花は燃えんと欲す
私は全日本選手権でのフリー演技「カルメン」を見て安藤美姫選手の演技を好きになった。
モロゾフコーチはここから彼女独特の世界を刻琢し始めたのではないだろうか。
まだ前期までのフィジカルな魅力が勝っている演技だが、運命に立ち向かう強き女性、カルメンの存在を確かに感じる。
テンペラメントに富み、ほの暗い情感を醸し出す安藤選手の個性が開花するきっかけになったプログラムだと思う。
そこかしこで見せるエモーショナルな表情と仕草にドキッとする。妖艶と形容するにはまだ早いかもしれないが、心の奥底に蠢く暗い情熱が見え隠れしている。
安藤選手の演技からは生身の女性の体温や息吹き、揺れる心を感じる。心崩れる弱さと葛藤しつつ、強く立ち直ろうとする女性の生々しさがある。この点、どこか浮き世離れした雰囲気を持つ真央選手とはかなり違う。
彼女はリズミカルに踊りをするのでもなく、軽やかに舞うのでもない。音楽に身を任せ感情の赴くまま演じているかのようだ。しかも、どこかに不器用さも漂わせながら。だからこそ、安藤選手の演技にリアルな一人の女性を感じるのかもしれない。不思議な魅力を持つスケーターだ。
2007世界選手権で女王となるも「燃え尽き症候群」に陥り、なかなか練習に身が入らなかったという。しかし、年暮るる全日本選手権ではカルメンと共に心は再び燃え上がった。
2008世界選手権での悔しい棄権で未完に終わったカルメンの復活を望むファンの声は今も絶えない。私もその一人である。
山は青くして 花は燃えんと欲す 杜甫
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2011.11.22 | | コメント(4) | 日本人選手達