■ 準決勝クラブW杯の準決勝の1試合目。オセアニア代表のオークランドシティと北中米代表のモンテレイに勝利して、準決勝に進んできた柏レイソルが、南米代表のサントスと対戦。サントスは、「キング・ペレ」や「キング・カズ」が在籍したクラブで、ブラジル代表選手をずらりと並べている。
モンテレイ戦から中2日での試合となる柏は「4-2-2-2」。GK菅野。DF酒井、増嶋、近藤、橋本。MF栗澤、大谷、レアンドロ・ドミンゲス、ジョルジ・ワグネル。FW田中順、工藤。スタメン11人はモンテレイ戦と同じで、怪我の具合が心配されたDF酒井もスタメン出場となった。FW北嶋、MF澤、MF兵働、MF茨田、MF水野らがベンチスタートとなった。
一方のサントスは「4-4-2」。GKラファエウ。DFダニーロ、エドゥ・ドラセナ、ブルーノ・ロドリゴ、ドゥルバル。MFエンリケ、エラーノ、アロウカ、ガンソ。FWボルジェス、ネイマール。ボランチのMFエンリケは2007年にジュビロ磐田でプレーしている。また、FWボルジェスは2006年にベガルタ仙台でプレーし、41試合で26ゴールをマークし、J2の得点王になっている。19歳のFWネイマールと、22歳のMFガンソはブラジル代表でも中心になることが期待されている。
■ サントスが決勝進出試合の序盤は互角の展開となる。サントスが高い位置からプレッシャーをかけてこなかったので、最終ラインやボランチの選手は落ち着いてボールを持つことができたので、悪くない試合の入り方をする。しかし、前半19分にFWネイマールがバイタルエリアでフリーでボールを受けると、シュートフェイントでMF大谷をかわしてから、左足でコントロールした鮮やかなミドルシュートを決めてサントスが先制する。柏は中盤でボールを奪われて、司令塔のMFガンソをドフリーにして、MFガンソからバイタルエリアのFWネイマールに縦パスが入って、シュートシーンを作られてしまった。
先制して勢いに乗るサントスは、前半24分にも、左サイドのDFドゥルバルのパスを受けたFWボルジェスが、右にドリブルしてから強烈なミドルシュートを突き刺して、「2対0」とリードを広げる。仙台でプレーしていたFWボルジェスは久々の日本でのゴールとなった。対する柏は、セットプレーで惜しいシーンを作るが、ゴールは生まれず。前半は「2対0」とサントスがリードして折り返す。
2点を追う柏は、後半開始からFW工藤に代えて、ベテランのFW北嶋を投入。すると、後半9分に左サイドのCKを獲得すると、MFジョルジ・ワグネルの蹴ったボールをDF酒井宏が高い打点からヘディングシュートを突き刺して1点差に迫る。しかし、サントスは後半18分に突き放す。ゴール右寄りでFKを得ると、DFダニーロが右足で直接ネットを揺らして「3対1」とリードを広げる。その後、柏は、MF澤とDF兵働を投入し、MF澤が2度の決定機を迎えるが、惜しくもゴールならず。結局、3対1でサントスが勝利し、柏は3位決定戦に回ることになった。
■ レイソルは敗れる立ち上がりは悪くなかった柏だったが、ワールドクラスのFWネイマールの一撃にやられてしまった。それまでの時間は、ずっとFWネイマールに対しては、二人くらいで囲んで自由を与えていなかったが、ゴールシーンはボールの奪われ方が悪かったので、まずMFガンソがフリーになって、そのズレを修正しようとして、FWネイマールも少しだけフリーになってしまった。左足でコントロールされたテクニカルなシュートだったが、スピードもあったので、あのコースに打たれたら、GK菅野はノーチャンスである。
さらに、その5分後のFWボルジェスのゴールも、防ぎようのないシュートだった。ここでは、DFドゥルバルの中央への早いパスが良くて、FWボルジェスがいいところでボールを受けると、右足の強烈なシュートで追加点を奪った。ここでも、対峙したDF増嶋やDF近藤もしっかりとマークしていて、シュートコースも切っていたように思えたが、あのコースにシュートを打たれたら、お手上げである。序盤からファールは多かったが、通常の状態ではきっちりと守ることができていたが、想定外のプレーをされると失点につながってしまう。世界レベルの怖さを感じる2つの失点となった。
