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- » 2025 . 01
Category : ミリタリー
チベット国境はレーダ網も粗いだろうから、中国への航空侵入は難しくないんじゃないかな。
『鏡報』今月号に、梁天仞さんが「中国建成全天域空軍」を載せている。「人民解放軍がついにチベット上空を掌握した」とする内容である。しかし、実態としては、それほどは掌握していないのではないか。
随筆風であるので曖昧ではあるが、記事趣旨は「中国はチベット高原での制空権を掌握した」となるだろう。
梁さんによる記事は、概ね2つで構成されている。チベットでの空軍演習と、参加した殲10戦闘機である。前者は2012年2月に行われた演習についてである。『中国軍網』と『印度時報』に掲載された記事を元にしている。後者は殲10開発経緯※※とエンジンに関する内容である。
概要としては、中印国境に沿った航空基地と、高原での運用に適した新型機が配備された。空気希薄な高原地帯での航空機運用は容易ではないと述べ、チベット高原では中国空軍のみ制空権を掌握する。(解放軍已牢牢掌控了全天域制空権)と結論づける内容である。
しかし、中国は果たして制空権を掌握できるのだろうか。
もちろん、チベット高原での空中戦であれば、中国戦闘機は優位に立てる。仮想敵のインド機に対して、殲10は劣るものではないだろう。侵入側に較べて、邀撃側は優位に立つ。燃料には余裕がある。パイロットも疲労は少ない。飛行場周辺であれば、ある程度、レーダ等から支援を見込むこともできる。
だが、制空権が掌握できるかどうかになると、難しい。中国だけがチベット上空を独占利用できるわけではない。他国であっても、中国国境を超えること、チベット上空で飛行することは不可能ではない。
中国は、充分な対空監視網を持っていない。中国防空網は緻密とは考えられない。人口希薄であり、国境線も長大なインド・中央アジア・シベリア方面にレーダ網を建設することは難しい。現況を窺う資料はないが、レーダは重要地点に点在する程度だろう。
日本のように、隙間なくレーダ監視できる国は例外である。北米であっても、一部はレーダ覆域に収まっていない。旧ソ連、おそらく今のロシアも、極東・北極海方面はザルになっている。米ソとも、不足するレーダ覆域をカバーするために、代替としてOTHレーダを開発している。
米露同様に、中国でのレーダ網も濃密とは考えがたい。優先するとしても海側である。最大の仮想敵である米国、その海空軍力に直面する海岸部はそれなりにレーダ網を整備しなければならない。内陸側国境は後回しである。そもそもチベット、ウイグルには開発度が低く、エリアとして守るべき人口稠密地ではない。
チベット上空に侵入することは、極端に困難ではない。レーダ網は濃密ではない。もちろん、レーダや対空監視等で捕捉され、邀撃を受ければ大変なことになる。だが、人口希薄であり、面積に較べ、駐屯する軍隊も少ない。その可能性は高くはない。
冷戦期にU2は中央アジアからソ連に侵入している。この時にはパキスタンから新中国に入り、そこからカザフスタンに侵入している。※※※ チベットやウイグル防空網は、いまでも似たようなものだろう。
まあねえ、梁さんの言う「チベット上空を掌握」は、空白ではなくなったよ程度のニュアンスなんじゃないかな。事実上、航空戦力でカバーされていなかったチベットに、「実戦部隊が展開したよ」程度ではないけど。逆に言えば「これまでは飛んできたのを見つけても、対処できなかったんじゃないの?」ということも窺えるけどね。
※ 梁天仞「中国建成全天域空軍」『鏡報』418(鏡報文化企業有限公司,香港,2012.5)pp.82-85.
