温品惇一(ぬくしな じゅんいち 放射線被ばくを学習する会・共同代表)さんが書かれた文書を、許可を得て転載します。
PDFはこちら。「20140915.pdf」をダウンロード
甲状腺がん・疑い104人は異常な多さ
福島の子ども約30万人の甲状腺をスクリーニング検査した結果、甲状腺がんあるいはその疑いが104人、平均年齢は17.1歳と発表されています(8月24日)。10万人あたり35人に達します。
福島原発の事故前、子どもの甲状腺がんは非常に少なく、15~19歳の子どもが甲状腺がんと診断されるのは1年間に10万人当たり0.5人でした(がんセンター統計1975年~2010年の平均)。
事故後の福島ではなぜこんなに増えているのでしょうか。
スクリーニング検査なので早めに見つけてしまい、数が多くなる「スクリーニング効果」なのでしょうか?
スクリーニング検査で発見されるようになっても、症状が出て病院で診断されるまでに時間がかかります。
甲状腺がんと診断されるまでに、長めにみて3年かかるとしても、スクリーニング検査で見つかるのは1年間に10万人当たり0.5×3=1.5人です。
福島の甲状腺がんはこの23倍に達しています。
しかも、福島で見つかっている甲状腺がんの直径は平均1.4センチ。1センチ未満の微小がんではないのです。
鈴木眞一・福島県立医大教授の学会発表によれば、見つかった甲状腺がん・疑いの少なくとも半分は手術が必要と判断されています(3頁参照)。
地域差も「スクリーニング効果」を否定している
上の地図は、福島県の甲状腺がんの発見割合を各地域別に示したものです。
10万人当たり20人台の地域から60人台の二本松市周辺まで、発見率はバラバラです(相馬市、新地町は人数が少ないのでゼロ)。
「スクリーニング効果」なら、発見率は同じはずです。
福島第一原発に近い二本松市周辺が、遠い会津地方の約2倍も甲状腺がんが多いことから、放射能の影響が疑われます。
放射能の拡散に県境はありません。
福島近県や関東のホットスポットなども甲状腺がん検診が必要です。
甲状腺被ばく線量算出の誤り
8.17政府広報で中川准教授は「福島では、(甲状腺の被ばく量は)最大でも約35ミリシーベルト未満といわれており」といますが、これは誤りです。
福島の子どもの甲状腺被ばくを調べたのは、1,080人の甲状腺放射線量スクリーニング検査(上の写真)が中心です。
この検査は簡単なスクリーニングなので、写真のように、空間線量を計るシンチレーション・サーベイメーターを使っています。
喉にメーターを当てて計っても、甲状腺の放射線だけを計るわけではなく、部屋の空間線量も一緒に計ります(下の図)。
喉にメーターを当てて計った時の放射線量から、部屋の空間線量を引き算すれば、甲状腺の放射線量(に近い値)が求められます。
ところが2011年3月当時に実際に行われたのは、部屋の空間線量の代わりに、放射能で汚染されていた衣服にメーターを当てて計った放射線量を引き算していたのです!
放射線の強さは距離の二乗に反比例するので、衣服についた放射能は喉を計るときにはほとんど影響 しません。
それなのに衣服を計った時の放射線量を差し引いてしまえば、甲状腺の放射線量を非常に小さく計算する結果になってしまいます。
上のグラフは、公開されている223人のデータを示しています。
赤棒は部屋の空間線量を引き算した場合で、甲状腺の線量は平均毎時0.02μSvです。
衣服の測定値を引き算した青棒では、平均毎時0.00μSvになってしまいます。
これでは大変な過小評価になります。
この過小評価したデータを元に甲状腺被ばく線量を計算し、「最大でも35ミリシーベルト未満」などと言っているのです。
「100ミリシーベルト以下の被ばく量ではがんの増加は確認されていないことから、甲状腺がんは増えないと考えられます」(8.17政府広報)というのも誤りです。
2012年1月12日の原子力安全委員会の部会資料に、甲状腺がんの発生に「しきい値はない」ことが示されています。
とんでもない「過剰診断」論
福島県民健康(管理)調査は「原発事故に係る県民の不安の解消、長期にわたる県民の健康管理による安全・安心の確保」のために始められました(第2回県民健康調査検討委員会の結果)。
当初は「子どもの甲状腺がんは100万人に一人」だから甲状腺がんは増えないことを検査で実証すれば安心すると考えていたのでしょう。
ところが検査してみると、年々甲状腺がんが多発、ついに104人に達してしまいました。
慌てて開始されたのが「過剰診断」キャンペーンです。
いかにも現在の甲状腺検査が無駄で有害な検査であるかのごとく主張していますが、根拠はまったくありません。
そもそもあれだけの大事故で大量の放射能が飛散し、33万人以上(2011.12)が避難する事態になったのですから、放射能の影響を十二分に検査するのは当然のことです。
「過剰診療」は問題ですが、「過剰検査」などと称して検査自体をやめさせようとするのは、実にひどい話です。
日本の医学界・厚労省は「早期発見・早期治療」と称してがん検診を推進してきました。
それが福島県のことになると突然、掌を返して「がん検診にも不利益がある」などと言い出すのは、一体どういうことでしょうか?