一方、3点目のフリーキックからのシーンは、GK菅野が何とか防ぐことができなかったかな・・・というシュートで、距離もあって、シュートスピードが出ていたわけではなかったので、「全く動けない」というシュートではなかったと思う。左足のMFガンソが蹴りそうな雰囲気もあったので、MFガンソの方に意識が向いていたのかもしれないが、1点差のままで終盤に入って行くことができたら、サントスを慌てさせることができたので、残念だった。もちろん、決定機を何度も防いでいるので、GK菅野を責めることはできないが、3点目でサントスの方に流れが傾いていった。
■ FWネイマール 圧巻のゴール期待のFWネイマールは華麗なテクニックをいかんなく発揮した。今年7月のコパ・アメリカのときは、左サイドにポジションを取って、サイドでボールを受けてから仕掛けることが多くて、ゴールまで遠いところでプレーすることがほとんどだったので、あまり怖さを感じなかったが、この日は自由に動いて、その力を世界中に見せつけた。後半は消えてしまう時間も長かったが、スペシャルなところを見せた。
それにしても、ゴールシーンは圧巻だった。MF大谷のスライディングが不用意で、簡単に飛び込み過ぎたように思うが、あの位置でFWネイマールが右足でシュートを打ちそうになったので、一か八かで飛び込むしかなかったのだろう。あっさりとMF大谷はかわされて、左足で決められてしまった。今大会は、バルセロナのFWメッシとともに注目を集めているが、こういう舞台で期待通りに活躍できるのだから、生まれながらのスタープレーヤーなのだろう。
この試合は、豊田スタジアムで開催されたが、FWネイマールは3年前の2008年に行われたU-16豊田国際ユース選手権に出場しているので、このスタジアムでプレーした経験がある。この大会には、U-16日本代表も参加していて、MF宇佐美貴史(現バイエルン)、MF柴崎岳(現鹿島)、FW杉本健勇(現C大阪)、FW宮市亮(現アーセナル)、MF高木善朗(現ユトレヒト)などが参加していたので、今、思い出しても、豪華メンバーが集まっていたが、FWネイマールはU-16ブラジル代表の10番を背負っていた。
大会前に「大注目の選手」として名前が挙げられていたので、「いったい、どんな選手なんだろう。」と楽しみにしていたが、ブラジルの選手はみんなテクニックがあって上手だったので、FWネイマールだけが特別に目立っていたわけでもなくて、「やや期待外れ」という感じだった。試合も、「名古屋グランパス・愛知県・豊田市選抜」という混成チームにブラジルU-16が負けそうになったので、3年前に観たときは、「スペシャルな選手」という感想は持たなかったが、3年間で大きく成長している。
「バルセロナやレアル・マドリーなどが獲得を希望している。」という話は、ここ数か月で、何度も見たり、聞いたりしているので、いずれはメガクラブに移籍するのは確実といえるが、他の選手とは、やはり違っていて、数十億の値札が付く選手だと改めて感じられた。おそらく、欧州のクラブでは左サイドでプレーすることになると思うが、どれだけできるのか、楽しみな選手であり、ブラジル人らしいフットボーラーといえる。
■ MF澤が決められず敗れたとはいえ、柏もかなりのチャンスを作った。もしかしたら、オークランドシティ戦や、モンテレイ戦よりも決定機の数は多かったかもしれない。サントスは、それほど組織的な守備をしてくるチームではなかったので、中盤には自由があって、柏の選手も、「意外とできるなあ。」と思いながらプレーしていたのではないだろうか。
