村野瀬玲奈の秘書課広報室

　

政治や社会のあり方について、また、組織論について、いろいろな文脈で出てくる「職務命令」（あるいは「業務命令」）について。

「職務命令に従わないのはけしからん」というだけの、単純で一見正当にみえるけど実は粗雑で不完全な主張を解剖したまとめ記事を書いておいた方が後々便利だと思うので、まとめておきます。

今まで「職務命令」（あるいは「業務命令」）について触れたことのある記事はこちらあたり。

■「職務命令」
http://muranoserena.blog91.fc2.com/?q=%BF%A6%CC%B3%CC%BF%CE%E1

上のリンクにあるいくつかの記事で私としては各論を具体的にだいたい言い尽くしていると思いますが、論を次のように整理しましょう。

（１）職務命令とは何か、その実際
（２）職務命令とはどんな場合にも絶対的に服従するべきものか？
（３）それぞれの具体的職務命令の合理性
（４）職務命令と上位法との関係

一つ一つ整理してみます。

（１）職務命令とは何か、その実際

「職務命令」の一般的意味については、人によって大きな理解の違いはないはずです。
それが現実の中で具体的にどのようなものかを整理することで、「職務命令に従わない者は当然処罰すべきである」という単純な主張のずれっぷりを説明できると思います。

普通の職場では、何をしたらいいかわからない怠け者や最初から反抗的な者を上司が脅したりなだめすかしたりして働かせる、なんてことはないわけで、普通の職場の普通の労働者だったら、自分の職務が何かわかっていて、いちいち「命令」されなくても自分の仕事をすることができるものです。経理課長が課員に「伝票の処理をしろキイキイ」、「この欄に支出項目を書けキイキイ」、「この欄に毎月の合計を書けキイキイ」と毎日一つ一つ「命令」し指示しないと仕事が進まないわけではないです。

命令、あるいは指示が必要な場合を想像してみましたが、それはたとえば工場の製造ラインで、決まった手順で機械を操作することなどを想定できるでしょうか。しかし、その命令あるいは指示は、生産技術部あたりが「合理的に」作った製造機械の「合理的な」操作手順、作業手順なのですから、作業員はそれに「従わない」余地はない...というよりも、作業員はそれに従うことが機械が正常に製品を作っていくための合理的な行動である...というよりも、製造技術部と作業員が「それが合理的手順である」と合意して仕事が合理的にすすむ、というべきです。

そうです。そもそも、仕事とは、上司、部下、関連部署が協議して、「合理的な内容で」「合意」してすすめられるべきものであり、「合意できない」「不合理な」内容を一方的に強制するものではない、ということです。

これが普通の職場の実際です。

（２）職務命令とはどんな場合にも絶対的に服従するべきものか？

では、上の考えに基づくと、職務命令が適切なものとなるために満たすべき条件があるということになります。それは、その職務命令が「合理的」であること、その職務命令への「関係者、特に、指示を受ける者の合意がはっきりと、あるいは暗黙のうちにできていること」です。

また、そのほかに、「法令に違反しない」ことなども当然職務命令が満たすべき条件ということになるでしょう。

そう考えてくると、絶対に服従する必要のない職務命令の例をいろいろ想定することができます。
「クビになりたくなかったら毎日一日18時間働け。これは職務命令だ。これに従えないならクビだ」
「この不正なインサイダー取引がばれないようにおまえの責任で上手に処理せよ。これは職務命令だ。これに従えないならクビだ」
「うちの社長はxxx教の熱狂的な信者だから、社員一丸となって気合いを入れて仕事をするために教団の導師の写真に向かってその教団歌を始業前に社員全員で毎日歌え。これは職務命令だ。これに従えないならクビだ」
などなど。

これらの命令は、「合理的でない」、「合意がない」、「法令に違反する」という理由で、服従する必要はないと考えられます。

（３）それぞれの具体的職務命令の合理性

上ですでに「合理性」について、工場の製造機械の操作という例を出して説明しました。機械の操作手順とはすでに合理的に組み立てられていて、別のやり方をとる余地、あるいはその手順に従わない合理性はほとんどないと考えられます。製造機械の操作担当者がそれ以上に効率的な製造機械や操作手順を構想することができればそのかぎりではないでしょうけど、そのようなことはまああまりないでしょう。

別の例として、会社の営業職の場合を考えてみましょう。営業の仕事は自社の製品を売ることです。そこには合意があります。しかし、その方法には合意があるとは限りません。上司が「こういうやり方で営業してみろ」と「命令」したとしても、それがベストの方法かどうかはわかりません。部下のアイデアの方がすぐれているかもしれません。上司は「私は経験豊富なのだから私の言うことを聞け」と言うことはできるでしょうし、実際上司の言うことに従えばよい場合も多いでしょうけど、いろいろなやり方がある以上、絶対に上司の命令に従わなければならない、ということにはならないと考えられます。

