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Category : 海上運輸
温暖化で北極海は簡単に使えるようになる、だからロシアの日本侵攻は容易になると主張する人がいたのだけれども。
まあ、船舶の耐氷グレードとか気象の不安定とか航路上にある水深とかご存じないんだろうなと思っていたよ。極地の海を通すには普通の船舶は駄目で、耐氷グレードの高いやつを選ばなければいけない。低気圧の墓場で天候の影響は大きい。北極航路には水深も露骨に浅いところがある。そういった問題がある。
その北極海航路について、商業利用もあんまりないよねという興味ふかい記事があった。会田浩之さんの「北極海航路の経済性と日本の期待」(『外交』2013.Nov)がそれ。
いや、合田さんのファンなんだよ。輸送物流の専門家でらっしゃるんだが、飛行船とかああいうキワモノについて、コスト構造を論じるような面白い記事が多い。初めて経歴みたけど、博士課程2つも入退院していてタイトル2つもっているというあたりも、なかなかすごい(無駄な)ことするなあという素晴らしい人。
合田さんは、北極航路の問題を次の通り列挙している
・ 4000-5000TEUが限界で、経済性に優れるわけではない
・ アジアから欧州向けの輸送量はそれほどない
- 日本から運ぶものは数%に過ぎない
・ 日系自動車メーカーの対欧州輸送は、トルコ工場で作っている
- 中国の半分を占める華南からは、安定輸送できる南回りが近い
- タイ、マレーシア、インドネシア、ベトナムは南回り以外にない
・ 可能性としてあるのは、納期や輸送品質を問われない生資源輸送だけ
- 北欧鉱石の中国向け輸出
- 日本向のLNG輸出
・ 可能性はヤマルLNGだが、日本が買うという話は聞いたこともない
実際に、合田さんが示した輸送実績も、粗雑な輸送しかできないとする指摘を裏付けている。東アジア向け実績として、2012秋の九州電力へのLNG輸出、2013年の旭化成・三菱向けナフサ輸出、時期不明だが中国COSCOの欧州向け輸出も荷は鋼材であった。
北極海航路は、通航が用意になったといっても、連絡線程度にすぎず、安定した基幹輸送には向いていないといったところだ。何時ついてもいいものを間欠的に運ぶにはいいが、それ以外を欧州・東アジアで運ぶなら、鉄道を使うシベリア・ランド・ブリッジ(ただし、東行は輸送量が詰まっていて高い)のほうがマシだろう。もちろん、南回り船便が一番安くて輸送品質も安定しているのだけれども。
※会田浩之「北極海航路の経済性と日本の期待」『外交』2013.Nov,(時事通信社,2013.11)pp.42-45
まあ、船舶の耐氷グレードとか気象の不安定とか航路上にある水深とかご存じないんだろうなと思っていたよ。極地の海を通すには普通の船舶は駄目で、耐氷グレードの高いやつを選ばなければいけない。低気圧の墓場で天候の影響は大きい。北極航路には水深も露骨に浅いところがある。そういった問題がある。
その北極海航路について、商業利用もあんまりないよねという興味ふかい記事があった。会田浩之さんの「北極海航路の経済性と日本の期待」(『外交』2013.Nov)がそれ。
いや、合田さんのファンなんだよ。輸送物流の専門家でらっしゃるんだが、飛行船とかああいうキワモノについて、コスト構造を論じるような面白い記事が多い。初めて経歴みたけど、博士課程2つも入退院していてタイトル2つもっているというあたりも、なかなかすごい(無駄な)ことするなあという素晴らしい人。
合田さんは、北極航路の問題を次の通り列挙している
・ 4000-5000TEUが限界で、経済性に優れるわけではない
・ アジアから欧州向けの輸送量はそれほどない
- 日本から運ぶものは数%に過ぎない
・ 日系自動車メーカーの対欧州輸送は、トルコ工場で作っている
- 中国の半分を占める華南からは、安定輸送できる南回りが近い
- タイ、マレーシア、インドネシア、ベトナムは南回り以外にない
・ 可能性としてあるのは、納期や輸送品質を問われない生資源輸送だけ
- 北欧鉱石の中国向け輸出
- 日本向のLNG輸出
・ 可能性はヤマルLNGだが、日本が買うという話は聞いたこともない
