GW最後の日、祝日の月曜は、歌舞伎座「團菊祭五月大歌舞伎」昼の部。
最初の演目は舞踊劇。「鴛鴦襖恋睦(おしのふすまこいのむつごと)」。通称「おしどり」。
前半部分は、尾上右近演じる遊女喜瀬川を巡る恋の鞘当てから、松也の河津三郎と萬太郎の太郎の股野五郎が相撲を取るという趣向。河津がけで松也が勝利。そういえばもう次の日曜は大相撲夏場所の初日だ。
後半は股野に殺されたおしどりの精霊がお互いを探して夫婦での舞となる。引き抜きで衣装が変わってからは鳥の羽ばたきのような動作が美しい。初演は江戸時代に遡る古い演目。過去ログを見ると2014年の歌舞伎座でこの演目は見ているのだが、記憶に無いねえ(笑)
ここで35分の幕間。花篭で「ローストビーフ重」
次の演目は、四世市川左團次一年祭追善狂言、「歌舞伎十八番の内 毛抜(けぬき)」。
左團次の当たり役だった粂寺弾正を、追善で息子の男女蔵が演じる。男女蔵は平成16年の「新春浅草歌舞伎」で初演しており、この際は父親に教わったという。
二代目の左團次が当時上演が途絶えていた市川宗家歌舞伎十八番を復活させ、歴代の左團次の当たり役となった演目。
四代目左團次「いい加減、人生録」(2014年電子書籍版)によると、男女蔵の屋号は「滝野屋」。今でも親父と息子の屋号が違う。これは、三代目は二代目の養子であった為という。
四代目も、三代目をひいきにしていた関西の後援者と祇園の芸妓の間に生まれた養子(戸籍上は実子)。当の四代目も、当代の男女蔵が生まれてすぐに離婚しているので、肉親の縁は薄い家系。
四代目の親父さんは恬淡とした性格で、照れもあってか、あまり歌舞伎界での息子を押し出す後ろ盾にはなってくれなかったようだが、男女蔵も既に56歳。
これから親父さんの跡を追って活躍しなくては。柄の大きい敵役、老人、重みのある脇役として、髭の意休、「実盛物語」瀬尾、「身代座禅」奥方玉の井、「弁天娘」南郷力丸あるいは日本駄衛門、「熊谷陣屋」弥陀六などなど、左團次の当たり役は多いが、今や坂東彌十郎くらいしか競合相手は居ないのだから頑張ってもらいたい。
今回の粂寺弾正も輪郭をおろそかにしない確かな描写でおかしみもあり、なかなか立派に務まっていた。息子の男寅は髪の毛が逆立つ奇病に悩む姫役、錦の前。これからも女形で行くのであろうか。
菊五郎劇団を支えた左團次の追善だけあって大勢の役者が顔を揃える。
幕開きから、梅枝の秦秀太郎と松也の八剣数馬が剣を交える。
粂寺弾正の接待に出る腰元巻絹が時蔵。鴈治郎が小野春風、松緑が妹の腰元が死んだと訴え出る悪党の小原万兵衛を印象的に演じる。又五郎は後ろで全ての糸を引くこれまた悪漢の八剣玄蕃。大詰では菊五郎御大が小野春道で出て大団円となる。
市川宗家の團十郎が後見につき、幕外の引っ込みにも顔を出すというサービス。二代目左團次が復活させた歌舞伎十八番。團菊祭に相応しい追善演目であった。
幕間の後は最後の演目。
河竹黙阿弥作「極付幡随長兵衛(きわめつきばんずいちょうべえ)」 「公平法問諍」。
実際に町奴の大侠客が武士の館で殺されたという史実に基づく作品。
舞台は、劇中劇から始まる。江戸古式の荒事が演じられている最中に、もめ事が起き、客席から仲裁に出てきた態で幡随長兵衛が登場するくだりは観客を自然に劇中に引き込んで良くできている。
團十郎は白目がちの眼光が鋭く、どこか暗い迫力がある長兵衛。吉右衛門の長兵衛は、女房と子供を気遣う人情ある長兵衛で、死ぬと分かっていても男伊達の面目を通さなければいけない男。彼が背負った悲しい運命と決断の重さがひしひしと感じられたよなあ。今回の團十郎は、比較的スッキリと格好良くトントン話が進む印象。
長兵衛を自宅湯殿で殺す事になる水野十郎左衛門役も興味深い役。決して単なる悪党ではなく、道理もわきまえ、胆力も鷹揚さもある立派な武士。しかし、その武士としての体面を維持するためには、どうしても町奴の頭を許す訳にはいかないという状況に陥ってしまうのである。
今回演じるのは菊之助。怜悧で道理もわきまえる武士が、論理の帰結として町奴を殺さなくてはならない。そんな状況を彷彿とさせる出来。これはこれで納得感あり。
菊之助の親父である当代の菊五郎が演じた際は、役に不気味な大きさがあり、湯殿で長兵衛に止めを刺す前「殺すには惜しい」の台詞に、長兵衛の人間性を認め、男を知る男の実感があって、主役を食う貫禄があった。松緑が演じた水野には、走り出すと止めようがない、心の奥に秘めた破滅型の狂気が感じられたっけ。役者によって色々とあるものだなあ。
花川戸長兵衛内の子分には、歌昇、尾上右近、廣松、男寅、鷹之資、莟玉など若手が大勢。家族の無い自分が代わりに死ぬと申し出る右團次の唐犬権兵衛は真に迫ってなかなかよかった。
児太郎の女房お時は、割と物分かり良い感じであったが、やはり團十郎の長兵衛に合わせるとそうなるのか。しかし、團十郎と菊之助ががっぷり組んだ、團菊祭らしい演目であった。
