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2024-11-25 (Mon) 16:48

チ。―地球の運動について― #9

ピャスト伯の過去が明らかになるお話でした。

ピャスト伯は先代から受け継いだ、完璧な天動説の理論がありました。彼のこれまでの生涯は、その理論の完成に注がれてきました。しかし彼がどんなに努力しても、その理論では無視できない誤差が生まれてしまいます。

その理由に、ピャスト伯は気づいていました。先代から過去の膨大な観測記録とその理論を受け継ごうとしていたピャスト伯は、その理論に感動したその時にその理論では説明できないものを見てしまったのです。それは満ちた金星でした。
天動説が正しければ、満ちた金星は見えるはずがないものだったのです。
ピャスト伯は先代の申し出を、一度は断りました。しかし死の床にある先代から、ピャスト伯は全てを託されました。

最初は資料の提供を拒否したピャスト伯ですが、ある条件をクリアすれば受け渡すと提案しました。それは彼がかって見た、満ちた金星をもう一度観測することでした。そのためにはオクジーの優れた視力が必要でした。卓越した視力を持つことを証明したオクジーは、夜空に立ち向かいました。そしてオクジーは、そこに満ちた金星を見たのでした!

それを知ったピャスト伯は、資料室の鍵をバデーニに渡そうとします。しかし彼は、簡単にそれを手放しませんでした。それはかれにとって、あまりにも重い先人たちの思いを受け渡すことでもあったからです。

ピャスト伯から鍵を手に入れたバデーニは、資料を全て自分の研究室に移すようにオクジーに命じました。そしてヨレンタには、彼女の出番はここまでだと告げました。女性が異端研究に関わったことが明らかになった時のリスクを考慮した判断ですが、単純に研究成果を独り占めしたかったようにも思えました。(^^;

それに落ち込むヨレンタに、オクジーは尋ねました。文字を読めるということは、どういうことなのかと。
それに対してヨレンタは、禁忌に触れると知りながら、それは奇跡だと教えてくれました。文字や書物によって、私たちは先人の優れた考えを知り、先人と対話することができるのです。その言葉に、オクジーは心を動かされたようです。

そして次の世代へとバトンをつないで、ピャスト伯は息絶えました。彼が最期に見た夜空の美しさが、かれにとっての最大の救いだったと思います。

というわけで、真理を求める熱い思いが伝わってくる内容でした。人1人の生涯には限りがありますが、そこで残した記録は時を超えて受け継がれます。そして真理は、美しいだけでなく残酷でもあります。他の仮説に費やした時間を無駄にして、見つけ出した人間の人間性と無関係に厳然として現れます。
そうして現れた真理もまた、文字と同じように1つの奇跡なのだと思いました。

最終更新日 : 2024-12-16

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満ちた金星
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