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【岩崎う大の「シン・お笑い論」】(56) 『キングオブう大』と『M-1グランプリ』



『しくじり先生 俺みたいになるな!!』(※テレビ朝日系)の企画として『キングオブう大』というコーナーが始まったのが、2020年のことだった。その年の『キングオブコント』準決勝で敗退したうちの5組が参加し、僕が一人審査員として採点、コメントしていくという企画で、『note』でのキングオブコント評が話題になった結果だった。

準決勝で敗退したとはいえ、参加者は実力者ばかり。蓋を開けたら予想よりも緊張感のある空気で、そういう緊張感はバラエティーのアゲアゲな空気よりは得意なので、怯むことなく自分のペースで進むことができた。勿論、『オードリー』の若林さんを筆頭に、しくじり先生レギュラーメンバーの方々が、そのバラエティー離れした空気感を面白がって盛り立ててくれたおかげである。

このキングオブう大がきっかけで、noteを読んでくれる人も大幅に増えたし、僕に“審査員キャラ”がついた。審査員キャラなんて、現役でお笑いをやる上で邪魔になるという見方もあると思うが、長年キャラのなかった人間としては嬉しかったし、審査員キャラという謎の武器を活かせたら面白い筈だと今も思っている。現在は、非常に由緒ある『ABCお笑いグランプリ』の審査員までやらせていただけるようになったが、それもみんな、キングオブう大が始まりだ。

また、他人様のネタにああだこうだ言う以上、これからもコントを頑張ってやっていこうという決意も生まれた。笑いの神様との約束というか、世間や他の芸人から「あいつ審査員のくせに、このレベルなんだ」という逆審査を受ける可能性はあるが、自分のネタの理想を追い続けようと誓った。

そんな頃、『お笑い二刀流道場』(※テレビ朝日)という深夜番組の、コント師に漫才を披露させるという企画で、『かもめんたる』に漫才をやってほしいというオファーがあった。10年以上前、かもめんたるで漫才に挑戦した結果、「コントに専念しよう」という僕の中では英断を下して以来、漫才は観て楽しむものという固定観念があった。

キングオブコント2013優勝後、バラエティー番組にハマれず迷走していた頃も、「演劇をやれ」という助言は貰っても、「漫才をやれ」とは誰からも言われなかった。それぐらい、かもめんたるの漫才には誰も期待していなかった。

偶に槙尾から「漫才やりませんか?」という提案はあったが、それはかもめんたるのコントを漫才に落とし込んだものだった。そんなネタならコントでやればいい。僕はかもめんたると漫才に接点はないと思い込んでいた。

ただ、その時のオファーはタイミングがよかった。これはもう運命としか言いようがないかもしれない。丁度、『劇団かもめんたる』の公演中だったのだ。〈HOT〉という作品で、ラサール石井さんをゲストに迎えた公演。僕の役柄は政府の人間で、屁理屈や正論を織り交ぜながら他人を激詰めしていく“面倒臭いやつ”だった。

発言に妙な説得力があり、そいつと関わると、他人は皆、ある種の被害者になったり、加害者に仕立て上げられるが、そいつには確固たる芯があり、それは愛とも呼べてしまいそうな、そんな厄介な人間。そのキャラクターを演じながら、僕は凄くやり易いと感じていた。言葉がスラスラ出てくるのだ。

積極的に認めたくはないが、そのキャラには自分という人間と共鳴しているところが大いにあったのだろう。そこで僕が、このキャラクターとして舞台に上がって、センターマイクの前で謎の持論を展開させ、槙尾をツッコミとしてではなく、被害者として横に立たせたら、コントとは全く違うしゃべくり漫才ができるのではないかと閃いたのだ。

これは我々かもめんたるにとって、不可欠で革命的なアイデアだった。先ず、漫才をやる時は、岩崎う大本人としてセンターマイクの前に立たなければいけないと思っていて、そこにバラエティー番組に呼ばれた時のような苦手意識を持っていたが、それを自分に似てはいるが別人のキャラクターを演じることで解消することができた。

更に、ツッコミという職人的な技術がいるポジションを被害者という役割に変えることで、槙尾も得意な演技で乗り切れるのではないかと考えた。あとは究極の会話劇を作ればいい。この作戦が上手くハマった。

お笑い二刀流道場で披露したのは、「本屋に本を売りに来ていた息子の友達の母親が、全部買い取り不可になっていたのを目撃した時の正しいリアクションは?」という漫才だった。正しいリアクションを求めて、ああだこうだ言い続けるネタで、僕の偏屈で面倒臭い面を押し出した漫才は、予想以上にウケた。

オンエア翌日には、知り合いのディレクターさんから「M-1の挑戦権が未だあるなら絶対に挑戦したほうがいい。決勝に行けると思う」という嬉しい連絡を貰った。『M-1グランプリ』の出場資格はコンビ歴15年以内なので、かもめんたるに残されたチャンスはあと2年、2回の挑戦が可能だった。槙尾に連絡してみると「出たい」というので、「じゃあ出よっか」となった。

失うものは何もない。マネージャーからの許可もあっさりと下りた。キングオブコントに優勝して、劇団結成を経て、今更漫才に挑戦するのだから、人生は面白い。直ぐに漫才のネタを量産した。

「イルカは優しい、サメと共存してるもん。人間は自分とそっくりな魚類がいたら絶対に絶滅させている」というネタや、「え? 人類ってもう新しいスポーツつくらないの?」という会話から人類滅亡の話題に発展するネタ、「DVDのことを円盤って呼んだことある? 若しあったら俺の相方は無理だから」等差別を扱ったネタをつくった。2年しかないので、5年後に花開くスタイルをやっても意味がない。得意なことだけをやると決めていた。

ラストイヤーで決勝に上がるのが目標だったので、2021年の目標は準決勝進出だった。何としても準決勝の雰囲気を肌で感じておきたかった。漫才でライブに出るようになり、かもめんたるの漫才も浸透していき、形もどんどん定まっていったが、「これがかもめんたるの漫才だ!」と言えるほどの手応えはなかった。

1年間の集大成とばかりに披露した準々決勝での〈円盤〉の漫才は、小爆発は起こしたが、準決勝に進むことはできなかった。こうしてかもめんたるは早速、M-1ラストイヤーに突入した。 (聞き手・構成/フリー編集者 おぐらりゅうじ)


岩崎う大(いわさき・うだい) お笑いコンビ『かもめんたる』のボケ担当。1978年、東京都生まれ。早稲田大学のコントグループ『WAGE』を経て、2001年に『アミューズ』からプロデビュー。コント、演劇、テレビドラマの脚本作りにとどまらず、賞レースの審査員等“芸人を批評する芸人”という稀有な地位を確立。役者としてテレビドラマや映画に出演する等、マルチに活躍中。


キャプチャ  2024年12月17日号掲載

テーマ : お笑い芸人
ジャンル : お笑い

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Author:George Clooney

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