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97年から書き続けたweb日記を、このたびブログに移行。
歌舞伎座、「五月大歌舞伎」、第一部。
五月大歌舞伎は、三部ともチケットを取っていたのだが、GWの最中、大相撲開催前の月初に取っていたもので、全て緊急事態宣言発出に伴い公演中止で払い戻しに。五月は見物は無理だなと思っていたが、大相撲が観客を12日から入れるのに合わせて公演が開始に。チケットは既に結構売れていたのだが、大相撲7日目の土曜日に出ていた第一部の戻りを取った。

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この日は11時から歌舞伎座、終わってから国技館に行ってマスB席で観戦という、結構忙しいし、マスクしているとはいえ11時から夕方6時まで周りに人がいるという、どうも観戦リスクを考えると気の進まない状況だったが、松緑の舞台だけは見ておきたかった。

歌舞伎座の席は西の二階桟敷。前も後ろも観客は居ない。左右も離れており快適である。

最初の演目は、河竹黙阿弥作、「三人吉三巴白浪(さんにんきちさともえのしらなみ)」。大川端庚申塚の場のみ。

夜鷹おとせで出た莟玉は、前夜の客がたまたま落としていった百両を返そうと相手を探しているという、薄幸ながら心優しい女性の雰囲気が良く出ている。出番は短い端役だが、人気の花形女形が出ると「哀れだなあ」と同情してもらえる印象的な良い役。二階から見ると、ああいう風に舞台下に消えているのだとなかなか面白い。

右近は花道の出も派手であったが、おとせの懐の百両に手を出す所で、いきなり立役の迫力ある低い声が出て、そのコントラストにちょっと度肝を抜かれる。

「月は朧に白魚の 篝もかすむ春の空」の名台詞も朗々たるもので、実に立派。清元の経験も活きているのか。美しい女(実は劇中でも女装した盗賊だが)が、夜鷹から百両奪って隅田川に蹴落として「春から縁起がいいわい」とあっけらかんと台詞を唄う姿は倒錯したピカレスク・ロマンの感があって、今まで見た大川端の中でも印象的。

隼人は何時も肩肘張って頑張っている。体格も台詞もなかなか立派ではあるが、どこか生硬な所があり、一歩崩れるとガタガタになりそうな、大根と表裏一体の危うい感じがある。そこがよい。ま、偏見ですが(笑)

人気の演目、場面で、様々な座組で見た。中には一人だけ大看板というバランス悪い座組もあったが、今回の「三人吉三」は全員花形。和尚吉三の突然の仲裁に応じて義兄弟になるのは突然にも思えるが、この日は、なるほど、これも実に奇妙な運命のトライアングルだったのだと、今までで一番腑に落ちた出来。3人の醸し出す絶妙なコンビネーションだ。和尚吉三の巳之助は松緑に教えて貰ったというが、人間の良さ、大きさが出ている。そして時折、三津五郎の面影がよぎる。

そして次の演目が、新古演劇十種の内 「土蜘(つちぐも)」

松緑が叡山の僧智籌実は土蜘の精。音羽屋の家の芸であるが、同様の蜘蛛の精が暴れる演目は澤瀉屋でも出る。「蜘蛛の絲宿直噺」は昨年の11月に猿之助で見た。その猿之助が源頼光として相手に座っているのだから、舞台に重みと迫力あり。

源頼光主従の土蜘蛛退治を題材にした変化舞踊。智籌の花道の出は観客に覚られぬよう、静かに出てくるのだそうであるが、ボーッとしていたので七三の所に来る迄気づかなかった。

松緑は怪異な眼力鋭く実に印象的。猿之助もギラギラ光る存在感を舞台に与えていた。澤瀉屋「蜘蛛の絲宿直噺」は、今度の七月大歌舞伎でまた出て、猿之助が最後は女郎蜘蛛になる五人早変わりの役を演じる。この演目で、松緑は頼光ではないが、家臣の平井保昌を付き合うのも面白い。

松緑は七月「あんまと泥棒」に主演。あんま役は中車。2月の歌舞伎座「泥棒と若殿」で巳之助相手に泥棒役を演じたが、七月もまた泥棒役。なかなか興味深い。