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石田明生

Author:石田明生
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街の人たち(8)
ハンガリー娘

 君はいつもそうしているの、娘さん。考え深げに、じっとベンチに座って,道行く人を見ているの。それとも物思いに耽っているのかな。
 でも,君の、健康そうで若々しい体から感じられるのは、はじけるような躍動感だ。もしかするとだれも見ていない真夜中,くるみ割り人形のようにくるくると踊っているのではないか。裸足のまま,車道を軽快にリュクサンブール宮殿まで、スキップを踏んでいるのではないか。
 枯れ葉散る秋になっても,雪まじりのみぞれ降る冬になっても,君は裸足で,ワンピース一枚で、ベンチに座っているのだろうな。それとも、お金持ちそうな紳士が、すっぽりと頭から外套を掛けてくれるのかな。
 君と友達になりたかったなあ。でも,そう思うのは僕だけではないだろうな。
【ボナパルト通り、ハンガリー学院の前で】


2008年夏の旅行記 | 17:56:38 | Trackback(0) | Comments(0)
街の人たち(10)
ヌレーエフ

ねえ、ヌレーエフさん。
あなたが、フランスに亡命したのは、1961年、23歳の時だったのですね。噂によると、一人でとっさに決断したとか・・・
映画『愛と悲しみのボレロ』でも、あの場面は印象的でした。
ところで、あなたの役を演じたジョルジュ・ドンがその後エイズで亡くなったけど、あなたまで、同じ病気で倒れてしまうとは・・・
【ルドルフ・ヌレーエフ・・・シャン・ゼリゼ通りの北側のアヴニュー・ガブリエル】


メリーゴーランドの女の子

 手を振っている方向に、ママンがいるのかな。
 メリーゴーランドのお馬でも、君は淑女のようにアマゾーヌ(amazone 横すわり乗り)で乗ってるね。ママンのまねをしたのかな。

【エクス・アン・プロヴァンスにて】


2008年夏の旅行記 | 17:49:53 | Trackback(0) | Comments(0)
街の人たち(9)
マッハ

 一体君は、落下しているのか,それとも上昇しているのか。平和なリュクサンブール庭園で、そんな姿は場違いじゃないか。
 人騒がせだね。
【フィリップ・セネ Philippe Seené 作「マッハIII」】

酔いどれ詩人

 やあ、驚いたなあ。君は大詩人らしいけど、牛が食べ物を反芻するように、アルコールをためておいて反芻するのだね。それなら、酔いはずっと持続するからね。
 もしかしたら、君の名前はヴェルレーヌ?
 そんなことないよね。確かにヴェルレーヌはこの辺に出没していたけど、百年も前のことだもの。
【アクセル・カッセル Axel Cassel 作「酔いどれ詩人」・・・リュクサンブール庭園】


2008年夏の旅行記 | 17:36:55 | Trackback(0) | Comments(0)
街の人たち(1)
メスナジェ窓ふき

 メスナジェ君,今度は窓拭きかい。そんなの変だよ。ガラス窓を汚しているのは君自身なんだから。それとも自分を消し去ろうというのかね。
 ここは、メニルモンタン。来るたびに,君と出会い,君の活躍を確認する。君が一番似合う通りだ。
 でも先日、リヴォリ通りのサン・ジャックの塔近くで君を見かけたよ。日よけのシートで君は本を読んでたけど、あんな乙にすました街では、「白い男」はまさに白けて見えた。
 白濁するパスティスをこよなく愛し、しゃべればアニスの香りを漂わせる、そんな連中だよ、君のことが好きなのは。
【メニルモンタン通り】


2008年夏の旅行記 | 07:39:09 | Trackback(0) | Comments(0)
街の人たち(7)
ニケ

 ニケさん。いやにのびのびしているじゃないか。ルーヴル宮殿の中にいるよりもよほど気持ちがよさそうだね。まさか、逃げ出して来たんじゃないだろうね。
【モンペリエ、現代の古代都市アンチゴーヌ】


