[左から、ウェブマスターの三浦、ソフトウェアを担当したエンジニアの椎野、
ハードウェアを担当したエンジニアの山口。この 3 人を中心に開発が進められた]
Q: Google 日本語入力チームは様々なエイプリルフールネタを仕込んでおられますね。まずは、なぜ今年はモールスバージョンを作ることにしたのか、そこの思いを教えてください。
小松: 2 年前にエイプリルフールで Google 日本語入力のドラムセットバージョンを作ったのですが、あのときはモックだったんです。Enter キーは押すことができますが、実際に入力することはできませんでした。今回は、なんといっても動くものを作りたかったというのが大きいです。
椎野: ドラムセットはユーザーの皆さんには写真しかお見せできなかったので、今年は「ユーザーが実際に遊べるものを作ろう」と思ってました。皆さんにエイプリルフールを楽しんでもらうにはそれが一番だと思ったので。
山口: さらに一歩進めて、ユーザーが自分たちで実際に作れるものにできたら、なお素敵だと思いました。そこで今回「Google 日本語入力モールス電鍵」の作り方も公開することにしました。
(詳細は本記事の最後に掲載)
Q: 開発したときのプロセスを教えてください。
小松: ネタは割と簡単に決まりました。キーの数が常識はずれに多いドラムセットの真逆に位置するのは、キーの数が 1 つしかないモールス電鍵だろうと。
三浦: まさに「キーの数がキー」でしたね。
椎野: HTML と Javascript で動く簡単なデモは 1 日でできました。しかしユーザーが楽しく遊べるものにするためには、他にもいろいろなアイディアが必要で苦労しました。モールス符号で平仮名が入力できるだけではつまらないし、「日本語入力」とは呼べませんから。
「日本語入力」らしくするために和文モールス符号を採用することに決め、
Google Transliterate API を使ってかな漢字変換をするようにしました。そして楽しく遊べるように、養成コースという名前で百人一首を入力するゲームモードも用意しました。
Q: 技術的に工夫したところなど、教えてください。
椎野: 強いて言えば、クロスブラウザ対応のコストを下げるために
Closure Library を使い、かな漢字変換に Google Transliterate API を使ったくらいでしょうか。少人数かつ短期間で開発するために、あまり凝ったことはせずにシンプルな作りにしたのが一番の工夫ですね。
Q: 大変だったことはなんですか?
三浦: モックではなくユーザーが使えるようにしたので、ユーザー インターフェースを工夫しました。モールス信号で通信したことがない人でも、どうやったら使い方を理解してもらえるか、いろいろ考えて作りました。その一例が「
お手本を再生する 」機能です。実際に耳で聞いてみて、モールス符号の正しいタイミングを習得することができます。
椎野: 和文モールス符号には、「っ」や「ゃ」のような小文字は存在しません。養成コース(ゲームモード)が旧仮名遣いの「百人一首」だったのはそのためです。小文字を使わずに入力できますから。しかし、テストユーザーからの強い要望を受けて、ローンチ直前に小文字も入力できるように和文モールス符号を拡張しました。大きい「や」に続けて半濁点記号を入力すると小文字の「ゃ」になるようにしてあります。
三浦さんのアイディアで URL をモールス符号風にしたのですが、そのせいでコマンドラインからのファイル操作がちょっとだけ面倒になっちゃいましたね。
http://www.google.co.jp/ime/-.-.html
この「ツートンツートン html」を扱うためには
ls -- -.-.html
とハイフン 2 つをおいて、-.-.html がパラメータではないことを明示しないといけません。
Q: 実はリリース後にもバグ修正と開発が続いていたとの噂がありますが。。。
三浦: メインの開発者 3 人とお手伝い数人の小さなチームで開発したサービスだったので、ギリギリまで開発していました。特に UI は最後の最後まで試行錯誤で修正していました。実はローンチをしてからも開発は続き、隠しコマンドも実装されました。
養成コース で、おなじみの「↑↑↓↓←→←→BA」を打って頂くと、ガイドを隠すようになっていました。ごく一部の方にしか気づいて頂けていないと思いますが。
椎野: 小さなプロジェクトだったということもあって、音データや画像リソースなどもウェブマスターの三浦さんにお願いして作ってもらったのですが、短期間でプロジェクトに合った素晴らしいものが出来上がりました。
Q: 今回はハードウェアの電鍵も実際に作りました。その開発プロセスなども教えてください。
山口: 電鍵は実際に電信に使われている市販品を改造しました。
Google 日本語入力モールスバージョンという企画の内容をひと目で分かってもらえるようにしたかったので、まず見た目を変えました。グリップの部分は、絵を入れるために作り替えました。
パソコンとの通信部分については、キーボードを電子回路から趣味で自作している人が社内にいて、その回路とファームウェアを流用させてもらいました。
こちらが今回使った回路図です。右端に押しボタンスイッチの記号がありますが、ここが電鍵の接点につながっています。
こちらが最初の試作品です。
その後電鍵の下に納めるため、より小さく作り直しました。また、この回路は USB の low-speed デバイスに相当するため、もし規格に従うなら
デバイスの側に USB-B 端子を付けてはいけないことになっています 。最終版ではケーブルが直接ハンダ付けされていますが、このことを考慮に入れています。
Q: 実際に日本語入力をやって頂けますか?
