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97年から書き続けたweb日記を、このたびブログに移行。
「迷惑な進化~病気の遺伝子はどこから来たのか」
「迷惑な進化~病気の遺伝子はどこから来たのか」(シャロン・モアレム)読了。

著者の祖父は、身体が痛む時、献血をすると楽になると言い、好んでそれを行っていたのだという。不思議に思った少年時代の著者は、その理由を知りたくて図書館に通い、鉄に関する本を読み漁るうち、祖父が「ヘモクロマトーシス」という、鉄が身体の器官に蓄積する病気であったことを知る。

その祖父がアルツハイマーと診断された時、著者は鉄が原因だと直感するが、その後医学研究の道に入り、一部のアルツハイマー病とヘモクロマトーシスには遺伝子レベルの関連性があることを突き止める。そして、なぜ「ヘモクロマトーシス」のような病気を引き起こす遺伝子が人間の中に伝えられているのかの探求は、人間の進化を巡る謎の旅へと広がって行くことになる。

「冒険とロマンに満ちたメディカル・ミステリー・ツアーにようこそ」と序文に。病気と遺伝子、そして人間の進化を巡る謎を解説する科学ノンフィクション。扱われるテーマはどれも身近で興味深いもの。

寒くなった時、トイレに行きたくなるのはなぜか。氷河期と血糖値との不思議な関係。風邪の患者は会社に行こうとし、マラリア患者はただ寝ているのは、ウィルスによる宿主の操作であるとの説。「DNAのメチル化」によって、一部の獲得形質は遺伝することを示唆する、最新エピジェネティクス研究の紹介。老化は進化を進めるためにあらかじめプログラムされたものではないかという仮説。などなど。

どのエピソードも実に面白い。文章も平易で読みやすく明快。このあたりは共著者である、元大統領のスピーチライター、ジョナサン・プリンスの力かもしれない。翻訳もこなれている。

ただ、病気と進化の因果関係が、そんなに単純に説明できるものなのかどうか、若干の疑念を抱くケースがなきにしもあらず。もっとも、文中で紹介した説についての引用文献は、巻末にきちんと注がつけられており、オリジナルを自分で当ってみることが可能になっている。

「それは何故だ」とただ一心に問い続けた少年の日の素朴なセンス・オヴ・ワンダーが、そのまま結実したかのような本。ゲノム解読は終わったとはいえ、遺伝子と人間進化を巡る探求はまだまだ続くだろう。そしてそこには、まだ秘められた大いなる謎が存在するに違いない。