歌舞伎座「十二月大歌舞伎」は三部制。11月が劇場工事のせいで昼の部の興行しかなかったから、ここで3部の公演にして興行収入を確保しようという松竹の方針か。
第一部の「あらしのよるに」は以前見て面白かったけれども、童話が元であまり大人の再度の鑑賞には堪えないかと思ってチケットを取らなかった。12月初旬に第二部と第三部を見たので備忘記を。

第二部最初の演目は、河竹黙阿弥作、「盲長屋梅加賀鳶」いわゆる「加賀鳶(かがとび)」。
今まで道玄は、芝翫、團十郎(当時海老蔵)、白鸚(当時幸四郎)で見た。元々は五世菊五郎が河竹黙阿弥に脚本を依頼し、六世菊五郎が道玄中心の段だけを抜き出して演じるようになったのだという。当代の菊五郎では見た事がない。
今回、松緑が道玄を演じる。合わせて最初の場、加賀鳶の頭、天神町梅吉の二役。
序幕の「本郷木戸前勢揃い」は鯔背な加賀鳶連中が花道にずらりと並び、河竹黙阿弥の七五調のセリフを次々と回していく「ツラネ」が見どころ。
歌舞伎らしく派手で恰好良い場面だが、このあとで続く道玄の物語には、勘九郎演じる日蔭町松蔵以外一切関係しないという所が、なんとも歌舞伎らしい清々しい割り切り。
主役を張る松緑の威光があってか、息子の左近も、獅童と彦三郎の間に挟まれて花道の先頭の方で出てくるのだが、並ぶと両脇の獅童、彦三郎より背丈は随分と小さいのだなあ。親父の松緑が、自分とはニンが違うから女方の修行もさせようというのも分かる気がする。彦三郎、亀蔵兄弟はさすがに声が良い。
道玄を演じるのは松緑。禿のかつらで出てきた様は、祖父の二世松緑にも似ている。ギラついた鋭い眼光に、時折見せる素っ頓狂な表情。悪漢なのだが粗忽で妙な愛嬌がある道玄を、初役ながら印象的に演じた。
勘九郎演じる日蔭町松蔵は、竹町質見世の場で、店の主人を恐喝しようとする道玄の悪だくみを見抜き、他の大罪の証拠も突き付け、道玄の顔色を失わせて追い払う痛快な役。歌舞伎では大店を強請ると、大概失敗する。
強請られる伊勢屋主人は権十郎。大店の主人らしい風格あり。道玄に虐待される哀れな女房は芝のぶ。女按摩お兼は本来、はすっぱだが妙な色気があって魅力的に演じる事もできる悪女だと思うし、市川齊入が以前襲名披露でこの役を演じた時は感心した覚えがある。しかし雀右衛門がやると、どうも草臥れた世話女房風になって、どこか違う気がするんだよなあ。
しかし物語そのものは面白い。最後はだんまりの捕り物になって歌舞伎風味満載。
次の演目は「鷺娘(さぎむすめ)」。
2020年9月、コロナ禍での歌舞伎座四部制の玉三郎は、第四期歌舞伎座サヨナラ公演での自身の映像を使った凝った演出で、一部をライブで自分で踊り、客席は万来の拍手でカーテンコールまであったっけ。
七之助の鷺の精が舞ってみせる、娘の恋心、執着と情念。そして地獄の責め苦に雪の中倒れ伏す、哀しくも美しい姿。白無垢の登場から舞踊中に何度も引き抜いて鮮やかな衣装変わりを見せるのも歌舞伎の美。
上映記録では、歌舞伎座ではずっと玉三郎だけが勤めており、その前は2001年の福助まで遡るようだ。七之助は赤坂や大阪松竹座で上演しており、今回が3度目、初の歌舞伎座公演となった。二部上演後に「花篭」で食事。

