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石田明生

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『西部戦線異常なし』を読む
 暮れから正月、内容が内容だけにこの時期の雰囲気に合わない本をゆっくりと読んでいた。有名な本だったが、読書歴の中でずるずると先延ばしして来たのだ。『西部戦線異常なし Im westen nichts neues』レマルク Erich Maria Remarque著(秦豊吉訳-新潮文庫)は、映画化されてあまりにも有名だったので、逆に食指が動かなかったとも言える。また、この傑作がヘッセやマンのようにドイツ文学の王道を歩いていたかどうかも、問題だったかもしれない。ドイツ文学については、悲しいことにいわゆる文学史的な作家しか読んでこなかった。レマルクの場合は、『凱旋門』にしても『西部戦線異常なし』にしても、アメリカ映画から入ってしまったので、無意識のうちになおざりにしてしまったのだろう。
 結論を言えば、『西部戦線異常なし』はドイツの極めて優れたレアリスム小説であり、珠玉の作品といえる。が、図書館で借りてこの本を読んだのだが、驚いたことにこの著の翻訳は、wikiによれば1929年以来秦氏以外一人しかいない。また、Amazonの広告を見ても同様だ。つまり、錚々たるドイツ文学者たちが名訳を競って発表したとは到底思えないのだ。
 更に言えば、翻訳者の秦氏は、あまりに多才であったせいか、ドイツ文学だけにとどまらない広い世界で活躍して来たらしい。そういったことも、ドイツ文学の王道から逸れた原因だろう。それよりも、作者のレマルク自身がアカデミーから外れた経歴の持ち主だったことも関係したかもしれない。彼はジャーナリスト出身で文壇とは一切関わりがなかったと訳者の秦氏があとがきで書いている。

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文学雑感 | 10:06:36 | Trackback(0) | Comments(0)
武漢封鎖
 ここ数日来、新型のコロナ・ウィルスの話題でかまびすしい。春節前の昨日、ついに武漢の町が封鎖された。眼前のテレビはなんどもなんども武漢駅前の混雑や、警察隊の行進を映し出している。ところでこの警察隊、全員がマスクをしているのには驚いた。というのも、最近のインフルエンザやコロナ・ウィルスに関するニュースで、必ずマスクの効果について説明がなされていたのだが、その結論とするところは、「飛沫感染」を防ぐためとしている。ところで、ウィルスはマスクの布の網目など問題にしないほど小さいのでマスクでウィルスを防ぐことなど思いもよらない。だから、ウィルスに感染している人がくしゃみや咳をする時、唾液とともにウィルスが空気中にばら撒かれるのをマスクは防ぐというのだ。つまり、マスクは感染を防ぐのではなく、感染拡大を防ぐためのものという。
 それならば、なぜ警察隊は全員マスクをしているのだろうか。まさか、彼らが感染症患者というわけではあるまい。今はやりの表現で言えば、パフォーマンスということかもしれない。
 ところで、武漢封鎖のニュースから、アルベール・カミュの小説『ペスト』を思い出した。アルジェリアはオランという町で、異様にネズミの死骸が増え、ついに人間のペスト患者と思われる病例が増えてくる。そのとき、医師や町の有力者たちが町の封鎖を決定する。町に留め置かれる者、町には入れなくなる者、それぞれの人の苦痛が描かれる。
 いま現在、巨大都市武漢でそれが起こっている。
 ちなみに、風邪にしても、インフルにしても、もしかすると花粉にしても日本人がなぜマスクに頼るようになったかといえば、今日(1/24)の朝刊の「余禄」によると、1920年のスペイン風邪の流行によるらしい。現在では別の意味で使う「箝口令」(文字通り口をふさぐもの、つまりマスク着用の励行)が敷かれたためだ。<マスクをつけぬ者には電車への乗車を拒めるという強圧的ものだった>から、日本にマスクが定着した。フランスに行っても、欧米の映画を見ても、西洋人はマスクをつけてる人はほとんどいない。当たり前だ、彼らにとってマスクをつけている人は、感染症患者ということになるからだ。
 今は中国人がマスクを買いあさっているという。何しろ警察隊がしているのだから、彼らが真似をするのは当然だ。
 風邪やインフルや花粉で喜んでいるのは、マスク製造業者ということか。

 マスク顔鼻の高低際立ちぬ   (拙句)

日常スケッチ | 09:54:35 | Trackback(0) | Comments(0)