せっかく書いたものですので、ちょいと手直し加えてUPします。
なんでこう、赤旗の記事というのは突っ込み甲斐があるのだろう(笑)
5月6日(火)の「潮流(ネット上のソースなし)」というコラムについて取り上げてみます。
潮流
天文雑誌に、破壊された軍事衛星の破片が地球を回っているとありました
▼米国が二月、制御不能となった自国の軍事衛星を、太平洋上のイージス艦からミサイルで撃墜したものです。撃墜によって破片は三千個以上ばらまかれ、ほとんどは大気圏に突入して燃え尽きたものの、まだ本体と数十の破片が地球を回っているそうです(『天文ガイド』五、六月号)
▼科学雑誌『日経サイエンス』六月号にもこの話題が載っていました。「愚かな宇宙軍拡競争」と題して、米ワシントンの防衛情報センター理事がリポートしています。破片がたとえ小さくても秒速数キロメートルの速度なので、衛星や有人宇宙船に損害を与えるのだと
▼さらに、同誌は、米国の宇宙政策などで宇宙軍拡の動きが加速しそうで、軍拡競争が始まれば世界的紛争の危険が高まり、「宇宙開発国にとって唯一の思慮深い行動とは、宇宙軍拡競争を防ぐ道を摸索することだろう」と指摘しています
▼リポートは日本の宇宙基本法案の動向にも注目しています。日本では一九六九年に衆院で全会一致により採択された「宇宙の平和利用決議」で宇宙開発を「非軍事」に限定してきました。これを覆そうと自民、公両両党が昨年、国会に提出したのがそれ。今度民主党も加わって修正案を出そうとしています。財界も国会決議のために最先端の宇宙技術を軍事目的に使えないと盛んにいっています
▼「非軍事」に限定しない宇宙開発が何をもたらすのか。世代を超えた悪影響を考えざるをえません。
この記事を全く宇宙開発の知識を持たずに読んだとしたら、ほとんどの人がコラムの主張に同意するか、又は同意しないまでも、その主張に多少妥当性があると判断するのではないでしょうか?
確かに赤旗の主張もわからないではありません。「宇宙開発は非軍事に限るべきだ」というのは素晴らしい理想だと私も思う。
しかし、今回のコラムの主張の内容には次の二点で卑怯だと私は思う。
・赤旗が問題視しているのは、主にアメリカと日本の宇宙政策であり、中国・ロシア等を取り上げていないこと。
・さも、アメリカの衛星撃墜が、スペースデブリの主因であるかのごとく書いていること。
まず、衛星の破壊で生じた破片(スペースデブリ)の問題ですが、このコラムには中国の衛星破壊実験が全く出てきていません。
そもそも、アメリカの衛星撃墜と中国の衛星破壊実験のどちらが、より問題なのか次の引用を見比べてみましょう。
松浦晋也の「宇宙開発を読む」(2007年2月2日)
世界に無神経さを示した中国の衛星破壊
中国は2007年1月11日に、自国の気象衛星を標的に衛星破壊の実験を実施した。実験は成功し、衛星は多数の破片となって軌道上に広がりつつある。
31日になって安倍晋三内閣総理大臣は、国会答弁で「中国による説明は懸念を払しょくするものではなく、引き続き透明性のある説明を求める」と発言した。
実際問題として、安倍総理の認識はまだまだ甘い。この問題は、遠い未来に渡って人類の宇宙利用、宇宙進出を根本から脅かしかねない重大問題である。人類の未来を考えれば、安倍総理から中国の温家宝総理に直接抗議文を出してもおかしくはないほどの暴挙なのだ。
中国首脳部が、この実験を事前にどこまで把握していたかは不明だ。しかし、結果として中国は国際社会に対して「中国は人類全体の未来よりも、地球上における自国の権益を優先する」というシグナルを送ってしまったと言っていいだろう。
極めて重大なデブリ問題
1957年に最初の人工衛星スプートニク1号が打ち上げられて以降、軌道上の使用済み人工物体(スペース・デブリ:Space debris)の数は増加の一途を辿っており、衛星や有人宇宙機の安全を脅かすまでになっている。
スペース・デブリはたとえ1g以下の小さな破片でも、衝突時の相対速度が最大で10km/秒以上と極めて高速なので致命的なダメージを生じる可能性がある。
