「スピード感」だの「スケジュール感」だの、奇妙な言い回しが:愚見を少々
「スピード感」という言葉は昔から定着しているイディオムです。
例えば、ある小説や映画を評価する時に、「ストーリーのテンポが良く、スピード感がある」と言いますよね。ビジネスの場では、「彼の仕事の進め方にはスピード感がある」と言います。
もちろん、実際の速度を測定し、何らかの基準に基づいて述べるものではなく、あくまで主観的なものに過ぎません。人によっては、「この映画の展開にスピード感があるとは思わない」という意見があっても良いわけです。
このことは、逆のケースを考えればもっと明らかになります。
例えば、100メートル走で、「ウサイン・ボルト選手の走りにはスピード感がある」という言い方はどこか変です。彼の走りの速さは測定により明らかだからです。
同様に、「さすが、新幹線は在来線と比べてスピード感があるよね」も変な言い方です。
この場合は、単に、「スピードがある」「速い」と言うべきでしょう。
ところで、最近、テレビを見ていると、「スピード感をもって政策を進めるべきです」「対応にスピード感が求められます」等とアナウンサーや評論家が言うケースが目立ちます。
「変な言い方だなあ」と思いつつ、何度も何度も聞かされているうちに、次第に私は不快になって来ました。なんで不快と感じるのか自分でも良く分かりませんでした。が、不快の理由が分かりました。
「スピード感のある対応が必要」…これは、実は、何の中味の無い空虚な言葉なんですね。政治家の対応を批判するストーリーラインで使われるイディオムなのですが、何のパンチも無い…つまりは、曖昧で、腰砕けで、具体例の無い、欺瞞的な「批判」でしかないのです。言葉だけが虚しく踊っているのです。
つまりは、ポエムでしかない。
また、適切な表現としては、「スピード感のある対応」ではなく、「迅速な対応」と言うべきでしょう。せめて、「スピードのある対応」と言うべきでしょう。
言葉の訓練を受けているはずのメディアの人間や、「最高学府の最高度な教育」を受けて来たはずの評論家が、こういういい加減な言葉使いを乱用して何とも思わないのでしょうか?
さらには、ある報道人が、「東京都によると、9日まで政府との協議、10日に決定事項を発表、11日から実施、というスケジュール感となっています」と言ったのには呆れました。
今度は、「スケジュール感」と来た。こんな日本語、あるのか?
単に、「…というスケジュールとなっています」で済むものを、どうして「スケジュール感」と言うのか?
どうやら、カタカナ語の最後に、「感」を付ける言い方が流行しそうな気配です。
そのうち、「ルール感」「マナー感」「レガシー感」「サービス感」も言い始めるのかな?
そうだ!ひらがな言葉の最後に、「感」を付ける新しい言い方がありました!
「やってる感」
これは主に、安倍首相の政治姿勢を揶揄する際に使われます。
「安倍首相は、やってる感を演出してる」「やってる感だけの政府の新型コロナ対策」、というように。
そもそも、日本語には熟語の最後に「感」をつけるイディオムはたくさんあります。「違和感」「圧迫感」「立体感」「優越感」「臨場感」「責任感」「透明感」「清潔感」等。。。
中高年男性に多い、「残尿感」もありんす(^o^)
カタカナやひらがなの後ろに「感」を付ける言い方はほとんど無いです。
そうか!「距離感」「立体感」「重量感」はあっても、「速度感」というのは聞かない。それに代わって、「スピード感」という言葉が生まれたのかもしれませんね。
「スピード感」「スケジュール感」の変な使い方ですが、これは、ぼやかした言い方や角の立たない言い方を好む日本人の特性から生じたものかもしれません。
私は→わたし的には、〇〇したいです→○○したいと思います、〇〇です→○○みたいな??
「迅速な対応が必要です」は、少し言い方がキツく、それよりは、「スピード感のある対応が必要です」の方が表現が弱く、丸く、無難で、角が立たないですよね。
平時の、平和で、他愛の無い会話をしている女子会であればそれでも良いのですが、緊急事態の時に、あんな曖昧でうすぼんやりとした言い方をしていて、報道の仕事が、批評が務まるのですかね?
これらの事が重なり、私は段々と不快になったのでした。
報道人や評論家の皆様には、「スピード感をもって善処」をお願いしたいと思います。
2020.04.08 | | コメント(4) | トラックバック(0) | 戯けたライフ