実際に、合田さんが示した輸送実績も、粗雑な輸送しかできないとする指摘を裏付けている。東アジア向け実績として、2012秋の九州電力へのLNG輸出、2013年の旭化成・三菱向けナフサ輸出、時期不明だが中国COSCOの欧州向け輸出も荷は鋼材であった。
北極海航路は、通航が用意になったといっても、連絡線程度にすぎず、安定した基幹輸送には向いていないといったところだ。何時ついてもいいものを間欠的に運ぶにはいいが、それ以外を欧州・東アジアで運ぶなら、鉄道を使うシベリア・ランド・ブリッジ(ただし、東行は輸送量が詰まっていて高い)のほうがマシだろう。もちろん、南回り船便が一番安くて輸送品質も安定しているのだけれども。
※会田浩之「北極海航路の経済性と日本の期待」『外交』2013.Nov,(時事通信社,2013.11)pp.42-45
Category : 海上運輸
だよもん氏は海事問題や船舶輸送に関して理解が浅薄である。ツイッターでの海上封鎖に対するトンチンカンな発言群を見ると、その点がよく理解できる。
だよもん氏はこの発言で「日本に海上封鎖をかけ」ると「必然的に極東ロシアと韓国に対する経済封鎖」になるとユニークな主張をしている。これは、海上封鎖に関してほとんど御存知ないことを示す発言である。歴史的実例、海上封鎖の通例、機雷戦のやり方を知らず、国際法への感覚が鈍麻である点を伺うことができる。
■ 戦争中、ソ連は経済封鎖に陥っていない
「日本に海上封鎖をかけ」でも「必然的に極東ロシアと韓国に対する経済封鎖」にはならない。これは、歴史的な実例を見ても明らかである。
大戦中、ソ連極東部は経済封鎖に陥っていない。太平洋戦争で日本は米国から海上封鎖を受けた。しかし、それは極東ソ連への経済封鎖にはなっていない。戦争中であっても極東ロシア港湾に向けたレンドリースは継続していた。日本海上封鎖が完成した戦争末期であっても、ロシアは対日戦準備として船舶輸送を行なっている。
■ トンチンカンな海上封鎖
だよもん氏は海上封鎖のやり方、実例を知らない。まず、海上封鎖を、あらゆる船舶を通さない壁を作ることだと勘違いしている。しかし、実際には中立国からも海へのアクセスを閉ざすような海上封鎖はやらない。また、機雷戦についても、機雷原を間違って理解している。全ての機雷原を完全封鎖するものだと誤っている。
海上封鎖は、何も通さない壁を作るわけではない。中立国艦船が、中立国にアクセスする権利は尊重される。第二次世界大戦でも、日本は宗谷海峡を完全封鎖せず、ソ連艦船やソ連に向けたアクセスを尊重している。また、ヨーロッパでも中立国の権利は尊重されている。第二次世界大戦では、スイスやスペインから、新大陸へのアクセスも尊重されていた。例えば、カナダ産小麦へ輸入である。これは連合国・枢軸国了解のもとに行われている。
つまり「日本に海上封鎖をかけ」でも「必然的に極東ロシアと韓国に対する経済封鎖」にはならない。
■ 機雷戦について御存知ない
だよもん氏は機雷原についても間違えた理解である。だよもん氏は、日本封鎖のために対馬海峡に機雷原が作られるとしている。その機雷原は「機雷は船を選ばないw」と露韓の商船もすべて通れないと理解している。しかし、対馬海峡に機雷を敷設したからといって、露韓の商船が通れなくなるとする発想は誤りである。
一般的に、機雷原には安全航路を設定することを知らない。先に挙げた宗谷海峡封鎖では、機雷原にソ連向け安全航路が設定されている。複雑な機雷原でも、アクセスのために沿岸沿いに安全航路を設定する。単純な航路では開放し、複雑な航路では先導船をつける。そして機雷原を作ったからといって、どの国の艦船も全く通れなくなるとする発言は、安全航路設定を知らないことを示している。
そもそも、だよもん氏がイメージする鉄壁の機雷原は、対馬海峡では作れない。どんな船も通さないような機雷原は、ごく狭い範囲でなければ作れない。具体的には戦争末期の下関海峡や、ベトナム戦争末期のハイフォン港いった狭い海域である。しかも、継続敷設してようやく完成している。作れるとすれば防御側であるが、日本は安全航路を持たないような機雷原をつくるつもりもない。
機雷原を作っても「必然的に極東ロシアと韓国に対する経済封鎖」にはならない。そのような発言は、機雷戦について何も知らないということを示している。。
