現代ものを書く女性小説家:中山可穂は面白い!
私は活字中毒な本好きですが、現代ものを書く女性小説家で私の好みに合うのは少ないです。
つまり、時代ものでもなく、ミステリーでもなく、SFでもなく、いわゆる、現代ものです。
山田詠美、藤堂志津子、江國香織くらいか。桜木紫乃はミステリー系もあるけど挙げておきます。
最近、ブログ友のはぴらき様から、村山由佳と宮下奈都を紹介され、村山由佳の「ダブルファンタジー」や宮下奈都の「羊と鋼の森」が面白かった。
●女性小説家の描く「現代もの」の小説と言えば、
①人妻の不倫の恋
…なんたって、「よろめきドラマ」の中心ですから。昔も今も女性は「よろめきもの」が好物。
大岡昇平の「武蔵野夫人」や三島由紀夫の「美徳のよろめき」はまさしく「よろめきドラマ」の名作。が、男性小説家ゆえ、女性の描き方があまり上手くない。これはもう、女性小説家の得意とする所ではないでしょうか。ラファイエット夫人の「クレーヴの奥方」は女性小説家による古典ですね。
女性の「離婚願望」と「不倫願望」は現実はともかく、深層心理的には間違っていないと思います。
②家庭内の問題を扱うもの
…幸せそうに見える家族にも、一つや二つ、他人には決して言えない「傷」や「恥」や「苦悩」というものがあります。結婚問題もその一つ。中流~上流階級の家庭では、「苦労」は無くとも「苦悩」はあります。例えば、オースティンの「自負と偏見」「エマ」等は古典の名作ですね。
③女性の成長を描く。ビルディングスロマン。
…ロマン・ロランの名作「魅せられたる魂」はその典型。ロランは当時の男性小説家としては女性を上手く描いている方だと思います。女性の成長物語はNHKの朝の連続テレビ小説の定番になっていますね。シャーロット・ブロンテの「ジェーン・エア」は名作。最近では、上で挙げた宮下奈都の「羊と鋼の森」が良かった。
それと、私は藤堂志津子の小説が好きなのですが、最近も「プライド」「ひとりぐらし」を読み、一人、たくましく成長して行く女性の姿に感銘を受けました。
④純愛もの
…どこか少女漫画の延長線上にある感じもありますが、やはり、「純愛」という言葉の響きに女性は弱い。女性は何歳になっても、ピュアなものに惹かれます。江國香織の「きらきら光る」とか山田詠美の「放課後の音符」とか。
⑤官能系
…ポルノ小説ではありません。「愛」と「セックス」の問題は立派に今も文学的テーマです。
村山由佳の「ダブルファンタジー」は、いわゆる「ニンフォマニア」のヒロインが登場するのですが、内容的には真摯でして、女性の自立の在り方を必死に問う物語です。
⑥ホモセクシャルやバイセクシャルもの
…同性愛や両刀使い・二刀流の女性や男性を描く。これはもう、中山可穂(中山美穂と間違えやすいの注意)にとどめを刺す。他に松浦理英子も個性豊かな小説家。長編の「親指Pの修業時代」(河出文庫)は、⑥と③の複合した内容。突然ペニスと化してしまった足の親指を持つ一人の不器用な女性が主人公。一見、SFのぶっ飛び物語に思えますが、中味はひたすら真剣も真剣。「性愛」「同性愛」について、ここまで突き詰めて書かれた小説が過去にあっただろうか。
三島由紀夫の「仮面の告白」もこの類に入るかもしれません。
中山可穂さんは自ら同性愛者と公に明かしています。
そもそも自らLGBTと世間に明かすこと自体が大変なことでしょう。同性愛だからこそ、純愛も生まれれば、深刻な三角関係も生まれますし、子供をどうするか?という問題も生じます。
これらは立派に文学的テーマとなり得ますね。
ちなみに、中山可穂の「サグラダ・ファミリア」はこのテーマを真剣に追求した傑作と思います。読者の劣情を満たすようなキワモノ本とは全く違います。
①~⑥に無理矢理分類しましたが、実際は、これら複数の要素が重なっているのが普通ですね。
日本の文壇?ではこの世界の文学に対する評価が低いのではないでしょうか。偏見もあるのでしょうか。松浦理英子も中山可穂も「芥川賞」にも「直木賞」にも選ばれないというのは疑問です。私から見て、彼女達よりもずっと平凡で退屈な小説を書いている人が何人も受賞しているというのに。
☆
いわゆるLGBT…正直に言いますと、私も偏見が全く無いとは言えないと思います。頭では理解したつもりも現実にビアンの人と自然にお付き合い出来るのか。
☆
日本ではLGBTの割合は7.6%とのデータがあるそうです。明かせない人もいるでしょうから実際はそれ以上かもしれません。従業員100人の企業であれば7~8人となります。もしかしたら、あの女子社員はビアンか…と思った人はいましたが、分かりません。相手も私を、もしかしたら…と思っていたかもしれないからです。
●中山可穂の世界
私がこれまで読んだのは、主人公、王寺ミチルの三部作、「猫背の王子」「天使の骨」「愛の国」。長編の「感情教育」、中編の「サグラダ・ファミリア」。宝塚三部作の中の「娘役」。短編集の「弱法師」「悲歌」「花伽藍」です。次に読む予定にしているのが、中山可穂の最長の小説、「ケッヘル」(講談社文庫・上下2巻)です。
王寺ミチルがその典型なのですが、少年的・中性的な風貌でありながら麗しき女性であり、ビアンであり、女たらしであり、演劇オタクであり、少し触れただけで血が吹き出そうな破滅志向人間…ともなれば、それだけで美しい世界。私なんかは読んで身体がカッカと熱くなります。
上の「猫背の王子」の表紙の絵ですが、知る人ぞ知る有名な絵とか。
中山可穂は女性小説家にしては硬質な文体※で、内容は激しくとも語り口は冷静と思います。むしろ、それだからこそ彼女のストーリーがリアリティを持ち、グワーッと噴き上がる情念の熱さを生むのでしょう。どこからか狂気の風が吹き込んで来るような趣きすらあります。
文章と内容のアンバランス…これがたまらない!
で、私、アッと思ったのは、私が語った彼女の小説の特長はノワール小説・ハードボイルド小説にも繋がるものなのだと。不条理な暗黒と絶望から崩壊へと突き進む情念。血の熱さ。それをどうすることも出来ない人間の姿です。大藪春彦、北方謙三、志水辰夫、大沢有昌、花村萬月の系列です。
最近、中山可穂がハードボイルドを書くようになったのも分かるような気がします。
「感情教育」から、印象的な言葉を一つ。中山可穂の信条でしょう。
「愛とはお互いの血を吸って生きることだ。魂は肉体の中にあるのだ」
※
中山可穂は寡作ですね。硬質な文体との関連がありそうです。
※
最近では、「レズ」とは言わず、「ビアン」と言う。
「レズ」という言葉は余りに手垢にまみれたので、同性愛者の間では厭われているとか。
☆
松浦理英子も中山可穂も決して、メジャーな女性小説家ではないでしょう。その代り、熱烈なファンもいるらしい。よく探せば素晴らしい小説を書いている例は他にもいくらでもあるのでしょう。
例えば、村田喜代子も気になります。
私の世代ではあまり聞かない名前だし、書店でも目にとまったことがないのです。
しかし、芥川賞を受賞しているのです。どうなんでしょうね。
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2019.04.19 | | コメント(14) | トラックバック(0) | 文学