◇ 抱え込んだ大きな矛盾 = EUの母体となったECSC(ヨーロッパ石炭鉄鋼共同体)は1951年に、フランスや西ドイツなど6か国によって設立された。それが現在のEUには、離脱を決めたイギリスを含めて28か国が加盟している。結果として、経済力の強い国と弱い国が混在することになった。それを政策的にまとめるのは容易ではない。たとえばギリシャの財政不安問題では、ドイツ国民が「われわれの税金で、なぜギリシャを助けなければならないのか」と不満を爆発させた。
加盟国が増えるにつれて、EUの組織も肥大化した。いま職員は3万人。これらのEU官僚が次々と、新しい政策や規制措置を打ち出してくる。加盟国は拠出金が増大する半面で、主権が削がれて行く。今回のイギリスの国民投票でも「われわれが選挙で選んだわけでもないEU執行部が、勝手に作った法律を押し付けてくる」矛盾が声高に主張された。
EUは中央銀行を設立して、域内の金融政策を統一している。しかし各国の税収能力には大きな開きがあるから、財政政策は統一できない。しかしEUは加盟国の財政赤字には、きびしい注文を付けてくる。こうした財政と金融の不一致も、もともと矛盾をはらんでいた。また加盟28か国のうち、単一通貨ユーロを使っているのは19か国。イギリスなどは主権の侵害だと考え、導入しなかった。これも矛盾の一つである。
イギリスのEU離脱は、こうした矛盾が露呈した結果だとも言えるだろう。メルケル・ドイツ首相とオランド・フランス大統領はこれからEUの結束に全力を挙げるだろうが、こうした矛盾の修正も視野に入れないと、加盟国の根本的な不満は解消しないのではないか。不満が解消しないと、EUは分裂の危険性を抱え込んだままになってしまう。
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