■ 国際法への関心もない
そして、だよもん氏が国際法について鈍麻であることも伺える。安導券といったものも知らないのだろう。何もかも通さないような海上封鎖が実施される。中立国のアクセスを奪うような非常識な機雷原が生まれる。安導券の存在を承知していれば、そのような発想はない。おそらく、国際法に関しての知識や関心も薄いのであろう。
■ 海上輸送への理解がない
そもそも、中国による対日経済封鎖で「対馬や宗谷を封鎖」しなければならない理由が理解不能である。日本の主要航路は日本海を経由しない。むしろ、日本海は日本の安全航路になってしまう。輸送容量は小さいものの、シベリア・ランド・ブリッジの安全が確保される結果になる。完全封鎖するなら、むしろ日本海に侵入しなければならないハズなのだが。
だよもん氏は、海事問題や船舶輸送に関して何も理解していない。海上輸送や船舶輸送をトラックで代替できると考えている程度に過ぎない。具体的には「冬に河や海が結氷したら、大規模物流は活発になる」http://twitter.com/V2ypPq9SqY/status/27408470032とか言い出している。「船がつかえないのならトラックで運べばいい」とする水準である。「パンが無ければお菓子を食べればいい」と大差ない考えなのだろう。
まあ、海上封鎖に関しても何も御存知ないことも、不思議な話ではないなということ。他にも、
※ どの国が日本を封鎖するかに関しては、中国を指している。https://twitter.com/V2ypPq9SqY/status/258107917235003392で「南シナ海の海上優勢」云々から、アメリカの対日戦ではなく、中国による南シナ海制海権確保、中国による対日海上封鎖を示している。
というか、[中国が※]日本に海上封鎖かけたら必然的に極東ロシアと韓国に対する経済封鎖も同時にやることにry
https://twitter.com/V2ypPq9SqY/status/258110316691476480
だよもん氏はこの発言で「日本に海上封鎖をかけ」ると「必然的に極東ロシアと韓国に対する経済封鎖」になるとユニークな主張をしている。これは、海上封鎖に関してほとんど御存知ないことを示す発言である。歴史的実例、海上封鎖の通例、機雷戦のやり方を知らず、国際法への感覚が鈍麻である点を伺うことができる。
■ 戦争中、ソ連は経済封鎖に陥っていない
「日本に海上封鎖をかけ」でも「必然的に極東ロシアと韓国に対する経済封鎖」にはならない。これは、歴史的な実例を見ても明らかである。
大戦中、ソ連極東部は経済封鎖に陥っていない。太平洋戦争で日本は米国から海上封鎖を受けた。しかし、それは極東ソ連への経済封鎖にはなっていない。戦争中であっても極東ロシア港湾に向けたレンドリースは継続していた。日本海上封鎖が完成した戦争末期であっても、ロシアは対日戦準備として船舶輸送を行なっている。
■ トンチンカンな海上封鎖
だよもん氏は海上封鎖のやり方、実例を知らない。まず、海上封鎖を、あらゆる船舶を通さない壁を作ることだと勘違いしている。しかし、実際には中立国からも海へのアクセスを閉ざすような海上封鎖はやらない。また、機雷戦についても、機雷原を間違って理解している。全ての機雷原を完全封鎖するものだと誤っている。
海上封鎖は、何も通さない壁を作るわけではない。中立国艦船が、中立国にアクセスする権利は尊重される。第二次世界大戦でも、日本は宗谷海峡を完全封鎖せず、ソ連艦船やソ連に向けたアクセスを尊重している。また、ヨーロッパでも中立国の権利は尊重されている。第二次世界大戦では、スイスやスペインから、新大陸へのアクセスも尊重されていた。例えば、カナダ産小麦へ輸入である。これは連合国・枢軸国了解のもとに行われている。
つまり「日本に海上封鎖をかけ」でも「必然的に極東ロシアと韓国に対する経済封鎖」にはならない。
■ 機雷戦について御存知ない
だよもん氏は機雷原についても間違えた理解である。だよもん氏は、日本封鎖のために対馬海峡に機雷原が作られるとしている。その機雷原は「機雷は船を選ばないw」と露韓の商船もすべて通れないと理解している。しかし、対馬海峡に機雷を敷設したからといって、露韓の商船が通れなくなるとする発想は誤りである。
