日本がアメリカを赦す日
(2001/02)
岸田 秀
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(前回のつづき)
敗戦後の日米関係に関して日本の側に自己欺瞞があることは否定し難いですが、自己欺瞞している日本人も、公式には日米は緊密な同盟関係にあるイコール・パートナーだなどと言いながら、心のどこかでは日本がアメリカの属国、子分であることを知っているんですよ。
アメリカの占領下にあることをどこかで知っています。一般的に言って、宙に浮いている偽りのブライドではあるが、偽りにせよそのブライドを保とうとして、あることを意識の上では強く否認するものの、心のどこかでは知っているということかあります。
そういう場合、それを知っているということが、図らずも態度や行動の面に表れます。
しかし、それは、自分のある考えを、現実的・合理的判断にもとづいて意識的に態度や行動に表したのではないから、その際の態度や行動は、確信を欠いており、どこかちぐはぐで、あやふやで、ふらふらしています。
アメリカに対する日本がまさにそうですね。
たとえば、日本でアメリカ人がひどいことをしても、堂々と非難しない、あまり怒らない、あるいは、遠慮しいしい怯えながら怒ったふりをしてみるだけ、とか。
沖縄で小学生の女の子をアメリカ兵が強姦した事件のときもそうでした。
一応怒ってはみせるけれど、どこかでブレーキがかかり、徹底的には追及しない。
アメリカは親分で、子分はあまり文句を言えないと、どこかで知っているからです。
湾岸戦争のとき、日本は軍事費として初め四十億ドル出して、もっと出せと言われてあとから九十億ドル出しましたね。
百三十億ドルなんて、実感がないですが、ちょっとやそっとの金額ではないですね。
(~中略~)
アメリカに言われたので、断る決心がつかず、しぶしぶ出したという感じで、非常にみっともない最悪の行動パターンでした。
アメリカにいびられているイラクが、かつて日米戦争でアメリカの圧倒的軍事力によって散々な目に遭わされたわが国を思い出させるとかで、同情論があったりして、日本は本音のところではあまりアメリカに協力したくなかったんですね。
しかし、日本経済を支えている中東の石油に関してもアメリカのお世話になっているわけだから、協力しないわけにはゆかず、あのようなふらついた仕儀とあいなりました。
アメリカの立場に立ってみれば、鼻白む思いだったんではないですかね。
いやいやながら出してくれた協力金に誰が感謝するでしょうか。
それで、アメリカはますます日本を軽く見るようになったのではないでしょうか。
言えば出す、言わねば出さない所信なき国として。
湾岸戦争が起こったときに、アメリカに言われる前、日本が自ら決断してポンと百三十億ドル出したのであれば、非常に生きたんだけどね。
戦争が終わったとき、クェートが各国に感謝の表明を出したけど、日本の国名は入っていなかった。
あれだけのお金を出して、無駄金になったわけですよ、要するに。
イラクに恨まれ、アメリカに馬鹿にされ、クェートのような国かどうかわからないような国に無視され、誰にも感謝されませんでした。
アメリカとの関係でふらふらしているから、ああいう馬鹿げたことになるのです。
アメリカの子分でありながら子分でないかのごとく自己欺瞞しているからです。
子分でないならお金なんか全然出す必要はありません。
何だ、俺に断りもなく戦争なんか始めやがって、俺には関係ない、お前ら勝手にやれと言っていればいいのです。
日本政府が堂々とそう言ったら、日本がアメリカの子分であることを否認している国民の一部は拍手喝采したでしょうがね。
しかしそこまで言う自信はない。あとが怖い。出せと言われると出さなければまずいなと思って出す。
まったく拙劣な行動をしたよね。
アメリカが親分であって、日本は子分だという関係を明確に自覚していれば、子分であるがゆえにせざるを得ないことという線がちゃんと見えるわけね。また、子分だとしても、それ以上はすることないという線も見えるわけ。
それが、現実を否認して、意識的には子分でないつもり、無意識的にはどこかで子分であることを知っているというどっちつかすの状態で、心の動きにただ任せて気分的に行動していると、子分だからやむを得ない、やらざるを得ないと、理性的に納得できる必要なことでも、心のどこかから屈辱感が湧いてきて、反発してやめてしまったりします。
また逆に、子分としても主張すべきことは主張すべきなのに何か怖くて主張しなかったり、がまんする必要のないところでがまんしたり、必要以上に卑屈になったりします。
何をどうやるべきかの判断に自信がもてず、どっちに転んでも、現実とずれつづけるのです。
好ましくない現実の一部を見ていないのだから、つまり現実の一部を視野から排除しているのだから、判断が現実とずれるのは当然です。
それでも何とかやっているつもりかもしれませんが、結局は、その場しのぎのごまかしにしかならないと思います。
