罪します」と新聞社自らがいうべき記事であっても、彼らの目の前で「断固たる事実です」と言うべき記事ではないのである。
これを掲載した毎日新聞社の新井宝雄氏のように、他人に向って、「お前は反省がたりない」と言うのなら、まず自らがこのことを棚上げしておくべきではあるまい。
もちろん事実だと信ずるなら、彼らが激怒しようとしまいと事実だと断言してよい。
私には、彼らに媚びて事実まで取り消せという気は全くない。
ただ虚報を出して日本人を誤らせ、その虚報を事実だと強弁して中国人を怒らすなら、世にこれ以上の愚行はないと思うだけである。
【私の中の日本軍(下)/日本刀神話の実態/P79~より引用】
「被害者側の立場に立って痛みを思いやり、心から反省する事」を自認しているはずの反「歴史修正主義者」の方々に伺ってみたいのですが、こういった見解についてどう思われるのでしょう。
彼らの唱える日中友好とは、一体何なのか?
私には、日中の相互誤解を招いているようにしか見えないのですが…。
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