投稿日:2024-11-09 Sat
カトリックでは11月の1日は諸聖人の日(La Toussaint)、そして翌日2日は死者の日(Défunt)、その前日となると、毎年ハローウィンで騒がしい。渋谷や新宿の10月末の様子がテレビのニュースで見たくなくとも目に入ってしまう。もちろんこんなことは最近のことだ。アメリカで起こった「服部君事件」の頃日本では、人によって温度差はあるだろうがハローウィンのことをあまり知られていなかった。それだけに事件は衝撃的だった。ところが今年はそこにアメリカ合衆国の大統領選挙がぶつかって、これまた大騒ぎ。「もしトラ」などと言って、トランプ氏の当選を低く見積もっていた人たちにとって、トランプ旋風が現実となった。再び「アメリカ・ファースト」「偉大な国アメリカ」のような面妖なフレーズが日本語版となって流行るのだろうか。以前は「都民ファースト」なる政党まで作った都知事がいたし、今もいる。こんな思考がいかに危険で破滅的か。「神奈川県民ファースト」「埼玉県民ファースト」と各県が言い出したらどうなるか考えればわかることだ(国レベルでこれを言い出したとしたら、恐ろしい)。
などと、11月初旬にひとり敏感になっているのは、毎年のことながらこのカトリックで言う「死者の日」である11月2日は僕の誕生日だからだ。とはいえ、なにも特別なことをしているわけでも、してもらっているわけでもないが・・・。以前はもし誕生日に意味があるとすれば二十歳までであり、評価してよいのは古希の時くらいだと思っていた。が、実際古希を過ぎてみると70という数字にあまり意味があるとは思えなくなった。時代が変わり、70歳の人間なんて今時まったく「まれ」ではなくなったからだ。そのせいかどうかわからないが、「後期高齢者」なる称号は75歳からとなっている。
妻の誕生日の時もそうだったように、近くの蕎麦屋で蕎麦定食を食べる予定だった。が、誕生日前の先週長兄が死去し(90歳)、今週の日曜(11.3)に通夜、翌月曜(11.4)に告別式となって、我が誕生日はすっかり忘れ去られてしまった(自分自身も忘れた)。
葬式の話をしても、抹香臭くておもしろくないかもしれないが、我が誕生日をつぶされた腹いせにここでひとつぶちまけてしまおう。
我が家(実家)は小さな商店を経営している。いわゆる商売人のせいか、いろいろ各方面の人たちとも付き合いをしているので、葬儀は「小さなお葬式」ではなく、* * ホールで大々的に行われた。そんなこともあり、2年前の次兄の葬式の時もそうだったが、というより特に次兄は地元の議員さんたちとも付き合ったり、自治会長をしたり、ライオンズ・クラブのなんたらをしたりと忙しい人だった(ついでに言うと、サッカーチーム「アルディージャ」の応援団長らしきものにもなっていた)。その次兄は2年前まさに我が誕生日の頃身罷って葬儀が行われたが、その時に地元の議員さんも・・・これまた彼らの「商売」のため(?)だろう・・・参列してくれた。その中に国会議員の牧原氏も来てくれて、弔辞を読んだ。
ところでその牧原氏は、石破内閣の下で法務大臣を拝命し・・・次兄が生きていたらどれほど喜んだか・・・、政治家人生も順風満帆かと思われた。と、その時首相が解散を宣言して、衆議院選に突入した。法務大臣に任ぜられるほどの牧原氏はもちろん何期も国会議員を経験しているのだが、今度の選挙はいけなかった。というのも、同じ選挙区には絶対的に強力な立憲の枝野氏がいるので今まで常に比例代表で当選するのに甘んじていたからだ。今度の選挙では石破首相を筆頭に、各大臣は比例には名を連ねず直接選ばれることにしたらしい(註: 彼は8番目に名を連ねていた。また、昨日不確実な情報だが、次回の選挙には出馬しないらしい・・・'24.11.28 記)。そんなわけで、牧原氏は枝野氏とほぼ一騎打ちを戦った。が、ご存じのように、枝野氏に敗れて野に下ることになった。実は投票日の数日前に、牧原氏は統一教会との関係をどこかですっぱ抜かれて(まさに葬式に関連したことで)守勢に立ったことが敗因のひとつと言われている。
