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97年から書き続けたweb日記を、このたびブログに移行。
歌舞伎座、「八月花形歌舞伎」
8月は夏休みとオリンピックがあり、歌舞伎座、「八月花形歌舞伎」は三部とも行ったのだが、これまたグータラしていたらすっかり記録を忘れてしまった。一応、備忘の為、記憶に残っているところのみ残しておこう。

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第一部は、河竹黙阿弥 作、三代猿之助四十八撰の内、「加賀見山再岩藤(かがみやまごにちのいわふじ)」

三代猿之助の早変わりの原点と言われた作品との事だが、4時間以上の作品を石川耕士と猿之助が補綴・演出して2時間に編集。「市川猿之助六役早替り相勤め申し候」として上演。しか8月興行前の定期PCR検査で主役の猿之助が7/29にコロナ陽性が判明。8/3初日の公演だったが、巳之助が猿之助の代役をやる事で公演継続を決定したという経緯。巳之助の役は鷹之資が代役。

巳之助は、多賀大領、御台梅の方、奴伊達平、望月弾正、安田隼人、岩藤の霊を早替りで演じる。早替りは舞台から引っ込むとお弟子さんが何名も取り囲んで衣装や頭の変更を手伝うのだが、代役で演じるのはそれは大変だろう。しかも、この役の中には御台梅の方、岩藤の霊という、巳之助があまり演じた事の無い女形の役が含まれている。

しかし岩藤の亡霊はなかなか凄みのある台詞で見事に成立しているし、梅の方も無難に演じる。除幕の最後にはお局の姿での派手な宙乗りまで披露して大活躍。勿論、立役の多賀大領も望月弾正もきちんと成立しており、巳之助の対応力の高さに感心。

加賀藩のお家騒動を題材にした狂言。宝物の奪い合いや騙されての暗殺など、筋書きはやたらに転換が多く短く編集したせいか、あっという間にトントンと進んで行く。昔ながらのゆったりした演出というのは、やはり現代の上映ではスピード感に欠けるので、今回くらい展開が早いほうが飽きないかもしれない。まあ、早替りを、おおっと楽しむのが眼目でもある。白骨を使った怪談風の演出は夏芝居にふさわしい。次回は猿之助で見る機会があると良いな。

第二部は中村屋兄弟の公演。最初の演目は、「真景累ヶ淵(しんけいかさねがふち)」、豊志賀の死。

落語の怪談を明治に歌舞伎に脚色したもの。豊本節の師匠、豊志賀を七之助。その若い恋人新吉を鶴松。豊志賀は顔に腫れ物が出来る病に臥せっている。病を得て顔が醜くなった豊志賀は、新吉が自分を見捨てて近所の若い娘、お久と浮気して、良い仲になっているのではと疑心暗鬼となり、心を病んで更に追い詰められていく。

年増女の嫉妬と最初はその女に尽くしているのだが、その嫉妬に辟易して心が離れて行く若い男を、七之助と鶴松コンビが息も合ってなかなか印象的に演じる。怪談仕立てなのだがやはり元が落語だけあって怪談の凄みはあまり無く、どちらかというと軽妙な仕上がり、随所にくすぐりがあり場内でも笑いがこぼれる。

ただ、斜め後ろの席で、ガハハとやたらに大爆笑する親父がうるさい。暗闇から豊志賀が急に現れた時も、驚いてウァーと大音声。今まで歌舞伎座で会った客で一番やかましい。頭と口が直結したタイプの人類なんだな。しかし寄席やお化け屋敷じゃないんだし、あんな大声で笑ったり叫んだりしなくてもなあ。そもそも大向こうも禁止なのだから、馬鹿笑いや叫び声も禁止にしてほしいものだが。

扇雀の伯父勘蔵は、さすがにベテランの味があって物語をまとめる役。勘九郎の噺家さん蝶は、喋りが達者で確かに落語家に見える出来。

二部次の演目は、「仇ゆめ(あだゆめ)」

十七世勘三郎が初演した舞踊劇。中村屋代々に伝わった演目。狸が太夫に恋をして、踊りの師匠に化けて恋を成就させようとするが、そこへ本物が現れる。狸が勘九郎、太夫が七之助。

正体がバレて悲嘆にくれる狸と、それを思いやる太夫のやさしさを中村屋兄弟が軽妙にかつ情深く演じる。揚屋の亭主、扇雀も貫禄があって舞台に深みを与えている。

第三部は、源平布引滝「義賢最期(よしかたさいご)」

義賢を幸四郎が初役で務める。この演目は、もう随分前、まだ歌舞伎を見る習慣が無かった頃、アメリカから来た客を歌舞伎座に連れて行った、私が初めて見た演目の一つ。あれは仁左衛門だったか。

筋立てとしては、前半は、源平復興を願って正体を隠す人物同士の前半の駆け引き。後半では、兄義朝の髑髏を足蹴にして平家への忠誠を示せと迫られた義賢が、憤激のあまり使者を斬る。しかしその時には運命は決している。最早最後と観念した義賢が死を覚悟で暴れまわる立ち回りが見どころ。

襖がバターンと倒れると、大広間を背に血みどろの義賢が現れるのも歌舞伎の様式美。「戸板倒し」は上手くいった。仁王立ちのまま階段に倒れる「仏倒れ」は若干カクカクして息を飲むような迫力が若干欠けたろうか。まああれは難しいのでしょうな。以前、愛之助で見た時は大変な迫力であったが。

梅枝の九郎助娘小万はなかなか良く、このまま通しで「実盛物語」を見たいなと思う出来。

この後は、短い幕が2題。「伊達競曲輪鞘當(だてくらべくるわのさやあて)」は、歌昇、隼人、新悟。「三社祭(さんじゃまつり)」は染五郎、團子。

「鞘当」は絢爛たる桜の吉原を舞台に、伊達男二人が刀の鞘が当たった事で揉め事になるというお話だが、郭情緒に溢れた歌舞伎様式美の世界。ただ、前にも見たけれど伊達男2人が笠を取るまで延々と渡り台詞があって、この場面が長過ぎるような気がするのだが。「三社祭」は若手二人の元気ある舞踊。息も合っている。これからもずっとコンビで売って行くのだろうか。

八月花形歌舞伎は月の前半に見たのだが、コロナで休演していた猿之助は、20日から舞台復帰。まあしかし、緊急事態宣言の現況ではもう一度見に行くのは止めるかな。そうこうしているうちに九月大歌舞伎はチケットを取ってなかった事を今頃発見。まあ、今後の感染状況次第か。