山口: スペースキー 1 個だけの USB キーボードとして動作させることで、エイプリルフールのページでモールス入力ができます。それだけではなく、本物の Google 日本語入力と組み合わせて使えるようなモードも用意しました。
マイコンのプログラムがキーを押した長さを測って、「ツー」か「トン」かを判定します。また、文字の区切りを表す短いギャップ、単語や文節の区切りとして使う長いギャップも同様に認識します。
判定されたツーとトンは普通のキーボードのキーコードとしてパソコンに送られます。トンを「.」、ツーを「−」、それから文字の区切りを「/」で表します。Google 日本語入力のローマ字テーブルを使ってこれらの記号列を平仮名に変換します。長めのギャップを認識すると、スペースキー(変換)、Enter キー(確定)の順に送信してかな漢字変換します。
Q: 今回は細かい調整がいろいろ必要だったとのことですが、詳細を教えてください。
チャタリングと言って、スイッチを押したときに接点が細かく跳ねて複数回 ON/OFF を繰り返す現象があります。マイコンで正直に ON/OFF を数えるとそれらも複数の打鍵として認識してしまいます。そのため、細かい ON/OFF は無視するように信号処理をしています。今回使ったモールスキーは普段電子工作で使う押ボタンスイッチよりもずいぶんチャタリングが長いように感じました。実際の電信では人が耳で聞いたり機械的に紙テープに印字したりするので問題にならないのでしょう。
また、ツーとトン、それから 3 種類のギャップ(文字内、文字間、文節間)を思い通りに入力できるようにするための微調整が難しかったです。公開したファームウェアでは私のような初心者でも入力できるように遅めの値が入れてあります。
ローマ字テーブルですが、モールス符号から平仮名へ変換した後、さらに「か + ゛」→「が」のような変換もするという二重構造になっています。そのせいもあって思いの外煩雑な記述が必要でした。
http://code.google.com/p/mozc-morse/source/browse/trunk/romaji_dit-dah.txt
通りかかった人が物珍しさから触ってみたら、私の PC で編集中のファイルに「.../ 」のような記号が入力されてしまった、ということもありました。Google 日本語入力が起動しているかどうかに関わらずにキーコードを送りますので、自作される方は思いがけないところで Enter キーなどを入力してしまわないように気をつけてください。
Q: ところで、山口さんは社内でもすごくいろいろなものを作っておられる印象ですが。。。
山口: 電子工作が趣味で、
作ったものはたくさんあります 。例えば
喋るサイコロ や
自動制御ロボット 、それから電子工作ではありませんが Android のゴミ箱なんてのも作っています。
実はこのシールもプリンタで手作りしたんです。
なお、ソフトウェアは現在もこちらのサイトでご利用頂けます。
http://www.google.co.jp/ime/-.-.html
また、電鍵の回路図とファームウェアのソースコードはオープンソースでこちらに公開しています。自分で作ってみたい方はぜひ。
http://code.google.com/p/mozc-morse/
皆さん、ありがとうございました。
Posted by 山崎富美 Developer Relations Team
先日、「Google マップ 8 ビット開発の舞台裏 」についてブログ記事を公開しました。もう 1 つ、今年のエイプリルフールで人気を博したのが「Google 日本語入力モールスバージョン」でした。
ご存知ない方は、こちらのブログ記事をご覧ください。
「Google 日本語入力チームからの新しいご提案 」
Google 日本語入力モールスバージョン開発の裏話を伺うため、開発チームの皆さんに集まって頂きました。ソフトウェアエンジニアの椎野裕樹、山口辰久、小松弘幸、そしてウェブマスターの三浦健の 4 人です。
[左から、ウェブマスターの三浦、ソフトウェアを担当したエンジニアの椎野、
ハードウェアを担当したエンジニアの山口。この 3 人を中心に開発が進められた]
Q: Google 日本語入力チームは様々なエイプリルフールネタを仕込んでおられますね。まずは、なぜ今年はモールスバージョンを作ることにしたのか、そこの思いを教えてください。
