「キリスト神話~偶像はいかにして作られたか」読了。
クリスチャンではないが、「史的イエスの復元」問題には昔から興味があって、この手の本はよく購入する。興味深いものもあれば、時として「トンデモ」系にあたってガッカリする時も。
この本で説かれるのは、新約聖書のイエス・キリストの物語は、古代エジプトの神話にあるモティーフを借用して捏造された神話であるという説。著者は、教会は正統を誇らんがため、最初期のキリスト教が異教と共有していた豊かな神話的魂を抹殺したと述べる。
旧約の洪水伝説やモーセの物語に、シュメールの神話やエジプトの伝説が投影されているというのは、何度か読んだことがある。イエスの「癒し」の物語に、中東からヨーロッパにかけて昔から存在した「治癒神」のモティーフが投影されているという説も昔読んだ記憶あり。旧約一神教とエジプトとの関連は、フロイトも書いている。
しかし、新約のイエスのストーリーとエジプト神話の類似を述べる本は割と珍しいかな。
トロント大学でギリシャ語や新約聖書を教えていたという著者は、真面目にこの説を述べており、なかなか説得力あるように思える。ただ、彼が新約聖書とエジプト神話との類似性を語る際に全幅の信頼を置いて引用する、ジェラルド・マッシーやアルヴィン・ボイド・クーンという先達は、巻末の解説読むに、アカデミックな世界では業績が認められていない、在野の研究者達。
在野だから全部ダメという訳でもなかろうが、エジプト神話テキストとの異同について、彼らの研究だけに頼って語るのも、やや信頼性を欠くような気がする。エジプト神話テキストについて、これが決定版と同定され研究者が共有できるデータベースが存在するのか、そのあたりにも少々不審を感じる訳でもある。
しかし、「史的イエスの実在」問題に触れた部分は、本筋は置いてもなかなか面白い。新約マタイが伝えるイエスの死の場面には、「神殿の幕が裂け、地震が起こり、岩が裂け、墓が開いて、眠りについた聖なる者たちの体が生き返った」とある。こんな驚愕の出来事が事実なら、なぜ福音書以外の歴史に一切記述されていないのか。この著者の問いは確かにもっとも。
研究者は一生懸命探し続けてきたが、同時期の近隣諸国の歴史に、イエスが実在した証拠となる記述を発見したものはいまだ誰もいない。もっとも、だからといって、それが、イエス伝説がエジプトの神話を借用して誕生したことの証明にはならないのであるが。なかなか面白い本だった。
クリスチャンではないが、「史的イエスの復元」問題には昔から興味があって、この手の本はよく購入する。興味深いものもあれば、時として「トンデモ」系にあたってガッカリする時も。
この本で説かれるのは、新約聖書のイエス・キリストの物語は、古代エジプトの神話にあるモティーフを借用して捏造された神話であるという説。著者は、教会は正統を誇らんがため、最初期のキリスト教が異教と共有していた豊かな神話的魂を抹殺したと述べる。
旧約の洪水伝説やモーセの物語に、シュメールの神話やエジプトの伝説が投影されているというのは、何度か読んだことがある。イエスの「癒し」の物語に、中東からヨーロッパにかけて昔から存在した「治癒神」のモティーフが投影されているという説も昔読んだ記憶あり。旧約一神教とエジプトとの関連は、フロイトも書いている。
しかし、新約のイエスのストーリーとエジプト神話の類似を述べる本は割と珍しいかな。
トロント大学でギリシャ語や新約聖書を教えていたという著者は、真面目にこの説を述べており、なかなか説得力あるように思える。ただ、彼が新約聖書とエジプト神話との類似性を語る際に全幅の信頼を置いて引用する、ジェラルド・マッシーやアルヴィン・ボイド・クーンという先達は、巻末の解説読むに、アカデミックな世界では業績が認められていない、在野の研究者達。
在野だから全部ダメという訳でもなかろうが、エジプト神話テキストとの異同について、彼らの研究だけに頼って語るのも、やや信頼性を欠くような気がする。エジプト神話テキストについて、これが決定版と同定され研究者が共有できるデータベースが存在するのか、そのあたりにも少々不審を感じる訳でもある。
しかし、「史的イエスの実在」問題に触れた部分は、本筋は置いてもなかなか面白い。新約マタイが伝えるイエスの死の場面には、「神殿の幕が裂け、地震が起こり、岩が裂け、墓が開いて、眠りについた聖なる者たちの体が生き返った」とある。こんな驚愕の出来事が事実なら、なぜ福音書以外の歴史に一切記述されていないのか。この著者の問いは確かにもっとも。
研究者は一生懸命探し続けてきたが、同時期の近隣諸国の歴史に、イエスが実在した証拠となる記述を発見したものはいまだ誰もいない。もっとも、だからといって、それが、イエス伝説がエジプトの神話を借用して誕生したことの証明にはならないのであるが。なかなか面白い本だった。
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