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【第二次トランプ政権に備えよ!】(21) 少数派も“アメリカ第一主義”



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先月中旬、記者はニュージャージー州パサイク郡を訪ねた。人口50万人ほどのうち、ヒスパニック(※中南米系)が約45%、黒人が約15%を占める“多様性”が特徴の地域だ。これまで民主党の牙城だったが、今回の大統領選挙では共和党のドナルド・トランプ次期大統領が民主党のカマラ・ハリス副大統領に3ポイント差で競り勝った。

「この郡でトランプ氏が勝ったのは偶然ではない。面白いものを見せますよ」――。大統領選と同時に実施されたパサイク郡委員会の委員選に共和党から出馬した医師のアサド・ムジタバさん(39、右画像)は、自身の診療所の一室でそう言って、徐にパソコンの電源を入れた。画面に現れたのは、郡に関連する今回の選挙の候補者一覧だった。

「ある党の候補者はヒスパニック、イスラム教徒、外国出身の移民、性的少数者。もう一方は白人が3人で、黒人が1人。どちらが民主党か共和党なのかは一目瞭然でしょ?」。ムジタバさんは悪戯っぽい笑みを浮かべ、こう続けた。「実は前者が共和党だ。勿論、党全体で見れば民主党のほうが多様性はあるが、この郡では共和党の多様性が圧倒している」。

今から2年半以上前、「共和党がヒスパニックら少数派の有権者を取り込み、政治が大きく変わるだろう」と語った人物がいた。トランプ氏の元側近で右派ナショナリストのスティーブ・バノン氏だ。

バノン氏は2022年の保守系コラムニストとのインタビューで、少数派を取り込んだ“アメリカ第一主義”を“インクルーシブナショナリズム(包摂的なナショナリズム)”と呼んだ。「ナショナリズムに人種、民族、宗教、性的指向は関係ない。重要なのはアメリカ市民かどうかだけだ」。バノン氏の言うインクルーシブナショナリズムは本物なのだろうか。

先月5日投開票の大統領選では、共和党のトランプ次期大統領が激戦の7州を制する等して圧勝した。その背景にはトランプ氏個人の人気にとどまらず、共和、民主両党の支持基盤に起きているある変化があった。ムジタバさんは、両親がパキスタン出身のイスラム教徒だ。「移民もアメリカで長年暮らしてくれば、価値観は何世代もアメリカで暮らす人々と似てくるのは当然だ。不法移民の流入は脅威だし、自分達の生活が最重要だ」と強調する。

共和党は長年、主に白人の富裕層や保守的なキリスト教徒を支持基盤としており、人口が伸びているヒスパニックら少数派への浸透が最重要課題だった。ただ、トランプ氏は白人労働者の取り込みに成功する一方、反移民の主張や「白人至上主義的だ」との批判も付き纏い、当初は少数派への浸透は難しいとする見方もあった。

ところが今回の大統領選では、『CNN』の出口調査によると、ヒスパニックのトランプ氏への支持は2020年の大統領選に比べ14ポイントも伸び、46%に上った。パサイク郡のようなヒスパニックの人口が多い郡も制している。

パサイク郡の中心の街、パターソン。嘗て絹の産業で栄え、現在はヒスパニックや黒人、アラブ系等が多く住む。通りを歩くと、スペイン語の看板や中南米料理のレストラン等が目立っていた。「我々がアメリカに来た理由は、経済的に豊かになり、安全に暮らすというアメリカンドリームを実現する為だ。雇用を脅かし、治安も悪化させる不法移民には出て行ってもらいたい」。ドミニカ共和国出身で商店を経営するホセ・フェリペさん(42、左下画像)は、今回の大統領選でトランプ氏に投票した理由をこう明かす。

“アメリカ第一主義”については、「要するに、我々アメリカ人の生活を最優先するということだ。白人だろうが、移民だろうが関係ない。トランプ氏の愛国主義的な姿勢を全面的に支持する」と語る。

トランプ氏が躍進した背景について、共和党のニュージャージー州の幹部を務めるプリーティー・パンドヤパテルさんは、「ヒスパニック等少数派の多くは労働者で、生活は決して楽ではない。庶民の生活を最重要視するトランプ氏のアメリカ第一主義は、白人労働者だけでなく、少数派も共感し易い」と解説する。