惜しかったのは、後半途中から出場したMF澤の2つのシュートで、1本目はポストに当たって、2本目はフリーでゴールに流し込めばいいという状況だったが、シュートをふかしてゴールはならなかった。2つのうちのどちらかが決まっていれば1点差となったので、もっとサントスを慌てさせることができたと思うと残念だが、MF澤はペルーでプレーしていただけあって、南米の選手を相手にしても、堂々とプレーできていた。まだ、3位決定戦が残っているが、MFレアンドロ・ドミンゲスが出場停止となるので、MF澤にもスタメンのチャンスがある。いい動きを見せていたので「ゴール」という結果を期待したいところである。
そのほかには、途中出場のFW北嶋も悪くなかった。鋭い動き出しには相手DFも戸惑っていて、FW北嶋が入ってからは、サイドからのクロスボールにも可能性を感じるようになった。スタメン出場したFW工藤はコンディションが悪かったのか、精彩を欠いたが、FW北嶋が入って柏の攻撃も良くなった。柏は、FW北嶋、MF澤、MF兵働、MF茨田、MF水野、FW林と、攻撃的なカードを何枚もそろえているので、2点ビハインドになって、いったい、どういう交代をしてくるか注目していたが、FW北嶋も、MF澤も、いい感じでプレーすることができた。
■ サントスとの差柏はこれで今大会は3試合目となったが、オセアニア、北中米、南米といろいろな国と対戦している。気になるのは、攻撃のときに、サイドバックのDF酒井宏やDF橋本が相手と「1対1」になっても、抜けきれないシーンが目立つことである。。DF酒井宏の場合は、「強さ」と「スピード」があるので、強引に縦に運んでクロスを上げるシーンもあるが、DF橋本は3試合を通じて、ほとんど相手を抜ききれず、ボールを失うことが多い。ストライドの大きな大型サイドバックとして期待されている選手で、Jリーグではそれなりの「打開力」を見せているが、今大会は、ブレーキになっている。
3年前の2008年にガンバ大阪が出場したときにも感じたことであるが、『クラブW杯に出場してくるチームのサイドバックは1対1の守備が強いな・・・。」という印象で、G大阪もDF加地やDF安田がドリブルで仕掛けても、なかなか突破できずに、攻撃がそこでストップすることが多かった。DF長友、DF内田ら、日本人のサイドバックは欧州でも一定の評価を得ており、全体のレベルは上がっているように感じるが、「サイドバック守備力」に関しては、向上の余地があるように感じる。
■ 決勝はサントス対バルセロナ?決勝に進んだサントスは、木曜日に行われるバルセロナ(スペイン)とアルサド(カタール)の試合の勝者と決勝戦で対戦することが決定した。普通に考えると、バルセロナが決勝に進んでくると思われるので、サントスの決勝の相手がバルセロナと仮定すると、かなり興味深い試合である。
バルセロナは世界でもっとも完成度の高いチームの1つで、相手チームは何もサッカーができないままで終わってしまうことも多いので、サントスも同じような事態になることもありえるが、そこは「ブラジル」の選手たちなので、何も対応できずに、あっさりとやられてしまうということも考えにくい。バルセロナといえども、MFガンソやFWネイマールがボールを持ったら、簡単には奪い返せないと思うので、サントスがどのくらいボールを持てて、チャンスを作れるのか。もしかしたら、バルセロナというチームの「違った良さ」も、サントスが引き出すのではないかとも、期待している。
問題は守備のところで、柏を相手にしても、かなりのチャンスを作られていて、「個人の頑張り」で防ぐシーンが目立った。近年、ブラジルも景気が良くなってきたので、今回のサントスは、ここ数年の南米のクラブとしては珍しいほどタレントが揃っていて、コンビネーションも悪くない。もし、サントスが決勝戦でバルセロナを下すことができると、世界中のサッカーの流れも変わりそうなので、注目の一戦といえる。
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