親の子を思う心を詠んだ名歌5首
銀(しろかね)も金(くがね)も玉も何せむに
まされる宝子にしかめやも
山上憶良
世の中に思ひあれども
子を恋ふる思ひに勝る思ひなきかな
紀貫之
人の親の心は闇にあらねども
子を思ふ道にまどひぬるかな
兼輔朝臣.
とどめおきて誰をあはれと思ふらむ
子は勝るらむ子は勝りけり
和泉式部
親思ふこころにまさる親心
今日のおとづれ何と聞くらん
吉田松陰
どの歌も親の子を思う心を詠って余すところが無い。
短歌でも俳句でも、親が子を、祖父母が孫を題材にすると、大抵は凡作になるというのが相場です。自己満足に終わる場合が多いからでしょう。鑑賞する第三者からすると、「ケッ!勝手にしやがれ!」と思われがちです。
しかし、上記の5首は名作だけに、現代人にも伝わる「何かしらの感慨」があります。
強いて言えば山上憶良の歌は少々「クサイ」。親バカに近い。が、万葉の時代ですからね。オリジナリティがあります。
兼輔朝臣の歌は現代人にも分かりやすいですね。他人事とは思えず、苦笑させられる人も多いでしょう。紫式部が愛好した歌です。源氏物語中に何回も引用されているので有名になった歌です。
紀貫之の歌は平明で素直で、リズムも良いので私は一番好きです。「思ひ」を3つ並べた技法も自然で嫌味が無い。
和泉式部の歌はちょっと難解です。「らむ」とか「けり」とか、大学の入試問題に出そうな歌です。
この歌は前提となる背景を知らないと意味が分からない。つまり、歌としては半独立的なのです。だからと言って、歌の価値が下がるとは限りませんが。
和泉式部の娘が孫を残して死んでしまった。その時の式部の悲しみを詠ったのです。
「子は勝るらん」…死んだ娘は親の私のことよりも、残した子のことを思っているのでしょうね…くらいの意か。
「子は勝りけり」…親の私だって子である娘のことを思うわ(孫のことよりも)…くらいの意か。
式部の歌は「上手い!」とは思いますが、少々技に走り過ぎた感があります。名歌が目白押しな和泉式部ですが、この歌は彼女にしてはやや平凡な方か。いや、親、子、孫、と並べ比較することで親心の深さが実感として伝わって来るのであれば、名歌か。やはり、和泉式部という女性はあなどれません。
独身であった吉田松陰の歌は、「親が子を思う」心を、子の立場から詠った点に新鮮味がありますね。
2015.07.30 | | コメント(27) | トラックバック(0) | 文学