小松: 2 年前にエイプリルフールで Google 日本語入力のドラムセットバージョンを作ったのですが、あのときはモックだったんです。Enter キーは押すことができますが、実際に入力することはできませんでした。今回は、なんといっても動くものを作りたかったというのが大きいです。
椎野: ドラムセットはユーザーの皆さんには写真しかお見せできなかったので、今年は「ユーザーが実際に遊べるものを作ろう」と思ってました。皆さんにエイプリルフールを楽しんでもらうにはそれが一番だと思ったので。
山口: さらに一歩進めて、ユーザーが自分たちで実際に作れるものにできたら、なお素敵だと思いました。そこで今回「Google 日本語入力モールス電鍵」の作り方も公開することにしました。
(詳細は本記事の最後に掲載)
Q: 開発したときのプロセスを教えてください。
小松: ネタは割と簡単に決まりました。キーの数が常識はずれに多いドラムセットの真逆に位置するのは、キーの数が 1 つしかないモールス電鍵だろうと。
三浦: まさに「キーの数がキー」でしたね。
椎野: HTML と Javascript で動く簡単なデモは 1 日でできました。しかしユーザーが楽しく遊べるものにするためには、他にもいろいろなアイディアが必要で苦労しました。モールス符号で平仮名が入力できるだけではつまらないし、「日本語入力」とは呼べませんから。
「日本語入力」らしくするために和文モールス符号を採用することに決め、Google Transliterate API を使ってかな漢字変換をするようにしました。そして楽しく遊べるように、養成コースという名前で百人一首を入力するゲームモードも用意しました。
Q: 技術的に工夫したところなど、教えてください。
椎野: 強いて言えば、クロスブラウザ対応のコストを下げるために Closure Library を使い、かな漢字変換に Google Transliterate API を使ったくらいでしょうか。少人数かつ短期間で開発するために、あまり凝ったことはせずにシンプルな作りにしたのが一番の工夫ですね。
Q: 大変だったことはなんですか?
三浦: モックではなくユーザーが使えるようにしたので、ユーザー インターフェースを工夫しました。モールス信号で通信したことがない人でも、どうやったら使い方を理解してもらえるか、いろいろ考えて作りました。その一例が「お手本を再生する 」機能です。実際に耳で聞いてみて、モールス符号の正しいタイミングを習得することができます。
椎野: 和文モールス符号には、「っ」や「ゃ」のような小文字は存在しません。養成コース(ゲームモード)が旧仮名遣いの「百人一首」だったのはそのためです。小文字を使わずに入力できますから。しかし、テストユーザーからの強い要望を受けて、ローンチ直前に小文字も入力できるように和文モールス符号を拡張しました。大きい「や」に続けて半濁点記号を入力すると小文字の「ゃ」になるようにしてあります。
三浦さんのアイディアで URL をモールス符号風にしたのですが、そのせいでコマンドラインからのファイル操作がちょっとだけ面倒になっちゃいましたね。
http://www.google.co.jp/ime/-.-.html
この「ツートンツートン html」を扱うためには
ls -- -.-.html
とハイフン 2 つをおいて、-.-.html がパラメータではないことを明示しないといけません。
Q: 実はリリース後にもバグ修正と開発が続いていたとの噂がありますが。。。
三浦: メインの開発者 3 人とお手伝い数人の小さなチームで開発したサービスだったので、ギリギリまで開発していました。特に UI は最後の最後まで試行錯誤で修正していました。実はローンチをしてからも開発は続き、隠しコマンドも実装されました。養成コース で、おなじみの「↑↑↓↓←→←→BA」を打って頂くと、ガイドを隠すようになっていました。ごく一部の方にしか気づいて頂けていないと思いますが。
椎野: 小さなプロジェクトだったということもあって、音データや画像リソースなどもウェブマスターの三浦さんにお願いして作ってもらったのですが、短期間でプロジェクトに合った素晴らしいものが出来上がりました。
Q: 今回はハードウェアの電鍵も実際に作りました。その開発プロセスなども教えてください。