円盤投げ

 君ははるばるローマからモンペリエにやって来たんだね。ここは、古代オリンピックをするのに最適さ。思い切り円盤を投げることができるよ。でも、練習のし過ぎには注意しよう。おしりの湿布が痛々しいよ。
【モンペリエの現代の古代都市「アンチゴーヌ」】

2008年夏の旅行記 | 07:28:29 | Trackback(0) | Comments(0)
街の人たち(6)
ジダン

 「スタジアムで会おうぜ Rejoins-moi au stade!」
 君とこうして出会えたのは、今回のフランス旅行で一番嬉しいことのひとつだ。だってそうだろう。あのワールドカップ以来・・・君は大車輪の活躍をして,強敵ブラジルを粉砕し、フランスチームを決勝まで進めた。そして,あの頭突き,世界中を驚嘆させたあの頭突きで君は一発退場し、フランスは準優勝に終わった・・・あの決勝戦以来、君は、フランスではいざ知らず,日本ではほとんど話題に上らなかったからだ。
 ワールドカップ終了後,『ジダンの頭突き』という歌がはやったらしいね。僕も何度も聴いたよ。アップテンポなレゲエ調の楽しい曲だね。もっとも君にとって楽しい曲だったかどうか知らないが・・・
 「スタジアムで会おうぜ」こうやって、子供たちに呼びかける君は,やっぱり、スポーツ界のヒーローだ。また、あのチャリティー・コンサート『愚か者たちのコンサート』に、出たらいいのに。

2008年夏の旅行記 | 07:27:39 | Trackback(0) | Comments(0)
街の人たち(5)
セギュール

  マダム、こんなところにいらっしゃったのですか。もう少しで、通り過ぎてしまうところでした。実際、今まで何度も通り過ぎていました。リュクサンブール庭園の茂みの中で、遠くから聞こえる子供たちの歓声に、マダムはじっと耳を傾けているのですね。
 今でも昔でも、夢中になって遊ぶ子供たちの心はひとつ、たくさんの童話をお書きになったマダムには、そのことがよくお分かりでしょう。『模範的な女の子』や『学問のあるロバの話』や『ソフィーの不幸』などなど、あなたの童話は決してきれいごとだけですまさせない、芯の通ったレアリスムがありますね。炉辺に集った子供たちに童話を読み聞かせるマダムは、それはそれは魅力的なおばあちゃんだったんでしょうね。
 ナポレオンのモスクワ遠征時、あなたの父上ロストプーチン伯爵はロシア皇帝アレクサンドル一世からモスクワ総督に任ぜられ、あの有名なモスクワ大火の責任者にされそうになりましたね。そんなナポレオンの敵を父親に持ちながら、マダムは、フランスの伯爵家に嫁いだのですね。御苦労なさったことでしょう。
 ご存知ですか。かつて、あなたの童話は日本でも翻訳されたことがあったのですよ。また復刊されればいいのですが・・・
 ねえ、セギュール伯爵夫人。
【リュクサンブール庭園内】

注 : 夫人の訳書は、「少年少女世界の名作文学」第21巻 フランス編3 (昭和41年)小学館 の中の『学問のあるロバの話』です。

2008年夏の旅行記 | 07:26:11 | Trackback(0) | Comments(0)
街の人たち(4)
ヴァラス泉

 四人の美しいニンフ(水の精)たち、君たちはパリのいたるところで、水を提供してくれる。どこかで読んだけど、今では八十八カ所にいるんだって。
 君たち四人はそれぞれ、「善意」「素朴」「慈悲」「節度」を表わしていると、書いてあった。残念ながら、僕には君たちの姿から寓意を読みとることなんてできない。「素朴」と「節度」さんは目を閉じて、「善意」と「慈悲」さんは目を開けているそうな。
 その上、君たちは「四季」をも象徴しているらしいね。「素朴」さんは春、「慈悲」さんは夏、「節度」さんは秋、「善意」さんは冬という具合にね。君たちは、カリアチード(女像柱)以外の仕事も、立派にこなしているのだね。
 大金持ちのヴァラスさんが、普仏戦争、パリ・コミューンで疲弊したパリに、飲み水を提供しようと、君たちを町に送り出して、もう百三十年以上・・・君たちはちっとも歳をとらないね。