※※ 「殲10は、クフィール国産計画が起源」としており、興味深い。
※※※ (著者、記事名はメモを忘れた)Prologue(National Archive and Records Administration, Washington 2009 winter)p.21
『鏡報』今月号に、梁天仞さんが「中国建成全天域空軍」を載せている。「人民解放軍がついにチベット上空を掌握した」とする内容である。しかし、実態としては、それほどは掌握していないのではないか。
随筆風であるので曖昧ではあるが、記事趣旨は「中国はチベット高原での制空権を掌握した」となるだろう。
梁さんによる記事は、概ね2つで構成されている。チベットでの空軍演習と、参加した殲10戦闘機である。前者は2012年2月に行われた演習についてである。『中国軍網』と『印度時報』に掲載された記事を元にしている。後者は殲10開発経緯※※とエンジンに関する内容である。
概要としては、中印国境に沿った航空基地と、高原での運用に適した新型機が配備された。空気希薄な高原地帯での航空機運用は容易ではないと述べ、チベット高原では中国空軍のみ制空権を掌握する。(解放軍已牢牢掌控了全天域制空権)と結論づける内容である。
しかし、中国は果たして制空権を掌握できるのだろうか。
もちろん、チベット高原での空中戦であれば、中国戦闘機は優位に立てる。仮想敵のインド機に対して、殲10は劣るものではないだろう。侵入側に較べて、邀撃側は優位に立つ。燃料には余裕がある。パイロットも疲労は少ない。飛行場周辺であれば、ある程度、レーダ等から支援を見込むこともできる。
だが、制空権が掌握できるかどうかになると、難しい。中国だけがチベット上空を独占利用できるわけではない。他国であっても、中国国境を超えること、チベット上空で飛行することは不可能ではない。
中国は、充分な対空監視網を持っていない。中国防空網は緻密とは考えられない。人口希薄であり、国境線も長大なインド・中央アジア・シベリア方面にレーダ網を建設することは難しい。現況を窺う資料はないが、レーダは重要地点に点在する程度だろう。
日本のように、隙間なくレーダ監視できる国は例外である。北米であっても、一部はレーダ覆域に収まっていない。旧ソ連、おそらく今のロシアも、極東・北極海方面はザルになっている。米ソとも、不足するレーダ覆域をカバーするために、代替としてOTHレーダを開発している。
米露同様に、中国でのレーダ網も濃密とは考えがたい。優先するとしても海側である。最大の仮想敵である米国、その海空軍力に直面する海岸部はそれなりにレーダ網を整備しなければならない。内陸側国境は後回しである。そもそもチベット、ウイグルには開発度が低く、エリアとして守るべき人口稠密地ではない。
チベット上空に侵入することは、極端に困難ではない。レーダ網は濃密ではない。もちろん、レーダや対空監視等で捕捉され、邀撃を受ければ大変なことになる。だが、人口希薄であり、面積に較べ、駐屯する軍隊も少ない。その可能性は高くはない。
冷戦期にU2は中央アジアからソ連に侵入している。この時にはパキスタンから新中国に入り、そこからカザフスタンに侵入している。※※※ チベットやウイグル防空網は、いまでも似たようなものだろう。
まあねえ、梁さんの言う「チベット上空を掌握」は、空白ではなくなったよ程度のニュアンスなんじゃないかな。事実上、航空戦力でカバーされていなかったチベットに、「実戦部隊が展開したよ」程度ではないけど。逆に言えば「これまでは飛んできたのを見つけても、対処できなかったんじゃないの?」ということも窺えるけどね。
※ 梁天仞「中国建成全天域空軍」『鏡報』418(鏡報文化企業有限公司,香港,2012.5)pp.82-85.
※※ 「殲10は、クフィール国産計画が起源」としており、興味深い。
※※※ (著者、記事名はメモを忘れた)Prologue(National Archive and Records Administration, Washington 2009 winter)p.21
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まとめtyaiました【チベット防空網は今でもザルだと思うよ】
チベット国境はレーダ網も粗いだろうから、中国への航空侵入は難しくないんじゃないかな。 『鏡報』今月号に、梁天仞さんが「中国建成全天域空軍」を載せている。「人民解放軍がついにチベット上空を掌握した」とする内容である。しかし、実態としては、それほどは掌握...
Comment
No title
08:44
URL
編集
Re: No title
23:18
文谷数重
URL
編集
民間飛行場はあって、軍隊も使用していたみたいな話です。でも、高原で空気が薄いので、Mig17/19/21だのは、ギリギリの条件でしか離着陸できないとかあったんでしょうかねえ。
それがJ-10で解決された程度の意味で。
> 「人民解放軍がついにチベット上空を掌握した」というのは、=「やっと、この方面に空軍戦力を向けられるようになった」という程度の意味ではないかと