今大会は、サッカーのレベル自体は低くないと思う。スタジアムの雰囲気も悪くないと思う。イタリア、ドイツ、フランス、ポルトガルとベスト4に残った顔ぶれも悪くない。それでも、物足りなさを感じる。90分間、テレビ画面に吸い込まれるようなエキサイティングな試合がほとんどない。
考えてみよう。「今大会のベストゲームは?」と質問されたとき、すぐに、誰もが認める好ゲームといえる試合が頭に浮かぶだろうか?そして、「今大会で、ベストのプレーヤーは誰?」と聞かれたら、10人が10人とも、別の名前を挙げるのではないだろうか?大会を象徴するようなスター選手もいないし、大会前にアウトサイダーと見られた予想外の国の躍進もなかった。
その原因のひとつに、守備技術の向上が挙げられるだろう。イタリア、フランス、ポルトガル、オランダ、スイス、イングランドといった国のディフェンス面の強さは、目を見張るものがある。これらのチームには、絶対的なセンターバックがいて、相手チームは、単純な攻撃をしていては崩せない。これらのチームは、”絶対に相手にカウンターを食らわない”ということを意識して試合に臨んでいる。そして、少ない人数で攻めて得点(先制点)を奪ったら、ボランチは前に上がらず、サイドバックはオーバーラップを自重する。ゲームをクローズすることに長けている。ブラジル代表ですら、フランスに守備ブロックを形成されると、シュートチャンスを作れなかった。相手が同等以上のチームになる決勝トーナメントにはいると、その傾向はより顕著になった。イングランド×ポルトガル、ポルトガル×フランス、オランダ×ポルトガルといった、世界中が待ち望んだ好カードも、凡戦という他なかった。
エキサイティングな試合が少ないという理由のもうひとつは、世界のサッカー界が、今、ちょうど、どの国も世代交代の時期を迎えているのだろうということ。フランス大会、日韓大会の主役であり、全盛期であった、ロナウド、デル・ピエロ、トッティ、ラウール、ベッカム、中田英寿らが、衰えを見せ始め、次代のスター候補である、ロッベンやC・ロナウド、ルーニー、メッシらが、期待通りのプレーができなかった。
90年代前半に主流だったプレッシングサッカーは、ロナウドら圧倒的な個人技術を持った魅惑的なアタッカーの出現によって衰退した。カンナバーロやテリー、カルバーリョら、センターバックのハイレベルなプレーぶりは見事ではあるが、サッカーの未来には、不安を覚える。