哀れ法務大臣は落選の責任を取って大臣を辞すると発表した。このあたりは、国会議員ではなくとも大臣を務めることはできるはずなのだが、と少し同情の感が湧かないわけでもなかった。
そんなわけで、この度の長兄の葬式話に戻る。長兄は次兄と真逆の性格で、社交的ではなく、「長」の付くものは可能な限り避けていたような人間だった。たぶん、議員さんとも口をきいたことがあるかどうか。牧原氏に関しては会ったこともなかったのではないかと思う。
列席して長兄の遺影をぼんやり見ていたら、なんとなんと、牧原氏が長兄の棺に近寄り、棺の窓を開いてお祈りをしているではないか。それどころではない、司会が「弔辞を法務大臣牧原様にお願いします」と言った時にはびっくりし、ついで一瞬耳を疑った。「前法務大臣」の間違いではないか。
よく考えてみれば、まだ組閣前だから、牧原氏は現職の大臣なのだ。たとえレイムダックしていようと大臣は大臣だ。耳元で隣の妻が「そういえばここに来る前、がっしりとしたSPが付いていたわ」と囁く(大臣にはSPが付く)。
だが、さらに驚いたのは、彼の弔辞の内容だった。長兄の簡単な履歴となしてきた仕事、あることないことを並べ立てて、立派な長兄を見せてくれた。彼は似たような弔辞を何万回もしているのだろう。選挙に落ちても、大臣を辞めても落ち込んでなんかいられないのだろう。次々と突き進んでいく力、体力・気力が彼らには絶対条件なのだ。こうして、喪主である故人の妻や息子に強い印象を与え、列席者にその義人ぶりを発揮する。ぐうたらの僕からするとやはり彼らのような人は超人の部類に入るのかもしれない。
商売仕事はまじめにこつこつしていたとは思うが、決して凡人の枠を超えることはなく卒寿まで生きた長兄は、一時の大臣であったにせよ、我が一族で初めて大臣に弔辞を読まれた死者となった。兄はうまいときに死んだものだ。そう言えば、「抜け目」だらけの僕とくらべると、彼は抜け目のない人だったかもしれない。
実は、その長兄を病院で看取った日、その息子つまり僕の甥が「今は小さなお葬式が流行っているけど、そうはいかないだろうな」と言った。跡継ぎとして店を拡大しようとしている甥からすれば、当然考えることだ。「あなたのような身では父親の葬式は息子のためにあるんだろうね」と答えると、「そう思うんだ」と身を乗り出した。たぶん、彼は訃報の連絡を精一杯、つまり牧原氏まで広げたのだろう。結局、抜け目ないのは跡継ぎの息子なのかも。牧原氏の弔辞の中身の大半は、彼が作文したのかもしれない。この度牧原氏は落選したけれど(枝野さん強すぎ)、葬式や結婚式に食い込んでくる自民党の小まめな活動(ちなみに次兄の息子の結婚式にも自民党の国会議員がいた)を見るにつけ、その強さの威力をつくづく感じる。彼らに「かね」が必要なわけだ。
というわけで、葬式話も済んで、遅ればせながら我が誕生日の食事会(と言っても二人だけのつましい食事会)が昨日実現した。店は我が家から歩いて2・3分の所にある蕎麦屋さんだ。ここには写真を張り付けられなくなってしまったので(facebookに貼ります)、お見せできない。料理はいつも通り「その週のランチ」つまりそばセット(150円値上がりして1150円)をいただいた。手打ちそばと今週は海苔の天ぷら丼がついている。海苔の天ぷらと言っても侮るなかれ。その海苔にトビッコというトビウオの卵がチーズで張り付けれた天ぷらで、なかなか美味だった。お祝いなので、冷の酒も一杯注文した。何種類かあったが、せっかくなので埼玉の「神亀」という酒を選んだ。埼玉もばかにできない。辛口でこくのある味わい深い酒だった。長兄の通夜で飲んだ酒は、これも埼玉の酒で「帝松」と言った。これもおいしいと思って飲んだが、たぶん等級が違うのだろう、軍配は「神亀」にあがる。
最近は、アルコールを摂取していないのでとても弱くなった。ほんの一口飲んだだけで、顔がほてり赤くなる。そのために分かったが、たまに飲む酒や葡萄酒がなんとおいしいことか。ある意味では本当の通になりつつあるのかもしれない。