甲状腺の異常が見つからなかった人でも、死後に解剖してみると1 センチ以下の甲状腺微小がんが見つかります。
大人の甲状腺微小がんは成長が遅いので手術しないで経過観察することが認められています。
ところが、子どもの甲状腺がんは進行が早く、「成人の場合よりも診断時に既に進行している例が多い。
肺転移の割合も成人1~2%に対し,小児では6~33%と高くなる(「術後に低用量の治療を行っている5歳女児肺転移合併甲状腺癌の1症例」長井美樹、日本甲状腺学会雑誌 3巻 46頁(2012))」とされています。
福島の子どもたちの甲状腺がん手術の大部分を担当した福島県立医大の鈴木眞一教授は、54例中52例は手術が必要なケースだったと発表しています(下の囲み参照)。
福島県立医大の手術 54例 (8.27 鈴木眞一教授 日本癌治療学会発表) 45人は診断基準では手術するレベル 腫瘍の大きさが10ミリ超 あるいは、 リンパ節や他の臓器への転移など、あり 2人が肺にがんが転移 9人は腫瘍が10ミリ以下で転移などなし 7人:「腫瘍が気管に近接しているなど、手術は妥当だった」。 2人:経過観察でもよいと判断されたが、本人や家族の意向で手術 9割は甲状腺の半分だけ摘出 (8.28日経新聞による) |
進行の早い子どもの甲状腺がんを、進行の遅い大人の甲状腺微小がんと一緒くたにするなど、とんでもないことです!
「福
島では小児甲状腺がん患者が80名ほど出ているという報道がありますが大規模な検査をすることで発見が増えるのは当然です。韓国では、最近乳がん検診と一
緒に甲状腺のエコー検査をするようになったことで、甲状腺がんの発見が激増しています」(中川准教授・817政府広報より)。 |
よくまぁ、こんないい加減なことを!
10万人当たり35人という発見率の異常な高さが問題になっているのです。
大規模に検査しても、率はほとんど変わらないはずです。
韓国で甲状腺がん発見が増えたのは、大人の女性の話です。
それがどうしたんでしょう?
あたかも福島の子どもの甲状腺がんにも通用するような、いい加減な話に税金を使わないでください。
4.5ミリシーベルト被ばくでがんが増える
上のグラフはオーストラリアの20歳未満の子どもへの、CTスキャンによる発がん影響を調べたものです。
CTの回数が増えると、CTを受けていない子に比べて発がん率が増えています。
1回のCTで平均4.5mSv被ばくし、発がん率が16%増えることが明らかになりました。
この研究ではCTを受けたことのない子ども約1,100万人とCTを受けた68万人もの子どもを比較しているので、被ばく影響がはっきり分かります。
平均63.2歳の急性心筋梗塞患者8万人余りについて調べたカナダの研究では、10mSvの医療被ばくで発がん率が3%増えると報告されています。
子どもは放射線感受性が高いことを示しているように思われます。
100mSv以下の被ばくで発がん率が増加することを明らかにした論文は、この他にも多数あります。
被ばくでがん以外の病気も増える
移住など健康対策を強化すべきです
4.5mSvで子どものがんが16%増えるという時の4.5mSvは、年間4.5mSvではなく、累積4.5mSvです。
福島の子どもたちは日々被ばくしています。
しかも、被ばくの影響はがんだけではありません。
広島・長崎の被爆者調査で、被ばくにより高血圧、心疾患、脳卒中、呼吸器疾患、消化器疾患、子宮筋腫、甲状腺疾患、慢性肝疾患、白内障などが増えることが知られています。
今からでも、早急に移住など健康対策を強化すべきです。少なくとも希望者が移住できるよう、援助する態勢を作るべきです。
8.17政府広報で中川准教授は「東京と同じようにチェルノブイリにも心臓病の方はいますが、福島やチェルノブイリだと放射線によるものだと誤解されてしまうのです」などと話しています。
放射線科の准教授なのに、被ばくによって心臓病が増えるという認識もないのでしょうか。
中川准教授は「わずかな被ばくを恐れることで、運動不足などにより、生活習慣が悪化し、かえって発がんリスクが高まるようなことは避けなければなりません」とも言い、外に出て被ばくするよう推奨しています。
8.17政府広報の誤りを認め、被ばく防止策をとるべきです
「国際的にも100ミリシーベルト以下の被ばく量では、がんの増加は確認されていない」という中川恵一・東大教授の話が、8.17政府広報の根本的な誤りを端的に表しています。
子どものがんはわずか4.5mSvの被ばくで16%も増えるのです。
政府は6,000万円とも噂される税金を使って、こんな誤った主張を広報し、住民の警戒心を解除しようとしています。
汚染地域に住民を帰還させ、原発再稼働に協力しようと政府広報を発行した復興庁、内閣官房、外務省、環境省、そして中川恵一・東大教授は、誤りを認め、被ばく防止策に全力で取り組むべきです。
(アース)
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