第三部は、まず中村屋所縁の変化舞踊、「舞鶴雪月花(ぶかくせつげっか)」

十七世勘三郎のために作られた舞踊。勘九郎は、祖父の演じた桜の精、松虫、雪達磨という三役を踊り分ける。松虫では息子の長三郎も登場。
春、秋、冬と変わる背景の中で、娘の姿や松虫、滑稽な雪達磨と装束が変わり、すっぽんやセリも使って、勘九郎はその身体能力を一杯に使って踊ってみせる。なかなか見応えがあった。
この後の幕間、「花篭」で食事。

次の演目は、泉 鏡花 作、坂東玉三郎、今井豊茂 演出の「天守物語(てんしゅものがたり)」。
玉三郎の当たり役で、演出も手掛けるようになった作品。昨年12月の歌舞伎座公演では、自ら指導した七之助を主役の富姫に配し、自分は妹分の亀姫を演じて、これで演じ納めと玉三郎は考えていたのだという。しかし若手、市川團子の「ヤマトタケル」に触発され、團子を相手役に指名して、再び富姫役として歌舞伎座に戻ってきた。
姫路城の天守に存在する異形の世界。この世のものではない美しき姫と、現実を行き来する若者が結ぶ夢幻の恋。
玉三郎は幽玄の美を体現する。そして團子の真っ直ぐな図書之助は、口跡も良く凛々しいが、実は現世に身を置く所がない儚さも感じさせる所が実に良い。これは現実の澤瀉屋にあって、彼が置かれている孤高な境遇が投影されているのではないかという気もするのだった。
七之助の亀姫もまた素晴らしい。この人は、この世ではない異形な魂を持ったものを演じてみせるのに長けている。富姫と亀姫両方を経験し、やがて富姫は七之助の当たり役になるだろうと思わせる。
男女蔵の朱の盤坊は、親父の左團次が演じた役を初役で。生首を舐める門之助の舌長姥は、随分丁寧にやるので、ああ、あんな仕掛けなんだと面白かった。
獅童の近江之丞桃六は終盤を締める重要な役だが、割とサラサラと終わった印象。獅童は今月の歌舞伎座、自らが出ずっぱりで獅子奮迅の第一部「あらしのよるに」だけでなく、「加賀鳶」、「天守物語」三部全部に出演なので、最後は少々疲れていたのかねえ。
第一部の「あらしのよるに」は以前見て面白かったけれども、童話が元であまり大人の再度の鑑賞には堪えないかと思ってチケットを取らなかった。12月初旬に第二部と第三部を見たので備忘記を。

第二部最初の演目は、河竹黙阿弥作、「盲長屋梅加賀鳶」いわゆる「加賀鳶(かがとび)」。
今まで道玄は、芝翫、團十郎(当時海老蔵)、白鸚(当時幸四郎)で見た。元々は五世菊五郎が河竹黙阿弥に脚本を依頼し、六世菊五郎が道玄中心の段だけを抜き出して演じるようになったのだという。当代の菊五郎では見た事がない。
今回、松緑が道玄を演じる。合わせて最初の場、加賀鳶の頭、天神町梅吉の二役。
序幕の「本郷木戸前勢揃い」は鯔背な加賀鳶連中が花道にずらりと並び、河竹黙阿弥の七五調のセリフを次々と回していく「ツラネ」が見どころ。
歌舞伎らしく派手で恰好良い場面だが、このあとで続く道玄の物語には、勘九郎演じる日蔭町松蔵以外一切関係しないという所が、なんとも歌舞伎らしい清々しい割り切り。
主役を張る松緑の威光があってか、息子の左近も、獅童と彦三郎の間に挟まれて花道の先頭の方で出てくるのだが、並ぶと両脇の獅童、彦三郎より背丈は随分と小さいのだなあ。親父の松緑が、自分とはニンが違うから女方の修行もさせようというのも分かる気がする。彦三郎、亀蔵兄弟はさすがに声が良い。
道玄を演じるのは松緑。禿のかつらで出てきた様は、祖父の二世松緑にも似ている。ギラついた鋭い眼光に、時折見せる素っ頓狂な表情。悪漢なのだが粗忽で妙な愛嬌がある道玄を、初役ながら印象的に演じた。
勘九郎演じる日蔭町松蔵は、竹町質見世の場で、店の主人を恐喝しようとする道玄の悪だくみを見抜き、他の大罪の証拠も突き付け、道玄の顔色を失わせて追い払う痛快な役。歌舞伎では大店を強請ると、大概失敗する。
強請られる伊勢屋主人は権十郎。大店の主人らしい風格あり。道玄に虐待される哀れな女房は芝のぶ。女按摩お兼は本来、はすっぱだが妙な色気があって魅力的に演じる事もできる悪女だと思うし、市川齊入が以前襲名披露でこの役を演じた時は感心した覚えがある。しかし雀右衛門がやると、どうも草臥れた世話女房風になって、どこか違う気がするんだよなあ。
しかし物語そのものは面白い。最後はだんまりの捕り物になって歌舞伎風味満載。
次の演目は「鷺娘(さぎむすめ)」。
2020年9月、コロナ禍での歌舞伎座四部制の玉三郎は、第四期歌舞伎座サヨナラ公演での自身の映像を使った凝った演出で、一部をライブで自分で踊り、客席は万来の拍手でカーテンコールまであったっけ。
七之助の鷺の精が舞ってみせる、娘の恋心、執着と情念。そして地獄の責め苦に雪の中倒れ伏す、哀しくも美しい姿。白無垢の登場から舞踊中に何度も引き抜いて鮮やかな衣装変わりを見せるのも歌舞伎の美。
上映記録では、歌舞伎座ではずっと玉三郎だけが勤めており、その前は2001年の福助まで遡るようだ。七之助は赤坂や大阪松竹座で上演しており、今回が3度目、初の歌舞伎座公演となった。二部上演後に「花篭」で食事。

