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97年から書き続けたweb日記を、このたびブログに移行。
「反転~闇社会の守護神と呼ばれて」
貧しい漁村に生まれた少年が、司法試験を突破して検事となり、大阪地検特捜部で経済事件を中心に、数々の大型事件で敏腕検事として注目を集める。しかし、政治に配慮する上層部との対立もあり、辞職後、所謂「ヤメ検」として弁護士を開業。バブル経済まっさかりの中、法曹世界と裏社会を知り尽くした彼は、ヤクザや政治家、地上げに狂奔するバブル紳士達の「守護神」となった。しかし、つかのまの栄華を極めた彼も、古巣特捜部の告発によって実刑判決を受けることになる。

元特捜検事、田中森一の自伝、「反転~闇社会の守護神と呼ばれて」読了。実に面白い。

前半部分で面白いのは、著者の大阪地検特捜部時代の活躍ぶり。ヤクザとマル暴担当の刑事は見分けがつかないとよく言われるが、著者の検事としての捜査活動や取調べは、暴力団担当の刑事とあんまり相違がない。取調室で灰皿を壁に叩きつけ、「何ぬかしとんじゃ」と容疑者を怒鳴りあげる。まあ、法曹資格を持ったデカという感じだろうか。

犯罪追求に専心するあまり、検事時代の著者は、闇世界の住民を独自の情報源として活用するのだが、これが地検退職後の闇世界との深いかかわりの発端となってゆく。

全員が自家用のヘリを所有し、自己所有のゴルフ場を回る。1ラウンド数千万円が動く賭けゴルフ。電話一本で動く何十億円の金と株。ポンと渡される何百万ものプレゼントや弁護士報酬。バブル経済に暗躍した「バブル紳士」達の、驚くべき栄華と放逸にはまさにあっけに取られる。

そしてそのバブルの分け前に群がった政治家達と、暴力装置の黒光りする威光を背景に、調整役として暗躍する暴力団幹部。バブルという金城湯池に、彼らと一緒にドップリとひたりきっていた著者でなければ書けなかった「裏社会のバブル回顧録」である後半部分も、また読み応えあり。

同じくバブルにひたりながらも、特捜検事としての醒めた観察眼が活きた人物評定がまた面白い。「五えんや」の中岡信栄、「イトマン」事件の許永中、伊藤寿永光、山口組若頭宅見勝、「チンネン」山口敏夫など、本書から、実に興味深い人間像が浮かび上がってくる。竹下登や安倍晋太郎などの著名政治家や芸能人達と、バブル・マネーとの関係も、余談としてサラリと書かれている部分に真実味があり、本書の陰影をさらに深めている。

佐藤優のように、今後次々暴露本が出せるのか、他人事ながら心配になるほど一気に題材を投入しきった感あり。おそらく自分の事については、真に都合の悪いことは省いて書いているに違いないのだが、それを割り引いても、実に面白い本。

私が買ったのはもう10刷。やはりずいぶん売れているようだ。それにしても、彼らがわが世の春を謳歌した「バブル」とは、実に妙な時代であった。
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2008/08/10(日) 09:16:35 | 月のブログ