軌道上のデブリは、北米防空司令部(NORAD)がレーダーで監視している。レーダー観測可能な差し渡し約10cm以上のデブリが、現在約1万1000個確認されており、その数は増加傾向にある。またレーダーでは見えないが宇宙機に損害を与える可能性のある1mm以上のものになると、数百万個のオーダーで地球を回っていると見積もられている。
1996年7月24日に、フランスの軍事技術試験衛星「セリース」が、欧州のアリアン・ロケットの破片と相対速度14km/秒で衝突した。これが、NORADが軌道を監視している人工物体同士による初の衝突となった。使用中の衛星にデブリが衝突して被害が発生する可能性は急速に増大しつつある。もしも有人宇宙機や船外活動中の宇宙飛行士にぶつかれば人的被害が出るだろう。
スペース・デブリの脅威は単なる衝突だけに留まらない。「ケスラー・シンドローム」の可能性だ。
デブリ同士の衝突が起きると新たなデブリがまき散らされる。このためデブリの分布密度がある限界を超えると、衝突で発生した破片がさらに衝突して新たな破片が発生するという連鎖反応が起きる。これを「ケスラー・シンドローム」と言う。
ひとたびケスラー・シンドロームが大々的に発生すると、地球周辺の宇宙空間を利用できなくなる可能性が指摘されている。あまりにデブリが増えすぎると打ち上げた衛星が、すぐにデブリと衝突してしまい、自らデブリとなって機能を喪失してしまうわけだ。
つまりスペース・デブリをまき散らすということは、軍事、民生を問わず人類が宇宙利用する可能性を、自らの手で物理的に閉ざしてしまうことを意味する。最悪のケースとしては、人類は増えすぎたデブリのために宇宙利用どころか、長期的には宇宙進出すら断念せざるを得ないケースも考え得る。
スペース・デブリの増加は、人類全体の未来に影響する重大問題なのだ。
表通りの爆弾テロに等しい
特に高度700〜1000km付近はスペース・デブリが集中している。この高度は、地球を南北に周回する極軌道に使用される。このため多数の地球観測衛星が打ち上げられている。
これよりも低い高度では、わずかに存在する空気の抵抗でデブリが地表に落下するが、700km以上のデブリは地表に落下することがない。衛星打ち上げのたびにデブリが増える一方なのだ。高度800km付近では、すでにケスラー・シンドロームが進行しつつあるという試算すら存在する。
中国の衛星破壊実験の標的となった気象衛星「風雲1号C」は、1999年打ち上げ。高度約850kmのまさにもっともデブリが稠密な高度の極軌道を周回していた。破壊実験の結果、風雲1号Cはレーダー観測可能な400個以上の破片に分解した。レーダー観測不可能な微細な破片は数万個以上発生したと推定される。
発生したデブリは、元の軌道に留まるわけではない。与えられた初速によって軌道傾斜角も、軌道高度も変化する。さらに、地球が完全な球ではないことから発生する摂動によって地球全体を覆うように拡散していく。実際、風雲1号Cの破片の一部は、国際宇宙ステーションが利用している高度400km程度まで地球に近づく軌道に入ったことが確認されている。
中国は地球観測衛星が多用する、しかもデブリが滞留しやすい高度・軌道で衛星破壊実験を実施し、多数のデブリを軌道上に振りまいた。これは、誰もが利用する宇宙の表通りで爆弾テロを実行したことに等しい。
中国の国際的イメージは大きくダウン
衛星破壊実験は、冷戦時代にアメリカと旧ソ連がそれぞれ実施したことがある。しかしスペース・デブリをまき散らすことの問題点が明らかになったため、1985年を最後に米ソ共に実験を中断していた。
今、このタイミングで中国が実験を実施した理由は、明らかにアメリカが進めるミサイル防衛構想(MD)への対抗措置だろう。MDでは、衛星軌道上に赤外線センサーを搭載した早期警戒衛星を配備し、大陸間弾道ミサイルの発射を宇宙から検知する。実験を行うことによって、中国はアメリカに対して「いざとなれば衛星破壊も辞さないし、そのための手段も持っている」というサインを送ったわけだ。それは同時に、中国が将来的にアメリカに対抗する超大国を目指すという意思表示であり「だから我々の意志を尊重せよ」という無言の要求でもあったわけだ。
しかし、どうやら中国首脳部はスペース・デブリに関する認識が甘かったようだ。国際社会は「中国は、自国の利益のためにはスペース・デブリの放出のような、人類全体の未来に有害なことであっても行う、無神経な国である」と受け取ったのである。