【ヴァラスの泉・・・サン・シュルピス教会前】


2008年夏の旅行記 | 07:24:44 | Trackback(0) | Comments(0)
街の人たち(3)
ヘルマフロディテ

 首を傾げ、胸に両手を当てて、君はなにを夢想するのか。遠い遠い、神々の時代を思い出しているのか。

 母親アフロディテにも父親ヘルメスにも似た美しい少年。そんな少年に夢中になった水の精(ニンフ)のサルマキスは、少年が衣服を脱ぎ捨てて、澄んだ泉で水浴びするのを、その裸身を目の当たりにして、燃え上がる恋の炎に抵抗できない。彼女は、水に飛び込むと、無理矢理少年を抱きしめ、からみついたまま、神々にこう祈った。「永遠に、この人と一体になりますように!」
 この願いを神々は聞き入れた。二人の身体は混ざり合って合一し、男でもあり女でもある姿に、男でもなく女でもない姿になった。
 君の名は、父と母の名を等しくもらって、ヘルマフロディテ。
【「ヘルマフロディテ」・・・ザッキン作(ザッキン美術館)】


2008年夏の旅行記 | 07:22:15 | Trackback(0) | Comments(0)
街の人たち(2)
スーティン像

 スーティン君、君の絵は破滅的に寂しくて暗いね。パリの町のどこを歩いたって、君が描いたようなギャルソンなんていないじゃないか。「昔は、いた」なんて言わせないぜ。あれは、君自身だったんだから。君みたいなやつ,君以外にいやしないさ。
 モンパルナス駅近くの「ゲテ(陽気)通り」から入った、インクの染みのように小さい「G.ガティ広場」に君は年がら年中寒そうに立っている。昼時ともなれば,まわりでパンをかじる男や女がベンチに座ってるけど,誰も君のことを見やしない。
 そういえば、精神を病んだ人たちが入る「サン・タンヌ病院」の小径に君の名がついていたね、「シャイム・スーティン小径」と。
【スーティン像(アルビ・ブラタスarbit blatas 作)・・・ガストン・バティ広場】


2008年夏の旅行記 | 07:19:54 | Trackback(0) | Comments(0)
世界遺産ヴェズレー
九月八日(月)

 ブルゴーニュの小高い丘の上に、ヴェズレーは、ナマズが横たわっているかのように、ぺたりと「く」の字型に張り付いている。人口は五百人足らずの小さな村だが、巡礼路の起点として、また世界遺産として(1979年登録)、その名は広く知られている。

ヴェズレー俯瞰
左手手前がしっぽ、右の奥が頭の部分になる。
(ヴェズレーのオフィス・ツーリスムのサイトから)

 マルタンさんの運転する車は、ナマズのしっぽのあたりにある駐車場に止まる。そのしっぽ、「バルル門 Porte du Barle」から、ナマズの頭にあたる「バジリカ聖堂、聖マリー=マドレーヌ Basilique Sainte Marie-Madeleine」まで、村のメインストリートを上る。距離にして五百メートルほどか。高低差はさほどではないのだろう、歩く脚に負担はない。それとも、通りの両側に軒を連ねる商店街のたたずまいのためだろうか。しゃれたショーウインドーや愉快な看板に思わず目を奪われて、シャッターを切るのに余念がないから、勢い足取りも軽くなるのかもしれない。

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2008年夏の旅行記 | 22:46:32 | Trackback(0) | Comments(2)