山口: 電鍵は実際に電信に使われている市販品を改造しました。
Google 日本語入力モールスバージョンという企画の内容をひと目で分かってもらえるようにしたかったので、まず見た目を変えました。グリップの部分は、絵を入れるために作り替えました。
パソコンとの通信部分については、キーボードを電子回路から趣味で自作している人が社内にいて、その回路とファームウェアを流用させてもらいました。
こちらが今回使った回路図です。右端に押しボタンスイッチの記号がありますが、ここが電鍵の接点につながっています。
こちらが最初の試作品です。
その後電鍵の下に納めるため、より小さく作り直しました。また、この回路は USB の low-speed デバイスに相当するため、もし規格に従うならデバイスの側に USB-B 端子を付けてはいけないことになっています 。最終版ではケーブルが直接ハンダ付けされていますが、このことを考慮に入れています。
Q: 実際に日本語入力をやって頂けますか?
山口: スペースキー 1 個だけの USB キーボードとして動作させることで、エイプリルフールのページでモールス入力ができます。それだけではなく、本物の Google 日本語入力と組み合わせて使えるようなモードも用意しました。
マイコンのプログラムがキーを押した長さを測って、「ツー」か「トン」かを判定します。また、文字の区切りを表す短いギャップ、単語や文節の区切りとして使う長いギャップも同様に認識します。
判定されたツーとトンは普通のキーボードのキーコードとしてパソコンに送られます。トンを「.」、ツーを「−」、それから文字の区切りを「/」で表します。Google 日本語入力のローマ字テーブルを使ってこれらの記号列を平仮名に変換します。長めのギャップを認識すると、スペースキー(変換)、Enter キー(確定)の順に送信してかな漢字変換します。
Q: 今回は細かい調整がいろいろ必要だったとのことですが、詳細を教えてください。
チャタリングと言って、スイッチを押したときに接点が細かく跳ねて複数回 ON/OFF を繰り返す現象があります。マイコンで正直に ON/OFF を数えるとそれらも複数の打鍵として認識してしまいます。そのため、細かい ON/OFF は無視するように信号処理をしています。今回使ったモールスキーは普段電子工作で使う押ボタンスイッチよりもずいぶんチャタリングが長いように感じました。実際の電信では人が耳で聞いたり機械的に紙テープに印字したりするので問題にならないのでしょう。
また、ツーとトン、それから 3 種類のギャップ(文字内、文字間、文節間)を思い通りに入力できるようにするための微調整が難しかったです。公開したファームウェアでは私のような初心者でも入力できるように遅めの値が入れてあります。
ローマ字テーブルですが、モールス符号から平仮名へ変換した後、さらに「か + ゛」→「が」のような変換もするという二重構造になっています。そのせいもあって思いの外煩雑な記述が必要でした。
http://code.google.com/p/mozc-morse/source/browse/trunk/romaji_dit-dah.txt
通りかかった人が物珍しさから触ってみたら、私の PC で編集中のファイルに「.../ 」のような記号が入力されてしまった、ということもありました。Google 日本語入力が起動しているかどうかに関わらずにキーコードを送りますので、自作される方は思いがけないところで Enter キーなどを入力してしまわないように気をつけてください。
Q: ところで、山口さんは社内でもすごくいろいろなものを作っておられる印象ですが。。。
山口: 電子工作が趣味で、作ったものはたくさんあります 。例えば喋るサイコロ や自動制御ロボット 、それから電子工作ではありませんが Android のゴミ箱なんてのも作っています。
実はこのシールもプリンタで手作りしたんです。
なお、ソフトウェアは現在もこちらのサイトでご利用頂けます。
http://www.google.co.jp/ime/-.-.html
また、電鍵の回路図とファームウェアのソースコードはオープンソースでこちらに公開しています。自分で作ってみたい方はぜひ。
http://code.google.com/p/mozc-morse/
皆さん、ありがとうございました。