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97年から書き続けたweb日記を、このたびブログに移行。
鳳凰祭三月大歌舞伎 夜の部を観た
歌舞伎座の初日に、鳳凰祭三月大歌舞伎夜の部を鑑賞。あいにくの小雨模様。2月に来た時は大雪だったから、歌舞伎座に来るとなかなか天候には恵まれないな(笑)

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4時ちょっと過ぎに入場。筋書きを購入すると女性の係員が、「初日おめでとうございます」と声をかけて手渡してくれる。伝統の劇場という感じですな。イヤホンガイドもレンタル。

この日の席は、二階席1列9番。二階席の最前列でちょうど花道の真上。しかし最前列とはいえ、席の前が張り出しており、花道は半分以上見えない。

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普通に座ると花道のセリ(すっぽんと称するらしい)がギリギリ見えるというところ。ただ一般に花道で見栄を切る場合は、三分というこの辺りで行われるので、まあ観劇に大きな不都合はないだろうか。二階席西側では花道はまったく見えないようだ。

しかし1月、2月と座った一階の5列や7列席に比べると、舞台との物理的な距離が長く、声の通りも若干悪い気がする。表情も細かいところまでは分からない。花道から上手側に向かってセリフ言われると顔が見えないし聞こえづらい。舞台を上から見下ろすので見晴らしはよいのだが、やはりオーソドックスに一階「とちり」の席辺りがよいのかも。もっとも常連で見巧者の「大向こう」は3階席で見ている訳で、慣れの問題かもしれないが。

夜の部第一の演目は、「加賀鳶(かがとび)」。江戸時代を舞台にした世話物狂言の名作。松本幸四郎が、加賀鳶の親分梅吉と、悪役の按摩道玄の二役を演じる。一幕目は花道にずらりと一列に並んだ粋でいなせな火消しの加賀鳶衆が順番に美文の口上を述べる。これは大変派手な見せ場なのだが、二階席からだと花道の途中まで、そして横顔しか見えないのがよろしくないところ。この序幕は二幕目以降とは直接関係ないのだが、歌舞伎の様式美の華を気分よく見せる派手な演出。

二幕目以降はうってかわって、盲目を装った按摩、悪人の道玄が主人公のいわばサスペンス・コメディ。道玄は悪人だがどこか間が抜けて憎めないひょうきんなキャラクターで、これを松本幸四郎が軽妙に演じている。まあ明治期の火曜サスペンス劇場みたいなものだ。

ここで幕間が入る。何か弁当売ってるかと売店に行くと、幕の内はもう売り切れで、カツサンドかお稲荷だけ。カツサンドをビールと共に席で食す。まあ、松屋か三越で弁当買って行くのもよいのだよなあ。

第二の演目は、「歌舞伎十八番の内 勧進帳」。幕間に舞台係が花道に白木の板を敷き詰めている。幕が開いてみると、松羽目物の背景と同時に舞台の床全面が普段の舞台ではなく白木の床に変わっている。これもやはり能舞台の影響だろうか。

武蔵坊弁慶を中村吉右衛門が、富樫左衛門を尾上菊五郎が、源義経を藤十郎が演じる。

DVDで歌舞伎「勧進帳」を見たでも書いたが、「勧進帳」は歌舞伎十八番の中でも屈指の人気演目。特に弁慶は、市川団十郎宗家の「家の芸」として伝承されている。しかし実際に舞台で一番数多く弁慶を演じたのは団十郎の高弟だった七代目松本幸四郎。その子供が十一代目の団十郎と八代目の松本幸四郎(初代白鸚)となり、団十郎と幸四郎の家系は絡み合っている。そして八代目幸四郎の長男が当代の松本幸四郎、二男が今回弁慶を演じる中村吉右衛門という血筋で弁慶の芸が伝えられているのだ。歌舞伎の門閥は複雑で素人にはよく分からないところあり。

DVDでは何度も見たが、役者が変わるとまた別の味がある。本当に東大寺から派遣された勧進の一行を切り捨てては、関守である富樫自らの咎になる。しかし義経主従を通してしまっても切腹もの。「山伏問答」は、最後までギリギリの詮議をせんとする富樫と弁慶の、正に抜き身の刀でゴリゴリとしのぎを削りあうようなやりとり。朗々とした口跡で段々と富樫の詮議のテンションが高まってゆく。それを押し戻しねじ伏せるような弁慶のこれまた明晰かつ朗々と修験道を解説する応答。弁慶にとっても見せ場だが、富樫役にとっても一番の見せ場。「詰め寄り」もよかった。

最後の弁慶飛び六方は、二階席からはちょうど真正面で顔が見えて実に迫力あり。

第三の演目は、「日本振袖始(にほんふりそではじめ)」 坂東玉三郎が岩長姫にして八岐大蛇(やまたのおろち)を演じる舞踊劇。玉三郎の妖気に満ちた美しさに満ちた舞台。ただ舞い中心の舞台は、私自身にその方面の教養がサッパリ無いせいか、あるいは前の幕間に売店でスパークリング・ワインをグラスで貰って(そう、そんなものも売ってるのです)飲んだせいか、時々眠くなって困った(笑)

終ったのは9時過ぎ。まあ半日がかりの行楽のようなもんだなあ。しかし実に面白かった。

帰宅して、Amazonで購入した新書、「歌舞伎 家と血と藝」を読み進める。歌舞伎役者の一門で、名跡と芸の継承がどのように行われていたかの内実が窺われて実に面白い。歌舞伎もこれからずっと楽しめそうだ。