以前の記事でも少し触れたバンダイ製の仮面ライダーキングサイズ人形。
36cmほどの大きさでたいへん丁寧に造形されています。
仮面ライダーはスーツやベルトがリアルに表現されていますが、頭部だけはなぜか原作漫画の形状になっていて違和感があります。
キングサイズの台紙には試作品らしき人形が掲載されており、そちらは実写映像通りの頭部です。
比較してみると頭部以外のパーツは製品版と同じに見えるので、頭部だけをわざわざ原作版に改修したようです。
キングサイズのライダーはその後マスクの取れる仕様に変更され、その際頭部が新造されていますが、そちらもやはり原作版の顔になっています(画像はバンダイのカタログより)。
バンダイは意識的に原作頭部を選択しているようです。
両者を比較してみます。
現在では想像しにくいことですが、本放送当時は一部の大人の目には仮面ライダーは正義の味方にあるまじきグロテスクなものと映ったそうです。
それまでの子供向けヒーローはアニメならアトムや鉄人28号、実写なら月光仮面やウルトラマンに代表されると思いますが、それらには子供の受け入れやすいシンプルさや美しさがあります。
一方キバや複眼をもつ仮面ライダーの顔は、子供にはメカニックでかっこいいものに見えましたが、当時の大人にとっては「子供向けヒーロー」に抱く既成概念を覆す革新的なデザインだったようです。
石森章太郎は翌年の「人造人間キカイダー」において、大人にさらに大きな拒否反応を、子供には見たこともない斬新なヒーロー像を提供することになります。
バンダイが原作版の頭部にこだわったのは、グロテスクさを弱めるための選択だったのかもしれません。
ただしスタンダードサイズのライダーは実写版の頭部だし、ライダーよりはるかにグロテスクな怪人たちをたくさん発売しているのですから、本当のところは不明です。
ソフト人形に限らず、仮面ライダーの本放送当時は原作版と実写版の「ふたりのライダー」がさまざまな分野で混在していました。
当時の子供が双方を違和感無く同時に受け入れていたのは、あらためて考えるとちょっと不思議な現象だったかもしれません。
主役交代による2号の登場であらたな「ふたりのライダー」が生まれると、ライダーのビジュアルは原作・実写、1号・2号が入り乱れてますます重層化していきます。
商品開発担当の大人には1号・2号の区別がついていないことも混乱の一因でした。
そうした状態は1971年末まで続きましたが、翌72年の年頭にダブルライダーの競演が実現すると徐々に情報の共有化が進んで整理されていきます。
72年4月の新1号登場の頃には、前年のような混乱はほとんどなくなっていました。
1971年度の仮面ライダーを取り巻く状況は、混沌と熱気に包まれた独特なものだったと感じます。