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97年から書き続けたweb日記を、このたびブログに移行。
歌舞伎座「七月大歌舞伎」、夜の部
先週土曜日、千穐楽前の日に、歌舞伎座「七月大歌舞伎」夜の部。奇数月はどうしても大相撲本場所とかぶるので歌舞伎観劇日程が月初か月末になる。

七月の歌舞伎座は海老蔵の責任公演。後援会や団体が入っているものと思うが、ゴールド会員販売日にアクセスしても、一階席のA2、A3は全部ブロックされており、何時も通りの席は取れない。

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夜の部は、「通し狂言星合世十三團(ほしあわせじゅうさんだん)成田千本桜」

名作「義経千本桜」の通しを、成田千本桜としてダイジェスト風に編集。「千本桜」は、碇知盛、いがみの権太、狐忠信という立役の代表的な3役があるのだが、3役どころではなく海老蔵は早替りで13役を務める。もともと通しでやれば1日かかる演目を夜の部に詰め込んで早替りもというのであるから、実に盛り沢山の海老蔵流というか。

普通は有名な段しか出ないが、ダイジェスト版の通しとあって、発端や最初の説明的な場面も(早替りが主体ではあるものの)簡易版で盛り込まれており、後の話が分かりやすくなっている。

最初の幕で既に7役を早替りで消化。芋洗いの弁慶は初めて見たがなかなか面白かった。ただ、早替りが主眼になっており、役としての重みはやはり無い。あれよあれよと言う間に何役も。歌舞伎の早替わりというのは昔から培われた、ミスダイレクションのような様々なテクニックがあり、それこそが伝統であるが、海老蔵の替わりをやる役者は白塗りの海老蔵そっくりのお面をかぶっているのが面白い。量産して市販したら売れると思うが(笑)

「碇知盛」は、渡海屋奥座敷で船の火が次々に消え、平家方の惨敗を知りお局たちが恐れ慄く場面は省略。他にも弁慶が知盛に仏門入りを進める所なども無し。もっともこれは、後で海老蔵が早替わりで弁慶になるので、他の役者で弁慶を出す訳にもゆかないのである。

今月は、月初に大阪松竹座で仁左衛門の「碇知盛」を見て、月末に海老蔵の「碇知盛」を見たことになる。歌舞伎としては、仁左衛門がオーソドックスで重たく、悲劇的に鮮やかで大きい。海老蔵の知盛は駆け足で通り過ぎる「成田千本桜」の一幕であって、この一幕にも早替わりを入れ込んでいるせいもあって、全体的に段取りで軽い印象。碇を海に放り込んで自ら海に沈んで行くラストも70歳代の仁左衛門のほうがずっと迫力があるのは、やはり海老蔵も随分と疲れていたのだろう。終演後のブログでは「体調が悪かった」と。

しかし弁慶が法螺貝を吹いて飛び六方で花道を下がった後、真っ暗になった客席。幕にはプロジェクションされた星空、客席の上に魂魄を思わせる明かりが舞い、そして、知盛がすっぽんから登場、霊となって宙乗りで去るのには度肝を抜かれた。「海老蔵宙乗り相努め候」というのは、てっきり狐忠信だけだと思っていたが。

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ここで30分の幕間。芝居御膳も早替りに合わせて13種類の献立を。

三幕目はいわゆる「すし屋」。「千本桜」簡易版という興行であるから、世話味のある「いがみの権太」が一番印象的だろうか。しかしここでもまた海老蔵の早替り技が炸裂するのであった。

「狐忠信」は元々、ギミック満載の演目だが、「碇知盛」や「すし屋」、序盤やつなぎの段まで早変わりがさんざんあったので、返っておとなしく感じるほど。全体として古典をキッチリ演じたという印象は無いが、歌舞伎オリジナルを突き抜けた、海老蔵独特のエンターテインメントになっている。團十郎を襲名後も、古典を古典として演じるのではなく、題材に奇抜な演出を加えて「成田屋版」として上映してゆくのだろうか。

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最後に客席にドカンと降った花吹雪は凄かった。今まで見た中で一番凄かったなあ。