普段でも“霞が関不夜城”と呼ばれるブラックな本省庁の職場。公務員削減が続くなか、新型コロナウイルスへの諸対応も加わって、霞が関の国家公務員の「働き方」はいっそう過酷なものになっています。
いま上記にあるように、霞が関公務員相談ダイヤルに取り組んでいますが、「コロナではないが肺炎との診断が出て休もうとしたが、上司から『コロナ対応で人手が足らず業務が回らないから肺炎だろうが仕事しろ』と言われ肺炎でも休むことができない」との悲痛な相談や、「コロナ対応業務を2交代制で行っているが、夜から朝まで働いた日に、上司から『昨夜から朝まで働いたのだから昼間は休んでいいが、自分の有給休暇を取って休んでくれ』と言われた」、「コロナ対応の非常時だからと2日連続で徹夜仕事を強制された。このままでは過労死してしまう」との声が寄せられるなど、コロナ対応という“非常事態”だから国家公務員をいくら酷使しても許されると言わんばかりのブラックな「働かせ方」が蔓延しています。
通常時においても、霞が関で働く国家公務員の30%(1万200人)が過労死の危険を感じ、パワハラ被害は34%(1万1500人)、セクハラ被害は21%(7100人)にのぼっています。
こうした状況が悪化し続けていますから、最近、メディアにおいても国家公務員の長時間労働を改善すべきではないかと指摘する記事が増えています。
国家公務員、志望者が11%減 19年度試験、民間人気で(共同通信2019年5月15日)
「人事院は15日、2019年度の国家公務員採用試験で、一般職(大卒程度)の申込者が前年度比11.0%減の2万9893人だったと発表した。3年連続のマイナス。好調な企業業績を背景に民間の人気が高く、担当者は「人材が奪われている」と語った。3万人を下回ったのは、現行の試験区分となった12年度以降で初めて。中央省庁の幹部候補で、キャリア官僚と呼ばれる総合職の申込者も減少が続いている。」
転職希望の公務員が急増 外資やITへ流れる20代(日本経済新聞2020年3月14日)
「公務員の人材流出が増えている。大手転職サイトへの公務員の登録数は最高水準にあり、国家公務員の離職者は3年連続で増加した。特に外資系やIT(情報技術)企業に転じる20代が目立つ。中央省庁では国会対応に伴う長時間労働などで、若手を中心に働く意欲が減退している。若手の「公務員離れ」が加速すれば、将来の行政機能の低下を招く恐れがある。」「慶応大大学院の岩本隆特任教授の調べによると、霞が関で働く国家公務員の残業時間は月平均100時間と民間の14.6時間の約7倍。精神疾患による休業者の比率も3倍高かった。若手を中心に国会対応で長時間拘束されることや、電話対応などの雑務に時間を割かれることが長時間労働の原因となっている。」
マツコ、公務員の長時間労働に危機感 「人様のことやる前に、まずあんたたちのこと見直したら?」(キャリコネニュース2020年03月17日)
「霞が関なんて、けっこう近く通るけどさ、まあ、ずっと電気ついてるよ」「昔はさ、第一種のエリートと呼ばれる人なんてさ、ほとんど東大法学部みたいな人が固めてたわけよ。でもいまそれだけだと来ないんだって。だから、大変なお仕事なわけよ」「若い人たちは本っ当に大変な仕事をしてるわけなのよ、みんな。だからもうちょっとケアしてあげないと。最初の希望する人が増えるように労働環境を改善しないと」「『働き方改革』の旗振り役の省庁において過重労働が蔓延しているという恐ろしい事態になっている」
「東大生のキャリア職離れ」国家公務員試験戦線に異常あり!(Wedge REPORT2020年2月6日)
「中央官庁のキャリア職を目指す国家公務員総合職試験の志願者数が減少傾向の中で、これまで国家公務員志向の強かった東京大学卒業生の合格者数が激減、大学別では首位を維持してはいるものの、東大生の「キャリア職離れ」が浮き彫りになっている。」「人事院が明らかにしたところによると、2019年度試験の東大生(大学院生も含む)の合格者数は、全体の1798人中で307人で、東大の比率は17.0%と過去最低のレベルだ。」
上記の志望者が減少しているという共同通信の指摘ですが、数字を拾ってグラフを作ってみました。
グラフにあるように、国家公務員の志望者はこの8年で一般職は36%減(1万6557人減)、総合職は27%減(7359人減)。現行試験制度になって一般職が3万人を下回るのは初めてで、最低の志望者数になってしまっています。
この上に、いま新型コロナウイルスへの諸対応が加わって、以下のような声が寄せられています。
コロナ対応で“非常事態”だからと大臣やキャリア官僚がテンパって“エリートパニック”のような状況になっている。大臣レクを休日に設定して多くの職員を休日出勤させるなど「働き方改革」に大臣自らが逆行していて、現場の職員は疲弊している。
「一斉休校」など官邸トップダウンがひどい。各現場の事務方に一切相談なく突如として官邸トップダウンの政策が降ってわいてくるので、上意下達のパワハラ職場に拍車がかかっている。キャリア官僚の一部にパワハラで有名だった佐川宣寿氏のように、もともと“クラッシャー上司”は存在していたが、コロナ対応という“非常事態にかこつけて”というのと、“政治主導”という名の官邸トップダウンと内閣人事局による人事権も使っての有無を言わせぬパワハラの横行が、最も弱い立場に置かれている現場の若手職員のメンタルを痛めつけている。
「帰国者対応」や「クルーズ船対応」など新型コロナウイルス対応に専門的な訓練や備えがない職員も非常時だからと業務にあたっている。通常時もギリギリの人員だったのでパンク寸前だ。公務員を減らし過ぎだと痛感している。
通常の国会対応でも深夜残業だったが新型コロナウイルス対応が加わり職場は野戦病院のようだ。このままでは多くの職員が倒れてしまう。
新型コロナウイルス対応の業務で職場に泊まり込むことがさらに多くなった。政治家からカップ麺の差し入れがあったが、カップ麺より職員を増やしてもらいたい。
「カップ麺より職員を増やしてもらいたい」――霞が関で働く国家公務員の悲痛な叫びです。最後にいくつかデータを紹介しておきます。
日本の公務員数を国際比較すると、OECD加盟国の中で最低です。ノルウェーのわずか5分の1、OECD平均の3分の1しか公務員がいません。北欧の福祉国家は多くの公務員に支えられているのです。日本は福祉国家と対極にあるOECDで最悪の「自己責任国家」です。
人件費で見ても日本の公務員はOECDで最低で、逆に財政赤字は最高です。よく政治家が「公務員人件費が高いから財政赤字が拡大する」などと言いますが、デンマークやノルウェーなど公務員人件費が最も高い国の方が財政赤字が最も低いことを見てもデタラメな主張であることがわかります。
国・地方の財政支出に対する公務員人件費の割合を見ても、日本はOECDで最低で、アメリカの半分しかありません。
現時点で、国家公務員の常勤職員・非常勤職員にはコロナにかかわっての特別休暇(有給)が私たち労働組合の要求によってできましたが、コロナにかかわらなければ、非常勤職員には病休(有給)は存在しません。コロナ対応、労働安全衛生の所管である厚生労働省の職員の53%が「病気で休むと無給になる非常勤職員」という異常な事態にあります。
国家公務員の中で最も過酷な「働き方」になっているのが、コロナ対応の所管であり「働き方改革」を担う厚生労働省。過労死の危険を感じたことがある割合が62%、残業代の不払いがある割合が78%。「働き方改革」が最も必要なのが厚生労働省の職場になってしまっているのです。
(井上伸)