(中略)
今回の実験では、中国が衛星破壊能力を保有することがアメリカに伝わった。中国としては、第一の目的が達成されたので、今後しばらくは実験を行うことはないだろう。しかし、同時に実験は全世界に対して「中国は何をするか分からない、無神経な国だ」というチャイナ・リスクを強く印象付けることとなった。今後、来年の北京オリンピックに向けて、中国が負ったダメージは、決して小さくないと考えるべきである。(松浦晋也)
もう一方のアメリカの偵察衛星撃墜については、週刊オブイェクトさん↓を参考にしてみましょう。
偵察衛星をMDシステムで撃破成功(2008年02月22日)
SM-3は高度247kmで目標に命中、任務を達成しました。衛星のヒドラジン燃料タンクは破壊されています。
米軍、偵察衛星の撃墜に成功と発表2008年02月21日 15:30【2月21日 AFP】(2月21日 一部更新、写真追加)
米国防総省は20日夜、制御不能で落下が懸念されていた偵察衛星の撃墜に成功したと発表した。
今回の迎撃作戦は、軌道を外れかかった衛星を撃破するものですので、発生したデブリは直ぐに大気圏に再突入して燃え尽きます。一方、中国の衛星破壊実験のように高い高度で行われた場合、何十年と宇宙に留まり続けるスペースデブリとなりますから、今回の件と同列視する事は出来ません。
アメリカはこの「デブリの問題は発生しない」という点と、「衛星が人口密集地帯に落ちないよう無力化する」という二点の大義名分を手に、副次効果として「偵察衛星の部品を他国の手に渡さない」「MDシステムのデモンストレーション」「一年前に衛星破壊実験を行った中国への牽制」という結果を得ることが出来ます。(以下略)
要するに、上記の引用記事からわかることは、
【アメリカのスペースデブリ】
・ほとんどが大気圏で燃え尽き、残っているのは、本体及び数十の破片のみ。
【中国のスペースデブリ】
・400個(追跡可能なサイズ)+数万個(追跡不可能なサイズ)の破片で、そのほとんどが軌道に残り続ける。
というわけで、どう考えても、アメリカの衛星撃墜より中国の衛星破壊実験のほうがはるかに迷惑だということはお分かりいただけるかと思います。
しかし、赤旗の記事をいくら読んでも、こういった事実は出てきません(所詮コラムですから、説明している訳にも行かないでしょうけど。でもそれにしても中国を出さないのはヒドイ)。
まあ、赤旗の場合は、こういった事実をわかって書いているのか非常に疑問ですが、もしわからないままコラムにしていたなら、素人にも劣るダメ記者ですし、わかっていながら、あえて無視しているなら特定の意図を隠しつつ正論を吐いている振りをした悪質な記事だと思います。
そもそも、宇宙開発に限らず、技術全般に言えることですが、軍事・非軍事の線引きをどこでするのかという難しい問題があります。
それに、「攻撃」の概念が、単に火器を使うものから、社会のインフラを狙うもの(サイバーテロ等)にまで当てはまる現在、線引き自体が無意味になりつつあるような気もします。
そんな時代に、「宇宙開発は非軍事」でという政策を墨守することが果たして、意味があるのか?
そういう視点からこの法案を吟味する態度が、赤旗をはじめとする左翼論壇には欠けているのではないでしょうか。
しかし、法案成立後の朝日新聞の社説↓もひどいですね。
宇宙基本法―あまりに安易な大転換
安易なのは、朝日新聞のほうです。
>情報収集衛星の解像能力も、民間で一般的な水準に抑えられてきた。
>今回の基本法は、現状を追認するばかりでなく、そうした制約も取り除いてしまおうというものだ。
あほか民間で一般的な水準なら、情報収集衛星として失格だと思うのだが…。
そんな制約があるほうがおかしい。
それに、日本の技術力では、一般的な水準の解像能力の衛星しか開発できなかったと聞いていますけど…。非軍事の制約で出来なかったという主張はちょっと疑問が残りますねぇ。
朝日新聞も赤旗と同じレベルに堕ちているようです。合掌。
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