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更に、こうも強調する。「ヒスパニックだけではないが、少数派の中ではリベラルな人達は決して多くない。“家族を大切にする”・“伝統を大事にする”といった共和党と同じ保守的な価値観の人が多い。トランスジェンダーの問題等に重きを置く民主党の主張との親和性は高くない」。

一方で、トランプ氏に投票はしたが、主張全てには共感できないというヒスパニックもいた。スーパーマーケットを営むドミニカ共和国出身のフランシスコ・フェレイラさん(58)もその一人だ。「トランプ氏は問題が多い人物で、正直なところ、好きではない」と言い切る。だが、「今回の大統領選の争点は一にも二にも経済だった。あまりにもここ数年の物価高騰は酷過ぎる。(民主党からの)政権交代が必要だった」と明かす。

前出のムジタバさんも、「共和党がヒスパニックを強固な支持層にするには更なる時間が必要だ」との見方を示す。「彼らは共和党に期待し始めたばかりだ。それに応え、実績をつくっていく必要がある」。

一方、パサイク郡の労働組合『パサイク郡中央労働委員会』のトーマス・ケリー委員長(60)は、「残念ながら多くの仲間達が、民主党に見捨てられたと考えるようになってしまった」と嘆いた。多数のヒスパニックを含む約2万5000人の組合員を抱え、大統領選ではハリス氏を支援した。「あの時、こんな事態が起こるとは夢にも思わなかった」。

“あの時”とは、2008、2012年の大統領選を指す。民主党のバラク・オバマ氏が、共和党のジョン・マケイン氏、ミット・ロムニー氏を相次いで破った。オバマ氏は組合等従来の労働者に加え、ヒスパニックや黒人等少数派の支持も固めた。ケリーさんの組合もオバマ氏を支援した。

当時の共和党の支持基盤は富裕層や保守層の白人が中心だった。白人の人口は減る一方、民主党の支持層のヒスパニック等少数派の人口は増え続けることから、「共和党には未来がない」との声まで聞かれた。ケリーさんは、「パサイク郡は労働者が多い上、多様性も特徴だ。まさか共和党の候補が大統領選で勝つ日が来るなんて、未だに信じられない」と明かす。

ケリーさんは30年以上、組合で活動してきた。「バイデン大統領は嘗てないほど組合や労働者を重視する姿勢を示した大統領だ。自身も労働者層の出身で、インフラ整備にも投資してきた。だが、そうした政権の良い点は選挙では殆ど触れられなかった」。

更にケリーさんは組合として有権者の戸別訪問等を続ける中で、ヒスパニックを含む多くの有権者から「民主党は人工妊娠中絶の権利擁護等社会問題に力を入れ過ぎだ」との声を聞いたという。「労働者にとって生活が最も重要なのは、白人だろうが、少数派だろうが変わらない。副大統領のハリス氏は急激なインフレの責任を負わされてしまった」と考える。

「ハリス氏は『中間層を重視する』と強調はしていたが、前面に出ていたのはトランプ氏への独裁批判や女性の権利擁護等だ。我々労働者が直面しているのは、『明日にでも中間層から貧困層に転げ落ちかねない』という強い危機感で、ギャップがあった。そこにトランプ氏のアメリカ第一主義が上手く入り込んだ」。

ケリーさんは、「共和党が白人労働者に加え、少数派も取り込めば、パサイク郡だけではなく、民主党が優位を保ってきたニュージャージー州全体も、民主、共和両党が競り合う激戦州になってしまう」との危機感を募らせる。州全体では2020年の大統領選でトランプ氏はバイデン氏に約16ポイント差で敗れたが、今回はハリス氏に約6ポイント差まで詰め寄った。

だが、望みも捨てていない。1970年代に共和党のリチャード・ニクソン大統領が辞任に追い込まれたウォーターゲート事件や、トランプ氏が登場するまでの共和党の苦境等を例に挙げ、「我が国の政治では、もうだめだと思われた政党がいつも復活してきた」と言う。その上で、こう強調する。「トランプ氏は今後4年間で成果を上げなければ、厳しい現職批判にさらされるだろう。民主党がしっかりと労働者に向き合えれば、自ずと少数派にも向き合えることになる」。 (取材・文・撮影/北米総局 松井聡)


キャプチャ  2024年12月21日付掲載

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