さらに別の例として、学校の場での国旗国歌強制問題があげられます。このブログでもいろいろな角度から十分に論じてきたテーマです。国家（あるいはその下部に位置する文部科学省、地方自治体首長、教育委員会、校長、...）が教育の場で教員や生徒に国旗国歌への恭順を要求することは職務命令として合理的なのでしょうか。

民主社会における教育の場ですから、そこでの行動、職務、職務命令は教育行為として適切なものでなければなりません。あるいは、教育学的に適切なものでなければなりません。人間を育てるという営みの深さを思いながら、教育の目的とは何か、その目的を実現するための教育的方策は何かなど、過去の教育の経験の蓄積と多くの思慮が必要です。

教育思想史をひもとけば、実際、いろいろな教育観があります。そこを一つ一つあげていくときりがありませんので、この件について私が十分に合理的であり教育的であると考える教育観にもとづいて結論を書いてしまいます。

「力による国旗国歌の強制には教育的に合理的な意味はない。『愛国心』教育としても合理性を欠いている。むしろ集団圧力の力学による排外主義や権力の濫用の姿勢をあおるなどの害があると考えられる。さらには、他国への尊重は自国の国旗国歌への恭順の強制で教えることはできない。国旗国歌の意味は、国旗国歌をめぐるさまざまなことを自由にそれぞれの生徒が学び、思想信条の自由という観点からもそれぞれの判断に任せるべきである。それは、命令に従うことを超えた自分の判断力を育てることにもなる。」

力による国旗国歌の強制を正当化するなら、民主社会の中での教育として合理的な意味付けをしてもらわないといけないのですが、そのような合理的な意味づけを国旗国歌強制論者から聞いたことがないというのが私の実感です。

合理性がない以上、国旗国歌の強制という「職務命令」に絶対に従わなければならないとは全く思えない、というのが結論です。

（４）職務命令と上位法との関係

すでに上でも実例をいくつか出していますが、「職務命令」と言いさえすればなんでも通るわけではありません。法体系上、上位法に違反する下位法は無効ですし、上位法に違反する「職務命令」は正当化されません。法体系上当たり前の常識なので、無視しないでいただきたいです。

（５）補足

この「職務命令」の合理性は、この「職務命令」に従うという処世術とは別の問題です。「職務命令」に従うという処世術があるとして、それが「職務命令」を合理的にするわけではありません。

以上です。

...もっと詳しく書くこともできるでしょうし、また書き足すかもしれませんけど、長くなるばかりなのでここで一段落させます。でも、「職務命令は絶対ではない」という理由を整理する枠組みとしてはこれで十分だと思います。

読み足りない方は次のリンク先から関連記事をたどってください。また、意見のある方は特に、必ず次の関連記事を全部読んで理解したうえでお願いします。

管理人から：　国旗国歌問題についての記事は、それが教育の場面での問題でもあるので、サイドカラムのカテゴリー分類では、「歴史問題、国家主義、「愛国心（国家意識）」」と、「教育問題」の両方に入っています。当秘書課広報室への意見としてコメントやトラックバックを私に届けたい方は、私の過去の記事もお読みの上、それを踏まえてお願いいたします。

築地市場の豊洲移転に反対して食の安全を守りたい。
●Like a rolling bean (new) 出来事録
■2009-10-08　都はすでに4地点の土壌サンプルを廃棄したと答弁！（豊洲新市場コアサンプル訴訟第1回公判）
http://ameblo.jp/garbanzo04/entry-10359665529.html

■2009-10-23　地方分権悪用のイノセ都副知事らの勧告（大臣が認めなくても勝手に自治体が築地官製地上げ）
http://ameblo.jp/garbanzo04/entry-10371112352.html

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そこに存在する美しい人生と生命と生活を守る切実な要望を民主党に聞かせるために、アブナイ日本が壊れる前にとりあえず何かしたいけどどうしたらいいかkimeraれない人の役に少しでもたちたくて、とりにくの革命鍋をイル・サンジェルマンの散歩道の午後のカフェでみんななかよくつついた後で、フランス語の練習帳や「ユニオン」と「労働ニュース」のアーカイブや世界の片隅で税制についてのニュースを読んで、消費税と社会保障と国家予算についての『知られざる真実』を大脇道場と言ノ葉工房とスーパー小論文ハイスクールとアジア連帯講座で1947年教育基本法の理念に賛同してカナダの日本語の先生から学んだ後で、労働組合ってなにするところだろうとか、どうしたら戸倉多香子さんや保坂展人さんのためにスクラムを組んで多文化・多民族・多国籍社会で「人として」情報流通を促進できるかとか、転がるひよこ豆のようにクリームの曲を聞きながら雪裏の梅花を眺めて生活の中で感じた疑問や思いをあれこれめぐらせる、一寸の虫にも五分の魂で国会議員定数削減・比例削減に反対するサイバー政治団体秘書のおしごと日誌。
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■テレビ報道番組のご意見窓口リスト（「わんばらんす」さんからの転載）
http://muranoserena.blog91.fc2.com/blog-entry-50.html
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