最初の演目は舞踊劇。「鴛鴦襖恋睦(おしのふすまこいのむつごと)」。通称「おしどり」。
前半部分は、尾上右近演じる遊女喜瀬川を巡る恋の鞘当てから、松也の河津三郎と萬太郎の太郎の股野五郎が相撲を取るという趣向。河津がけで松也が勝利。そういえばもう次の日曜は大相撲夏場所の初日だ。
後半は股野に殺されたおしどりの精霊がお互いを探して夫婦での舞となる。引き抜きで衣装が変わってからは鳥の羽ばたきのような動作が美しい。初演は江戸時代に遡る古い演目。過去ログを見ると2014年の歌舞伎座でこの演目は見ているのだが、記憶に無いねえ(笑)
ここで35分の幕間。花篭で「ローストビーフ重」
次の演目は、四世市川左團次一年祭追善狂言、「歌舞伎十八番の内 毛抜(けぬき)」。
左團次の当たり役だった粂寺弾正を、追善で息子の男女蔵が演じる。男女蔵は平成16年の「新春浅草歌舞伎」で初演しており、この際は父親に教わったという。
二代目の左團次が当時上演が途絶えていた市川宗家歌舞伎十八番を復活させ、歴代の左團次の当たり役となった演目。
四代目左團次「いい加減、人生録」(2014年電子書籍版)によると、男女蔵の屋号は「滝野屋」。今でも親父と息子の屋号が違う。これは、三代目は二代目の養子であった為という。
四代目も、三代目をひいきにしていた関西の後援者と祇園の芸妓の間に生まれた養子(戸籍上は実子)。当の四代目も、当代の男女蔵が生まれてすぐに離婚しているので、肉親の縁は薄い家系。
四代目の親父さんは恬淡とした性格で、照れもあってか、あまり歌舞伎界での息子を押し出す後ろ盾にはなってくれなかったようだが、男女蔵も既に56歳。
これから親父さんの跡を追って活躍しなくては。柄の大きい敵役、老人、重みのある脇役として、髭の意休、「実盛物語」瀬尾、「身代座禅」奥方玉の井、「弁天娘」南郷力丸あるいは日本駄衛門、「熊谷陣屋」弥陀六などなど、左團次の当たり役は多いが、今や坂東彌十郎くらいしか競合相手は居ないのだから頑張ってもらいたい。
今回の粂寺弾正も輪郭をおろそかにしない確かな描写でおかしみもあり、なかなか立派に務まっていた。息子の男寅は髪の毛が逆立つ奇病に悩む姫役、錦の前。これからも女形で行くのであろうか。
菊五郎劇団を支えた左團次の追善だけあって大勢の役者が顔を揃える。
幕開きから、梅枝の秦秀太郎と松也の八剣数馬が剣を交える。
粂寺弾正の接待に出る腰元巻絹が時蔵。鴈治郎が小野春風、松緑が妹の腰元が死んだと訴え出る悪党の小原万兵衛を印象的に演じる。又五郎は後ろで全ての糸を引くこれまた悪漢の八剣玄蕃。大詰では菊五郎御大が小野春道で出て大団円となる。
市川宗家の團十郎が後見につき、幕外の引っ込みにも顔を出すというサービス。二代目左團次が復活させた歌舞伎十八番。團菊祭に相応しい追善演目であった。
幕間の後は最後の演目。
河竹黙阿弥作「極付幡随長兵衛(きわめつきばんずいちょうべえ)」 「公平法問諍」。
実際に町奴の大侠客が武士の館で殺されたという史実に基づく作品。
舞台は、劇中劇から始まる。江戸古式の荒事が演じられている最中に、もめ事が起き、客席から仲裁に出てきた態で幡随長兵衛が登場するくだりは観客を自然に劇中に引き込んで良くできている。
團十郎は白目がちの眼光が鋭く、どこか暗い迫力がある長兵衛。吉右衛門の長兵衛は、女房と子供を気遣う人情ある長兵衛で、死ぬと分かっていても男伊達の面目を通さなければいけない男。彼が背負った悲しい運命と決断の重さがひしひしと感じられたよなあ。今回の團十郎は、比較的スッキリと格好良くトントン話が進む印象。
長兵衛を自宅湯殿で殺す事になる水野十郎左衛門役も興味深い役。決して単なる悪党ではなく、道理もわきまえ、胆力も鷹揚さもある立派な武士。しかし、その武士としての体面を維持するためには、どうしても町奴の頭を許す訳にはいかないという状況に陥ってしまうのである。
今回演じるのは菊之助。怜悧で道理もわきまえる武士が、論理の帰結として町奴を殺さなくてはならない。そんな状況を彷彿とさせる出来。これはこれで納得感あり。
菊之助の親父である当代の菊五郎が演じた際は、役に不気味な大きさがあり、湯殿で長兵衛に止めを刺す前「殺すには惜しい」の台詞に、長兵衛の人間性を認め、男を知る男の実感があって、主役を食う貫禄があった。松緑が演じた水野には、走り出すと止めようがない、心の奥に秘めた破滅型の狂気が感じられたっけ。役者によって色々とあるものだなあ。
花川戸長兵衛内の子分には、歌昇、尾上右近、廣松、男寅、鷹之資、莟玉など若手が大勢。家族の無い自分が代わりに死ぬと申し出る右團次の唐犬権兵衛は真に迫ってなかなかよかった。
児太郎の女房お時は、割と物分かり良い感じであったが、やはり團十郎の長兵衛に合わせるとそうなるのか。しかし、團十郎と菊之助ががっぷり組んだ、團菊祭らしい演目であった。