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歌舞伎座「七月大歌舞伎」千穐楽、昼の部
先週の日曜は、歌舞伎座「七月大歌舞伎」昼の部。 この日が千穐楽。

最初の演目は、新歌舞伎十八番「高時」。これは初見。九世団十郎が作った活歴物。 「新歌舞伎十八番」と銘打って公演する場合には成田屋宗家の許可がいるのだそうである。

右團次は生締め白塗りの二枚目はあまり似合わないが、権勢を誇る悪辣な執権職というのは似合うなあ(笑) 天狗の舞もなかなか面白い。愛妾衣笠は児太郎。児太郎は今月の歌舞伎座、昼夜全ての演目に出演したのだとか。凄いね。

次の演目、「西郷と豚姫」も初見。しかし、NHK大河「西郷どん」では、ハリセンボン春菜が演じていた役が、この歌舞伎の「豚姫」なんだそうで、なんだか懐かしい気がする。しかし「豚姫」て(笑) 吉之助時代の西郷どんは錦之助。 豚姫が獅童というのが珍しい。西郷どんも、名君と呼ばれた先代の後を継いだ藩主との仲が悪く、何度も失脚したが、好いてくれる豚姫と一緒に死のうという場面がちょっとしんみりと。しかし、最後のどんでん返しがあまりにも安易で、作劇的には、あれではあまりカタルシスが無いかな。

ここで30分の幕間。花篭食堂で海鮮重。この日の昼は食堂はガラガラ。

次の演目は、これまた新歌舞伎十八番の内「素襖落」。

狂言で見ると単純に太朗冠者のトンマぶりが単純に面白いのだが、歌舞伎版は使い先舞を所望されて一指し舞うなどという場面で「那須与一」等の舞踊が入れ事になっており、その分が、考えようによれば冗長で喜劇味が薄い。九世團十郎や七世幸四郎にしてみると「馬鹿なだけの太郎冠者では俺の見せ場が無い」という事だったのかもしれないが、太郎冠者は元々そんな役だからなあ(笑) まあ関係ないが、海老蔵の眼力に比べると獅童は目が細いねえ。

昼の部は、この後息子が出る「外郎売」に出演。夜の部は出ずっぱりで13役早替りという大変な公演なので、「素襖落」に出る必要なかったと思うが、親父から習った大事な演目なのだそうである。太郎冠者はしかし、腰を据えた狂言風の動きでずっと舞台を歩きっぱなしだから、体力的にも大変だ。

そして25分の幕間を挟んで、最後の演目。海老蔵の息子、堀越勸玄が、外郎売りに扮して、呪文のような売り台詞を言い立てる演目。これこそが今回の昼の部の目玉。

曾我狂言おなじみの工藤との対面の場を背景に、外郎売、実は曽我五郎である海老蔵がやってくる。その後ろには貴甘坊に扮した堀越勸玄。海老蔵も子供の頃に演じた役で、場内は大きな拍手。大向こうの鶏爺さんが今日は居て、所々で蚊の鳴くような声を上げていた。

歌舞伎の様式美に満ちた華やかな舞台。堀越勸玄の貴甘坊が立派に呪文のような長台詞を言い立てて、満員の観客から注目を一身に。6歳にして歌舞伎座で観客の衆目を一身に集め、万雷の拍手を貰うなど、歌舞伎の名家に生まれなければ到底不可能。

しかし、もちろん良い事もあるが、今後は決して楽しい事ばかりでもなかろう。父親の海老蔵と同様、思春期になったら、悪い友達も寄って来るし、悪い女も寄って来るぞ(笑) 「俺は頼んで歌舞伎の家に生まれた訳ではない」と親父とぶつかる場面も目に浮かぶようだ(笑)しかし成田屋の嫡男に生まれたのも、変更の効かない運命。将来の幸運を心から祈る。