一般的に、機雷原には安全航路を設定することを知らない。先に挙げた宗谷海峡封鎖では、機雷原にソ連向け安全航路が設定されている。複雑な機雷原でも、アクセスのために沿岸沿いに安全航路を設定する。単純な航路では開放し、複雑な航路では先導船をつける。そして機雷原を作ったからといって、どの国の艦船も全く通れなくなるとする発言は、安全航路設定を知らないことを示している。
そもそも、だよもん氏がイメージする鉄壁の機雷原は、対馬海峡では作れない。どんな船も通さないような機雷原は、ごく狭い範囲でなければ作れない。具体的には戦争末期の下関海峡や、ベトナム戦争末期のハイフォン港いった狭い海域である。しかも、継続敷設してようやく完成している。作れるとすれば防御側であるが、日本は安全航路を持たないような機雷原をつくるつもりもない。
機雷原を作っても「必然的に極東ロシアと韓国に対する経済封鎖」にはならない。そのような発言は、機雷戦について何も知らないということを示している。。
■ 国際法への関心もない
そして、だよもん氏が国際法について鈍麻であることも伺える。安導券といったものも知らないのだろう。何もかも通さないような海上封鎖が実施される。中立国のアクセスを奪うような非常識な機雷原が生まれる。安導券の存在を承知していれば、そのような発想はない。おそらく、国際法に関しての知識や関心も薄いのであろう。
■ 海上輸送への理解がない
そもそも、中国による対日経済封鎖で「対馬や宗谷を封鎖」しなければならない理由が理解不能である。日本の主要航路は日本海を経由しない。むしろ、日本海は日本の安全航路になってしまう。輸送容量は小さいものの、シベリア・ランド・ブリッジの安全が確保される結果になる。完全封鎖するなら、むしろ日本海に侵入しなければならないハズなのだが。
だよもん氏は、海事問題や船舶輸送に関して何も理解していない。海上輸送や船舶輸送をトラックで代替できると考えている程度に過ぎない。具体的には「冬に河や海が結氷したら、大規模物流は活発になる」http://twitter.com/V2ypPq9SqY/status/27408470032とか言い出している。「船がつかえないのならトラックで運べばいい」とする水準である。「パンが無ければお菓子を食べればいい」と大差ない考えなのだろう。
まあ、海上封鎖に関しても何も御存知ないことも、不思議な話ではないなということ。他にも、
[中国に]南シナ海の海上優勢とられると制海権と海洋拒否の区別がついていないあたりも、御存知ないのだろうけど。このあたりは、長くなるから次の機会にでもね。
※ どの国が日本を封鎖するかに関しては、中国を指している。https://twitter.com/V2ypPq9SqY/status/258107917235003392で「南シナ海の海上優勢」云々から、アメリカの対日戦ではなく、中国による南シナ海制海権確保、中国による対日海上封鎖を示している。
Category : 海上運輸
マラッカ海峡-バシー海峡が使えなくなったとしても、日本の石油需要が満たせなくなることはない。マカッサル方面に迂回することにより、日本は石油を確保できる。同様に迂回によってヨーロッパ航路も確保できる。日本にとってマラッカ海峡、バシー海峡は重要ではあるが、死活的ではない。
『陸戦研究』最新号(23年2月号)には筆頭記事として、「東南アジアにおける南西航路帯の防衛」(平沢達也)※が掲載されている。平沢さんの記事は、現在の南シナ海情勢を興味深くまとめあげたものであり、日本にとって死活問題である海上輸送を確保しなければならない点を指摘している。マラッカ海峡・バシー海峡を重視する主張は説得性に富んでおり、また、日本がベトナムや他のASEAN諸国、環太平洋諸国との軍事も含めた交流をすすめるべきという結論にも賛成できるものである。
しかし、問題意識としては、あまりにも悲観的に過ぎる。平沢さんは、南シナ海航路が使えなくなった際に、日本は石油需要を満たせなくなると主張している。
確かにマラッカ海峡-南シナ海-バシー海峡は日本にとって重要な航路である。だが、不可欠な航路ではない。仮に通航不可となったとしても、迂回によって問題は解決する。平沢さんが指摘しているマカッサル方面への迂回である。中東からの石油も、ヨーロッパとのコンテナ輸送にしても、迂回によって問題は解決する。
