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97年から書き続けたweb日記を、このたびブログに移行。
「鎮魂 さらば、愛しの山口組」
書店の平積みで見つけた、「鎮魂 さらば、愛しの山口組」読了。

元山口組構成員、本物の極道だった「伝説のやくざ」盛力健児が書いた自伝。若い頃からやんちゃくれで、腕っ節が強く、一本気で義理人情に篤い男は、極道者の素質を備えていた。もちろん、これだけでは「良い」極道になるためには不十分。暴力によって善悪を簡単に逸脱する黒光りした「悪さ」、「凄み」が無ければ極道稼業で生きてはゆけない。

半グレで極道とも付き合いながら白タクをやってた若い頃の著者のエピソードはその点で実に印象的。粗悪な改造車を売り付けられて、その会社に文句を言うと、「山口組も知っとる」「文句あったら来んかい」と脅されて頭に来た著者は単身で殴りこみに行く。その描写が凄い。
ドア開けるなりその息子が「待ってくれ」言いよったけど、その時はもう顔面に俺の右足が飛んでるわな。後ろのウィンドーまで吹っ飛んで終いですわ。その頃は元気な盛りやし、足もボンボン上がるし、昼間は鋼材運んどるからパワーもあるしね。そりゃ素人はたまったもんじゃないですよ。
これで警察に捕まるのだが、有望な若い者と見た極道から勧誘され、やがて三代目山口組の若頭だった山本健一から杯をもらい山健組に。しかし、田岡組長が襲撃されたベラミ事件で、相手団体への報復を行い、16年という長い懲役を受ける。

その間に、山口組三代目田岡一雄組長は死去。直属の親分だった山本健一も死去。田岡を継いだ四代目竹中は射殺。懲役を終えた時には、自分よりも元々は格下であった渡辺芳則が五代目の山口組組長となっていた。

山口組幹部にも、頭脳派やしのぎに長けた経済やくざが台頭しており、古参だったにもかかわらず、愚直な武闘派である盛力健児は、政治的にあれこれ動く権力闘争にはあまり強くなかった。五代目六代目の山口組の直参となり、盛力会を率いて、周りからは恐れられたが、それ以上の出世はしていない。

しかし、この本は普通では覗いしれない極道の世界をドキュメントとして克明に描き出しており、実に興味深いもの。特に、五代目渡辺芳則から六代目司忍への権力承継の真相を暴く部分は迫力あり。渡辺が若頭である宅見の射殺に深く関わっており、権力継承は、その「子殺し」の証拠を突きつけた若頭、司忍が行ったクーデターであったという謎解きがされている。

この承継式の模様は、以前Youtubeに上がっており、山口組六代目組長継承式に感想を書いたが、この動画はもう見れなくなっている。実に興味深かったのだが残念。

その他、昔の大阪府警は殴る蹴るの無茶苦茶な取調べで極道にも恐れられていたことや、キャバレーやクラブへの極道の深い関与、拳銃所持も昨今は大変な厳罰が来ることや、極道としての筋の通し方など、堅気にはまったく知ることのない珍しい話が満載で、なかなか面白かった。

山口組の裏面以外に興味深いのは、この聞き語りによる自伝が、戦後の山口組を巡る暴力団史を俯瞰する壮大なドキュメントにもなっていること。戦争から復員して職が無かった者の中には極道になる者が大勢いた。やがて街の愚連隊をも取り込み、経済発展につれ裏社会はより巨大に更に大きな利権に食いついて行くことになる。

山口組が昔は港湾荷役に関わっていたのは有名だが、土木の世界、護岸建築や砂利砂採取でも常に裏社会の影がちらつく。関空や中部国際空港では、山口組や弘道会が大きな利権に食いついて途方も無い利益を上げたのだという。

自民党政治は土建政治だから、官僚・政治家が利益を分けあう下部構造には、更に極道という暴力装置が長年存在してきた。自民党政権下で東京オリンピック招致が決まった。これから始まる巨大な土建工事にも、また裏社会が深く食い込んで行くことになるのだろうか。