第三部は、まず中村屋所縁の変化舞踊、「舞鶴雪月花(ぶかくせつげっか)」

十七世勘三郎のために作られた舞踊。勘九郎は、祖父の演じた桜の精、松虫、雪達磨という三役を踊り分ける。松虫では息子の長三郎も登場。
春、秋、冬と変わる背景の中で、娘の姿や松虫、滑稽な雪達磨と装束が変わり、すっぽんやセリも使って、勘九郎はその身体能力を一杯に使って踊ってみせる。なかなか見応えがあった。
この後の幕間、「花篭」で食事。

次の演目は、泉 鏡花 作、坂東玉三郎、今井豊茂 演出の「天守物語(てんしゅものがたり)」。
玉三郎の当たり役で、演出も手掛けるようになった作品。昨年12月の歌舞伎座公演では、自ら指導した七之助を主役の富姫に配し、自分は妹分の亀姫を演じて、これで演じ納めと玉三郎は考えていたのだという。しかし若手、市川團子の「ヤマトタケル」に触発され、團子を相手役に指名して、再び富姫役として歌舞伎座に戻ってきた。
姫路城の天守に存在する異形の世界。この世のものではない美しき姫と、現実を行き来する若者が結ぶ夢幻の恋。
玉三郎は幽玄の美を体現する。そして團子の真っ直ぐな図書之助は、口跡も良く凛々しいが、実は現世に身を置く所がない儚さも感じさせる所が実に良い。これは現実の澤瀉屋にあって、彼が置かれている孤高な境遇が投影されているのではないかという気もするのだった。
七之助の亀姫もまた素晴らしい。この人は、この世ではない異形な魂を持ったものを演じてみせるのに長けている。富姫と亀姫両方を経験し、やがて富姫は七之助の当たり役になるだろうと思わせる。
男女蔵の朱の盤坊は、親父の左團次が演じた役を初役で。生首を舐める門之助の舌長姥は、随分丁寧にやるので、ああ、あんな仕掛けなんだと面白かった。
獅童の近江之丞桃六は終盤を締める重要な役だが、割とサラサラと終わった印象。獅童は今月の歌舞伎座、自らが出ずっぱりで獅子奮迅の第一部「あらしのよるに」だけでなく、「加賀鳶」、「天守物語」三部全部に出演なので、最後は少々疲れていたのかねえ。
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