中東からの石油輸送は、マカッサル迂回があっても、タンカーの輸送コスト・稼航率にはそれほど影響はしない。ホルムズ海峡から東京までの距離を比較しても、マカッサル経由では距離は1割程度増えるに留まる。グーグルマップで距離を測定すると、ホルムズ海峡から東京湾口までの距離は
・ 南シナ海経由 約12000km マラッカ-南シナ海-バシー経由
・ マカッサル経由 約13000km ロンボク-マカッサル経由 (+8.5%)
と1000km程度、8.5%の増しか生じない。原油輸入価格に占める輸送コストは5%以下であり、しかも半分は船舶減価償却や荷物の積み下ろしコストである。マカッサル迂回により、船舶運航の燃料費や人件費が8.5%程度上昇したとしても、輸送コストは5%程度しか上昇しない。現在の原油価格からすれば、原油輸入価格の0.25%の上昇に留まる。コストとして無視してもよい。また、航海日数も片道20日が22日になる程度である。これも稼航率上、無視してよい。 そして、実際に、マカッサルを経由しているタンカーも存在する。タンカーの中には、水深の関係からマラッカ海峡を通峡できない船もある。そのような船はすでにマカッサルを迂回している。このマカッサル迂回により、タンカー運用に死活的な影響は出ていない。
ヨーロッパ航路でも、マカッサル迂回は死活的な影響とはならない。原油の場合と同じように、東京湾口からロッテルダム(ヨーロッパでのコンテナ輸送の中心)までの輸送距離を比較しても
・ 南シナ海経由 約21500km
・ マカッサル経由 約23000km (+7%)
距離にして1500km、7%の増としからならない。主力のコンテナ輸送についても、原油輸送と同様に、製品価格に占める輸送コストは(品目によって異なるが)ほぼ無視して良い。公海日数も稼航率も同様である。問題点としては、コンテナ船の寄港地であるシンガポールへのアクセス可否の方が大きい。
南シナ海通航不可・マカッサル迂回は、日本の海上輸送にとっては、死活的な問題とはならない。コストアップは無視できる程度であり、実際には、原油価格やコンテナの海上輸送運賃といった市況変動に隠れる程度の影響でしかない。稼航率についても、タンカーで約2日、コンテナ船で約1日、航海日数が増加するだけであり、大きく影響しない。問題は、マカッサル海峡・ロンボク海峡における航路支援、場合によれば航路管制、また船舶保険への影響である。だが、両者とも解決できない問題ではない。※※
南西航路帯は、重要な航路ではあるが、死活的な航路ではない。「南西航路」の船舶輸送に関しては、この南シナ海有事シナリオや、台湾有事シナリオでは「日本にとって死活的な影響を及ぼす」と言われることが多い。しかし、実際の影響を考慮しても、マカッサル迂回で問題は解決してしまうのである。 平沢さんの主張するように、南シナ海航路が使えなくなった際に、日本は石油需要を満たせなくなることはないのである。
※ 平沢達也「東南アジアにおける南西航路帯の防衛」『陸戦研究』23.2(陸戦学会,2011)pp.1-27
※※ 日本による、航路支援(Navigation Aid)や航路管制の支援であるが、マラッカ海峡では実施した実績がある。また、船舶輻輳の問題に関しては、たとえばマラッカ海峡・ロンボク海峡を南行、モルッカ方面を北行と分けることも可能である。船舶保険に関しても、最悪でも政府による再保証で解決する。
『陸戦研究』最新号(23年2月号)には筆頭記事として、「東南アジアにおける南西航路帯の防衛」(平沢達也)※が掲載されている。平沢さんの記事は、現在の南シナ海情勢を興味深くまとめあげたものであり、日本にとって死活問題である海上輸送を確保しなければならない点を指摘している。マラッカ海峡・バシー海峡を重視する主張は説得性に富んでおり、また、日本がベトナムや他のASEAN諸国、環太平洋諸国との軍事も含めた交流をすすめるべきという結論にも賛成できるものである。
しかし、問題意識としては、あまりにも悲観的に過ぎる。平沢さんは、南シナ海航路が使えなくなった際に、日本は石油需要を満たせなくなると主張している。
