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隅田金属日誌(墨田金属日誌)

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2011.11
16
CM:0
TB:0
13:00
Category : 雑誌読み
 香港誌で「以台制華」という珍しい語句を見つけたので、まあちょっと。

 『鏡報』11月号に朗然さんの台湾総統選挙関連記事がある。「台湾大選的美日因素」※で、総統選挙と日米の関係についての観測記事になっている。
 その中で興味ふかいのが、日本が採るだろう台湾政策への見通しである。

 朗然さんは、日本は「以台制華」するだろうと見ている。台湾を自陣営による中国牽制である。これは面白い指摘である。潜在的であるが、実際に日本人はそのように考えているからである。

 実際に、日本人が説く台湾重視は、中国への牽制である。

 日本人による台湾防衛力への期待は、一種「以台制華」を期待したものだ。日本人が台湾独立に期待する点は、中国を台湾海峡に拘束できるだろう点である。台湾に中国と対峙し続けることを期待する点である。実際に、台湾防衛について語られる言論には、台湾での自由と民主主義の維持や、市場としての台湾といった観点はない。

 日本が台湾に抱く好意的感情も、概ね中国への、大陸への否定的感情を裏返したものである。※※ 台湾との友好や、ある種の台湾への賛美は、中国との関係や中国体制への裏返しになっている。台湾における民主主義体制の賛美は、常に中国における共産党一党独裁への批判とセットとして語られているのである。もちろん旧植民地への追憶や、一種勢力圏としての日本文化圏への帰属もあるが、政治的言論としては主流ではない。

 台湾独立運動への心情的肩入れも「以台制華」とする発想が影響している。台湾独立を積極的に応援する言論は、しばしばチベットやウイグル独立運動と平行して語られている。つまり中国への打撃を狙っての、独立運動支援である。台湾独立運動を応援する人々は、その理念として民族自立を訴えている。しかし、フィリピンでのイスラム教徒独立運動は支援しない。また、ビルマの民主化も支援しない。チベットやウイグル独立運動を応援する立場とは好対象である。

 日本には「以台制華」とする発想はある。もちろん、それ自体は発想として当然である。すでにここ10年来、日本は中国と対立するゲームを行なっている。日中対立ゲームでは、台湾が中国を対立してもらえてば、日本はゲームで立場を有利にできる。また、日本には台湾との関係強化を図ることにより、中国を制約するカードもある。

 ただし今の段階では、中国を牽制するカードとして、台湾は露骨に実用できない。台湾カードを振り回すと、中国との対立がエスカレーションする可能性が高い。新中国、中華人民共和国は、抗日戦の結果、誕生した国である。日本の侵略と中国人民の抵抗は、建国神話として国民が共有している。ゲームではなく、冷戦になることは望ましくない。

 日本が露骨に「以台制華」を実施すれば、中国人は傀儡国家「偽満州国」を通じた中国侵略を想起させる。そうなると、日中関係は収拾がつかなくなる。極端な話、台湾独立運動が高まったとする。日本にとってはゲームで非常に都合が良い。しかし、日本がそれを露骨に支援したとすれば全てはおジャンとなる。中国人は当然「偽台湾国」と呼ぶ。中国は面子にかけて台湾を回収しなければならない。§

 日中対立はゲームの範囲に留めなければならない。冷戦のような全面的な政治・軍事的対立や、その先にある熱戦一歩手前の状況は、日本にとって耐えることができない負担である。ゲームのカードとして「以台制華」は適当ではない。効果に較べて副作用が強すぎる。

 台湾カードを利用するしても、実際に可能な範囲は相当限定される。非政治、非軍事交流や、米国による台湾維持への協力程度が限界だろう。日本にとって「台湾独立」志向は好ましい。だが、非公式であっても、その志向に近い民進党・蔡英文を支援することも難しい。それにより国民党・馬英九を中国側に置いやってしまう。台湾世論も、尖閣諸島での小競り合いもあり、日本には厳しい。親日派のレッテルが致命的になる可能性もある。

 まあ、台湾カードで実現できるのって、台湾政府関係者への入国許可くらいかね。蔡さん、馬さん、どっちが勝っても日本に来てもらえれば、ゲームで中国に大打撃を与えることができる。別にどの段階の政府関係者であっても、台湾から来てもらえるなら、来てもらえばそれなりの嫌がらせにはなる。§§ それにより引き起こされる摩擦も、ゲームの範囲にとどまる。同じ程度の打撃だけど、日中関係冷却化や経済交流縮小程度で済むでしょう。でもねえ、ゲームで相手の威信を落す程度で、実益もあまりないね。

 台湾カードは触れずに、防衛力と外交で中国膨張主義をコンテインメントするほうが無難だね。日本は海軍力で対中アドバンテージを持つ。地道に防衛力を東シナ海方面にシフトさせたり、日中建艦競争をやる。中国が強引に海洋進出を図る状況では、周辺国もまとまりやすい。なんとなくの対中包囲網風、まあ、中国にとっての日米印越包囲網もどき(まあ、各国とも同床異夢だけど)をイメージ付けたりするほうがいいだろうね。実効では台湾カードによりも効く。また、中国が持ち始めた大国としての面子も(台湾カードに比較すれば)潰れにくい。

 ちなみに、記事中には「所以日本近年已開始加大過密日台間的政治、軍事交流。」とあるが、軍事交流やっていたのかねえ。日台軍事交流でググってみると、2007年の富士火力演習で民国陸軍(台湾陸軍)司令官、胡鎮埔さん(当時)が来たことくらいしか引っかからない。花火大会に呼んだ程度だと軍事交流でもないし、過密とも言えないのだろうがね。まあ相当警戒しているのかねえ。


※ 朗然「台湾大選的美日因素」『鏡報』412(2011.11,鏡報文化出版)

※※ 1980年代、対ソ同盟として日米と中国が協調関係にあった時期には、中国での「非民主的体制」への批判はほとんどなかった点に注意すべきである。台湾への支持(青嵐会)にしても、中華民国を見捨てたことへの道義的な負い目に基づいていた。もちろん、国民党独裁政権であり「台湾は中国ではない」言説はありえなかった。

§ 中国にとって、「中国の一部である台湾」が「中国人である台湾人」に支配されている限りは、何の問題もない。中国の一地方が言うことを聞かないだけの話である。しかし、外国人により台湾が切り取られた、となると話は別である。神聖な国土を外国に奪われた事を意味する。どれほど血を流しても取り戻さなければならない。

§§ ダライ・ラマさんが日本に入国して、それなりの政治発言をする程度の嫌がらせにはなるだろう。