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97年から書き続けたweb日記を、このたびブログに移行。
「自衛隊が世界一弱い38の理由―元エース潜水艦長の告発」
「自衛隊が世界一弱い38の理由―元エース潜水艦長の告発」読了。

著者は防衛大出身で、元潜水艦の艦長。表題に「エース」とあるのは、米軍との演習で、米原子力潜水艦に勝利したという輝かしい戦歴から来ている。

この本は、元自衛官としての経験と自らの研究から、実質的な国防軍として編成されたはずの自衛隊が、いざ「有事」となっても、実は実戦では役立たない組織であること、自衛隊は「戦えない軍隊」であるという事実を、様々な面から明らかにしてゆく。

そもそも「戦争が無い」ことを前提に作られた、様々な法律上の規制。内局、背広組が制服組を支配する官僚組織の問題。連携に欠ける実戦には役立たない八百長の訓練。

陸上自衛隊の装備は、野戦を想定しており、実際にありうる市街戦には対応できない、対潜哨戒に特化した海上自衛隊の装備は、日本本土に橋頭堡を確保するために強襲する敵軍を水際で迎え撃つことはできない、などの数々の指摘は、防衛の専門家の目から、陸・海・空それぞれの自衛隊を網羅した、実に興味深いもの。

日本には、そもそも国家としての国防戦略が存在しないという指摘も、確かにその通りのように思われる。戦争などあるはずがない、国土防衛の必要などない、いや、戦争の事を考えるだけでも悪である。そんな風潮は昔あったし、今でも一部にはあるだろう。

しかし、昨今の現状を見るなら、中国、韓国との領海・領土を巡る武力を含めた衝突の可能性は無いとは言い切れないし、北朝鮮の核やミサイルも現実の脅威。

憲法9条が国家の自衛権まで放棄したものであるとは思わないし、現実に自衛を放棄している国は世界のどこにも存在しない。しかし、それなりの国家予算を費やして編成している自衛隊が、実際には有事にまったく役立たない「世界一弱い軍隊」だというのは、誠に憂慮すべき事態。国家の安全保障政策と同様に、国防戦略は、真剣に議論されるべき時期であるとも思う。

ただ、一点だけ、田母神航空幕僚長の解任を、「自衛官の基本的人権を無視したファシズムである」と断じる著者の意見には、やはり違和感を感じざるを得ない。

軍事力は、民主的な手続きに依らずに、政権を転覆させることさえできるスーパーパワー。だからこそ、軍隊にいる権限ある人間が、「満州に王道楽土を築くのだ」、「世界最終戦に備えるため大陸の資源を確保する」、「統帥権は独立している」などなどの考えを持つ人間であっては困る。

このような考えを持った旧帝国陸海軍幹部が、国家を日中戦争の泥沼に引きずり込み、結果的に日本本土を焦土に変え、あやうく一億総玉砕にまで全国民を引きずり込むところであったことを忘れてはならない。軍隊の指揮命令権を持つ人間には、その思想信条に、ある程度の頸木(くびき)が課せられるのは、ある意味当然であって、基本的人権とは違う次元の話であると思う次第。

もっとも、自衛隊や自衛官の地位向上に関しては、著者の意見に同感する。大いに改善の余地があるだろう。ある県のセレモニーで、米軍大佐が県知事の横にいるのに、自衛隊空将(中将)は末席であったというエピソードは興味深い。

日本以外のどの国でも、軍人の社会的地位は高い。将官ともなれば、周りからの尊敬を受ける地位。しかし、日本で自衛隊の制服組がそんな敬意を払われているだろうか。尊敬を受けない軍隊が、国家や国民のために命を捨てるはずはない。普段は無視しているが、災害出動の時だけは、「何やってんだ早く来い」。国民がそんな態度では、まともな国防ができるはずもない。国家の防衛問題を考えるには、このあたりも合わせて考えなければならないような気がする。