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隅田金属日誌(墨田金属日誌)

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2013.11
20
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12:00
Category : 有職故実
 夏休み、東京見物に出た女学生3人連れが女衒に騙されて苦界に放り込まれた事件がある。しかも、昭和30年に。

 30年7月末、福岡の女子高生(17)が来るのだけど。そこに悪い男が擦り寄る。「東京は危ないところだから悪いやつに騙されるな」といったとある。親切ごかしたり、飯食わせたり、諸費奢ったりしたのだろう。そのあとで「働きながら見物すれば、お金の節約にもなるし、長く居られる」と持ちかけたとある。女学生には負い目があるので、断りにくい話だ。

 だが、働く先は三業地。今ではない言葉だが、まずは色街のこと。女を差し出す置屋、場所を貸す待合、飲食物を出前する料理屋の3つで三業、その場所で三業地といった。その三業地にバラバラに女中として送り込まれた。バラバラにするのは、相談させないようにする工夫だろう。そういったノウハウもあったということだ。

 しかし、これを不審に思った娘が直ぐに抜け出す。抜け出すならともかく、そのときに4800円を持ち逃げする。すると、悪いやつは、逃げたC子の件でA子とB子を脅す。連帯責任だと訳のわからないことを言って、女郎屋に売り飛ばす。吉原の特飲店、初菊に1人2万で売り飛ばしたという話。

 それが8月末にお縄となった。8月27日付朝日新聞「東京はこわい所 -夏休みに見物にきた女学生を売り飛ばす」がそれ。児童福祉法違反で捕まっている。ちなみに売春防止法は施行(昭33年)どころか、成立(昭31年)もしていない。成人した後なら、売春そのものは完全に合法。(ちなみに今は売春は非合法であるが、罰則はない)

 ただ、捕まるまでのタイムラグが長さは、店と女学生が損しないように配慮したのではないかと疑う。店は2万円払っている。回収しない内に引き揚げられては適わない。女学生も、売り飛ばした金の3割5割は手にしている。いろいろ使ってしまった後では、返せるものではない。そのあたりを警察は斟酌したのではないか。女学生は17といっても、新制高校3年である。限りなく18に近い。店の立場と本人の意向を見て、回収するまで黙認でもしたのではないか。

 警察と女郎屋は友のようなものだ。警察も、かの浅草象潟警察である、上は署長から下は巡査までいろいろ役得もあったはずだ。警察も店に世話になる。これは、個人の飲み食い女買いだけではない。なんといっても女郎屋はハエ取り紙のようなもの。罪を犯した者は三業地に吸い寄せられる。凶悪犯、常習犯を捕まえるなら女郎屋に登がる。警察と業者は持ちつ持たれつでもある。それが良い悪いではない。そういう時代であった。だから、警察も、店の意向を汲んで女学生を説得するくらいはあっただろうと睨んでいるのである。



※ 「東京はこわい所 -夏休みに見物にきた女学生を売り飛ばす」『朝日新聞』夕刊(朝日新聞,1955.8.27)p.7