投稿日:2024-09-03 Tue
さて、開会式のメニューも残りは、Obscurité(暗闇) Solidarité(連帯) Solennité(荘厳) Éternité(永遠)だけとなった。Obscurité(暗闇)は突然やってくる。神々の饗宴中、バッカスが歌い終わる否や、彼の上にObscuritéのテロップが現れると場面はがらりと変わり、セーヌ川の水上ステージに移る。何十人かのダンサーたちがまるで「闇」の恐怖・・・気候変動による干ばつ、洪水、森林火災・・・を表現しているかのように激しく踊る。その激しさが頂点に達したと思われたその瞬間、ダンサーたちは次々と倒れて、闇に包まれる。
何十人かのダンサーたちがまるで「闇」の恐怖を表現しているかのように激しく踊る。
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投稿日:2024-08-28 Wed
オリンピック開会式は12の章からなっている。以下の通りだ。1. Ça ira(上手く行くだろう) 2. Enchanté(初めまして) 3. Synchronicité(同時性)
4.Liberté(自由) 5. Égalité(平等) 6. Fraternité(友愛) 7. Sororité(友愛-女性形)
8. Sportivité(スポーツ精神) 9.Festivité(祝祭) 10. Obscurité(暗闇)
11. Solidarité(連帯) 12. Solennité(荘厳) 13. Éternité(永遠)
この全てを紹介するつもりはないが、「祝祭(お祭り騒ぎ)」の章はどうしても取り上げたい。この長い章はパフォーマンスそのものの長さというよりも、船上行進をする国々の紹介が多い。開会式も大詰めとなって来たというわけだ。
日本選手団は他国開催では過去最高の人数だとか。
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投稿日:2024-08-26 Mon
セーヌは流れて、次の章は«Sororité»となる。あまり聞きなれない単語だが、frère(兄弟) から fraternité が派生しているように、sororité はsœur(姉妹)を起源とする。もともとはfraternitéと対になる言葉だった。が、フランス大革命中に「Liberté自由・Égalité平等・Fraternité友愛」が国家の標語として採用されて以来、fraternitéの意味幅は広がり(日本では明治時代に伝わったがさらに広く解釈され「博愛」と誤訳された)、元の意味「兄弟愛」「男同士愛」から男性性が薄れて隣人愛、友人愛さらには同胞愛を表すこととなった。革命時代(18世紀末)といえども、男性を意味するfraternitéがsororitéより優先されたということか。それとも、言語の常として自然のままに・・・男=hommeが人の意味もあわせ持つ(男性名詞にもかかわらず)ので・・・男性の語になってしまったのか(日本でも性を問題にせず「きょうだいはいますか?」のように問いかけることがある)。
«Sorarité»はフランス国歌「ラ・マルセイエーズ」から始まる。
フランス国旗を模したドレスを身にまとったオペラ歌手のアクセル・サン=シレルが
競技会場となるグラン・パレ(大宮殿)のてっぺんで国歌を歌う。
普段は博物館となっているグラン・パレは1900年の万博のときに建設された。
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投稿日:2024-08-22 Thu
セーヌは流る。船はシテ島のコンシエルジュを左に見て、ポン・ヌフ(新橋)を過ぎ、ルーヴル美術館「方形の庭 Cour carrée」と学士院(アカデミー)を繋ぐ「芸術橋Pont des Arts」をくぐる。次の章は«Égalité平等»。
フランス陸軍合唱団の力強いコーラスが流れる中、「フランス共和国親衛隊が入場します」とNHKの司会の声が聞こえる。先の富樫氏によると〈Orchestre de la Garde républicaine〉=〈ギャルド・レピュブリケーヌ管弦楽団〉で、通称「ギャルド」と呼ばれる楽隊が芸術橋を渡る。その楽団の中をすり抜けて聖火を運ぶ謎の男(それとも女性?)が橋の中央で、何かに点火する。すると火は導火線を伝って、中央にドームをいただく荘厳な学士院(アカデミー)の建物に達する。学士院は花火に包まれた。
その学士院から、マリ出身のアフロ・トラップ歌手Aya Nakamura がダンサーとともに登場し、彼女のヒット曲«Djadja ジャジャ»を歌いながら芸術橋を渡る。ここに、演出家の諧謔たっぷりの主張、«Égalité平等»は完成する。
芸術橋の上でAya Nakamura と一緒に踊りながら演奏するギャルド。
遠くに見えるドームはフランス学士院(アカデミー)、知性の殿堂ともいわれる。
1635年の宰相リシュリュー枢機卿によって設立された。
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投稿日:2024-08-18 Sun
前回、パリ五輪の開会式直後、その式中の場面で国立図書館のシーンを取り上げた。それから一週間、開会式については様々な感想・意見がネット上で飛び交ったし、今もなお飛び交っている。それだけ、このオリンピック開会式は強烈なインパクトを世界に与えたということだ。それまでのオリンピック開会式は、開催国の歴史と文化、その豊潤さと魅力を歌や踊りで凡庸に(更に言えば抽象的に)紹介していただけだった。当然、世界中の人たちもこの度の開会式も程度の差はあれそんなものだろうと思っていたはずだ。違いは舞台が屋内ではなく外であり、選手団がセーヌ川を船で登場する、要するに世界遺産でもあるパリの景色をたっぷりと見せて、今までの開会式との違いを誇示するだけだろうと想像していた。ところがその想像は、«Liberté自由»という章に入りドラクロワの絵を思わせる市街戦の風景が光で映し出されて裏切られた。映像に現れたのは革命時に牢獄と使用されていた美しい中世の建物コンシエルジュリーであり、その窓には己れの首を持つ貴婦人の像だった。女性をマリー=アントワネットと思うのは容易い。その生首は
Ah! Ça ira, ça ira, ça ira / Les aristocrates à la lanterne ! Ah! Ça ira, ça ira, ça ira / Les aristocrates on les pendra !
と叫ぶ。とそれを受けるかのように、Gojiraというメタルロック・バンドは激しいビートにのせてAh ! ça iraを歌った。
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市民革命の絵とコンシエルジュリー、パリの紋章を表す船とその先端に立つオペラ歌手
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