卑屈さに関して言えば、個人でも国家でも、状況の如何によっては、卑屈にならざるを得ない場合もあると思います。
しかし、その場合には、卑屈さを卑屈さとして明確に認識した上で卑屈にふるまうべきです。
そこで自己欺瞞して、卑屈さを卑屈さと認めず、好意とか献身とか忠節とかの口実でごまかしたりすると、客観的に冷静に現実をつかめなくなり、現実の卑屈さに対するブレーキが利かなくなります。
たとえば、実際にはもう卑屈である必要はなく、自分一人でやっていけるようになっていても、親分に過剰に依存してしがみつくということになったりします。
現実を認識していないから、いつ親分の機嫌を損ねるかわからず、心の奥で不安で、現実に不安を解消する道があっても気がつかず、ただただ不安から逃れようとして親分にしがみつく。
(~中略~)
卑屈さを卑屈さとして明確に認識し、卑屈さを必要とした現実の諸条件を認識していれば、現実にそれらの条件がなくなれば、ただちに卑屈さを撤回できます。
しかし、その認識が欠けていれば、もう現実に卑屈である必要がなくなっても、いつまでもだらだらと卑屈でありつづけることになります。
そして、そういう状態では何となくの屈辱感はいつも底流していて、ときにそれが爆発し過激な反抗に走ったりしますが、そのような反抗は、単なる鬱憤晴らし、ガス抜き、気休めでしかなく、現実の卑屈な依存を解決するためには何の役にも立ちません。
いや、現実に無効どころか、場合によってはかえって事態を悪くするだけです。
(次回へつづく)
【日本がアメリカを赦す日/第三章 ストックホルム症候群/P72~】
個人でも集団でも、卑屈と無縁で居続けることができないのが現実ですよね。
卑屈な状態を取らねばならない時に、如何にごまかさずに正視できるか?
卑屈でないと思い込むのは、自己欺瞞そのものですが、感情だけで反発するのもごまかしの一種だといえるでしょう。
冷静でいながら、卑屈さを自覚し、どうしたらその状態から逃れられるか考えること。
それが、卑屈から逃れるうる唯一の道なんでしょうね。なかなか難しいことですが…。
余談になりますが…。
湾岸戦争の時の対応は、確かにひどいものでした。
日本人の多くが自己欺瞞しているような状態ですから、個人の責任に帰すのはどうかと思うけど、あの時の海部内閣を操っていたのは、現民主党代表代行の小沢一郎なんですよね。
最近、「在日米軍は第7艦隊だけで十分」なんて勇ましい発言していたけど、言葉では何とでもいえますからね。実際の小沢一郎の過去の行動を見れば、正直いって非常に疑わしく思います。
小沢一郎を支持する人は、こういう過去の行動とかを知った上で応援しているのかな?
とてもそうは思えないのですが…。
それに比べて、イラク戦争時の小泉内閣の対応は、”子分として”みればまずまずの対応だったのではないでしょうか?
あの当時も小泉首相のことを「アメリカのポチ」呼ばわりする人たちがたくさんいたけど、果たしてそういう非難をする人たちは日本がどういう立場でいるのか把握したうえで、非難していたでしょうか?
小泉首相は表面上はともかく、内心では、日本の置かれた立場を正しく把握し、属国として取るべき分相応の行動をとった。
私はその決断を評価こそすれ、軽々しくアメリカのポチ呼ばわりしようとは思いません。
少なくとも湾岸戦争時の教訓を生かしたと言ってよいのでは…と考えます。
ただ、そうは言っても小泉首相も日米同盟が対等であるが如く振舞っていたのは否定できませんけどね。
まぁ、それでも、自己欺瞞に基づく「ふらつき」があまりない人だったように思います。
それはさておき、自己欺瞞に基づく批判ほど、扱いに困るものはないんじゃないかと最近つくづく思います。
最近のコメントやりとりしていて思うのは、たとえどんな正論を唱えていても、現実を正しく把握していない限り全くの空理空論でしかないってことですね。
本当に現実を正しく把握していたならば、どのように行動すれば、属国の立場から抜け出せるか考える事はできるはずです。少なくとも感情にまかせて批判することはしないはずです。
そうした点についての考慮が見受けられないから、彼らの批判というのは、まともに取り合ってもらえない底の浅い批判になってしまうとしか思えないのですが…。
簡単にアメリカのポチ呼ばわりする人たちは、それで憂さ晴らしが出来ているからガス抜きにはなるんでしょうが、それでは、なんの解決にもつながらない事ぐらい思い知るべきです。
自覚しない「ガス抜き」で卑屈感を解消するのではなく、卑屈感を自覚した上で制御すべきです。
その上で、卑屈な立場から抜けたいと思うなら、現実に抜けられる方策を取るべきですし、それが割りにあわないとなれば屈辱に耐えるべきなのです。
う~ん、何だかうまくまとまりませんが今日はこの辺で。
さて、次回は、岸田秀が考える対処法について紹介していく予定です。では。
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