[南シナ海で日本船舶の航行が中国によって圧迫された場合には]日本向けのタンカーは、危険を回避するために東・南シナ海を迂回してマカッサル海峡を通過することになる。しかしながら、長期にわたってこの状態が続けば、日本向けタンカーの通航は徐々に減少し、国内需要が十分に満たせなくなる。すると日本は、最終的に備蓄原油の使用を余儀なくされ、国内における石油価格が上昇する上、中国との交渉が難航すれば、政府に対する国民の信頼が大きく低下して国内が混乱する。(平沢 2011 pp.12)
確かにマラッカ海峡-南シナ海-バシー海峡は日本にとって重要な航路である。だが、不可欠な航路ではない。仮に通航不可となったとしても、迂回によって問題は解決する。平沢さんが指摘しているマカッサル方面への迂回である。中東からの石油も、ヨーロッパとのコンテナ輸送にしても、迂回によって問題は解決する。
中東からの石油輸送は、マカッサル迂回があっても、タンカーの輸送コスト・稼航率にはそれほど影響はしない。ホルムズ海峡から東京までの距離を比較しても、マカッサル経由では距離は1割程度増えるに留まる。グーグルマップで距離を測定すると、ホルムズ海峡から東京湾口までの距離は
・ 南シナ海経由 約12000km マラッカ-南シナ海-バシー経由
・ マカッサル経由 約13000km ロンボク-マカッサル経由 (+8.5%)
と1000km程度、8.5%の増しか生じない。原油輸入価格に占める輸送コストは5%以下であり、しかも半分は船舶減価償却や荷物の積み下ろしコストである。マカッサル迂回により、船舶運航の燃料費や人件費が8.5%程度上昇したとしても、輸送コストは5%程度しか上昇しない。現在の原油価格からすれば、原油輸入価格の0.25%の上昇に留まる。コストとして無視してもよい。また、航海日数も片道20日が22日になる程度である。これも稼航率上、無視してよい。 そして、実際に、マカッサルを経由しているタンカーも存在する。タンカーの中には、水深の関係からマラッカ海峡を通峡できない船もある。そのような船はすでにマカッサルを迂回している。このマカッサル迂回により、タンカー運用に死活的な影響は出ていない。
ヨーロッパ航路でも、マカッサル迂回は死活的な影響とはならない。原油の場合と同じように、東京湾口からロッテルダム(ヨーロッパでのコンテナ輸送の中心)までの輸送距離を比較しても
・ 南シナ海経由 約21500km
・ マカッサル経由 約23000km (+7%)
距離にして1500km、7%の増としからならない。主力のコンテナ輸送についても、原油輸送と同様に、製品価格に占める輸送コストは(品目によって異なるが)ほぼ無視して良い。公海日数も稼航率も同様である。問題点としては、コンテナ船の寄港地であるシンガポールへのアクセス可否の方が大きい。
南シナ海通航不可・マカッサル迂回は、日本の海上輸送にとっては、死活的な問題とはならない。コストアップは無視できる程度であり、実際には、原油価格やコンテナの海上輸送運賃といった市況変動に隠れる程度の影響でしかない。稼航率についても、タンカーで約2日、コンテナ船で約1日、航海日数が増加するだけであり、大きく影響しない。問題は、マカッサル海峡・ロンボク海峡における航路支援、場合によれば航路管制、また船舶保険への影響である。だが、両者とも解決できない問題ではない。※※
南西航路帯は、重要な航路ではあるが、死活的な航路ではない。「南西航路」の船舶輸送に関しては、この南シナ海有事シナリオや、台湾有事シナリオでは「日本にとって死活的な影響を及ぼす」と言われることが多い。しかし、実際の影響を考慮しても、マカッサル迂回で問題は解決してしまうのである。 平沢さんの主張するように、南シナ海航路が使えなくなった際に、日本は石油需要を満たせなくなることはないのである。
※ 平沢達也「東南アジアにおける南西航路帯の防衛」『陸戦研究』23.2(陸戦学会,2011)pp.1-27
※※ 日本による、航路支援(Navigation Aid)や航路管制の支援であるが、マラッカ海峡では実施した実績がある。また、船舶輻輳の問題に関しては、たとえばマラッカ海峡・ロンボク海峡を南行、モルッカ方面を北行と分けることも可能である。船舶保険に関しても、最悪でも政府による再保証で解決する。