なんだか、秋を通り越していきなり冬になった。これから図書館に借りている本を返して、予約してある本を借りに行く。ちなみに、借りていた本は『爆発する宇宙』戸谷友則著(ブルーバックス)・・・最近宇宙に関する興味が湧いている、戸谷氏の言葉ではないが、宇宙の始まりも最後も現在の知識通りなら、まずは満足するところまでわかってきたのではないかと思われる(逆に、わかりうる限界も見えてきたとも言える)。彼は、研究の行きつく先は、結局生命のことになるとも言っている。確かに、素粒子論まで突き詰めて生命の誕生を考えると、生命の消滅・・・先日、長兄の遺骨を箸渡しして骨壺に入れる儀式をしながら・・・ということを考えた。骨、カルシウム、原子、原子核というようにどんどん分化していき、何百億年後かに宇宙の塵(素粒子レベルの)になって終わる。こんなことを考えるのは痛快だ。
もう一冊は『広葉樹の国フランス』門脇仁著(築地書館)・・・ガリアの太古から中世、ルネサンスを経て、絶対王政、大革命、産業革命そして20世紀から現代にいたるフランスの森と林業における樹木の種(しゅ)についての研究だ。なぜ、日本と異なり、広葉樹が多いのか。広葉樹がどのようにフランス人とかかわっているか、こんなことを研究している珍しい書だ。
返すものはもうひとつあった。それは映画『野イチゴ』(イングマール・ベルイマン監督)のビデオテープだ。ベルイマンらしく静かな映画だ。主人公の老教授はいつも悪夢を見ている。彼は車で行く途中で見つけた野イチゴを見て、プルーストのマドレーヌ菓子と同様に彼の青春時代・・・それは妻の不倫に苦しむ自分自身・・・を回想しつつ、現実の息子夫婦の仲たがいに苦しみ、共に旅した若者たちの屈託のなさに喜ぶ。全体がとても暗い映画だ。もっとも、ベルイマンの映画で明るい映画を知らないが。
牧原さんと枝野さんの選挙戦、私の町でもニュースが流れました。国会議員さんって本当にすごいんですね。甥ごさん、しっかりされていますね。いろいろ菜ことが終わってから、奥さまと静かにお祝いをされて良かったのでは?と思います。お兄さまのことは残念でしたが、比較的お元気なようで安心しました。寒暖差が激しいので、ご自愛ください。
2024-11-10 日 17:55:15 |
URL |
近藤玲子
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せっかくのお誕生日が大変だったのですね。政治家ってどうしてそんなにお金がかかるのかと思っていましたが、少し謎が解けました。興味深く読ませていただきました。
2024-11-11 月 16:59:39 |
URL |
熊本たま
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Re: こんにちは。
こんにちは。
我が身内の話を失礼しました。
政治家は、選挙区の人たちの情報をいろいろつかんでいると思います。親しくした人の家の慶事や弔辞には反応できるようにしているのでしょう。その家の人が、自治会長をしていたり、何らかのクラブの長だったり・・・つまり影響力があればなおさらです。本人が出席できない場合は、秘書がその役をするのでしょう。
当然、お金がかかります。秘書をなんにんもかかえなければなりませんから。
僕自身は子供の頃から商人が嫌で仕方ありませんでした。そういうわけで、お金と無縁の生き方を選びました。
こんにちは。
我が身内の話を失礼しました。
政治家は、選挙区の人たちの情報をいろいろつかんでいると思います。親しくした人の家の慶事や弔辞には反応できるようにしているのでしょう。その家の人が、自治会長をしていたり、何らかのクラブの長だったり・・・つまり影響力があればなおさらです。本人が出席できない場合は、秘書がその役をするのでしょう。
当然、お金がかかります。秘書をなんにんもかかえなければなりませんから。
僕自身は子供の頃から商人が嫌で仕方ありませんでした。そういうわけで、お金と無縁の生き方を選びました。
2024-11-12 火 13:45:30 |
URL |
石田明生
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