2013-09-27
【ドイツ】メルケル保守与党勝利も連立組み替え必至
22日、ドイツで連邦議会(下院)総選挙(最少定数598だが不定に増加、5%阻止条項つき小選挙区併用型比例代表制)が行われ、メルケル首相の率いるキリスト教民主同盟(CDU)および、そのバイエルン州における姉妹政党であるキリスト教社会同盟(CSU)が過半数に迫る大勝利を飾った。ドイツ社会民主党(SPD、社会主義インター加盟政党。進歩同盟の本部でもある)は大きく引き離された。しかしメルケル政権を与党第2党として支えてきた中道右派リベラルの自由民主党(FDP)は戦後初めて5%を割り込み全議席を喪失、これによりメルケル与党はCDU/CSUの圧勝にもかかわらず過半数を失い、連立の組み替えが必至となった。なお他党では左翼党(LINKE)が旧東独部を中心に一部旧西独部にも支持を残して第3党を確保、これに1議席差で同盟90・緑の党(GRÜNE)が続いた。
キリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)は欧州経済および統一通貨ユーロ(ドイツ語では「オイロ」)を支える中枢として緊縮財政策を進めるメルケル政権の最大与党であったことから、高い評価を得た。この背景には「自分たちの税金を放漫財政の南欧諸国につぎ込むのは許せない」とする、財政保守主義・新自由主義的なドイツ有権者の意識があった(後述するがこの世論は新党・ドイツのための選択肢(AfD)の躍進の原動力となった)。当然ながらこの考えは南欧諸国の感情的反発を生み、特にユーロ危機の震源国ギリシャではメルケル首相を「緊縮の女王」と報じるメディアまであったほどで「傲慢で強硬なドイツ」の象徴として扱われた。しかしながらドイツ国内では緑の党が得意としてきた脱原発政策の取り込みに「フクシマ」以降は転換したことなどもあわせて、高いメルケル人気に結びつけることに成功した。特に小選挙区では各州で圧勝、CSUの地盤である南部バイエルン州をはじめ、小選挙区を独占する州が続出した。
いっぽう社会民主党(SPD)は、首相候補としたシュタインブリュック前財務相(ルール工業地帯を抱えるドイツで第1位の大州、ノルトライン=ヴェストファーレン州の元州首相)が率直すぎるゆえの失言癖などでメルケル首相に首相としての個人的好感度において大差をつけられたほか、前々回の総選挙結果からCDU/CSUとSPDによるメルケル第1期政権(大連立政権)を組んだことにより党の政策的・イメージ的独自性を失い、前回総選挙で一転して大敗した苦い経験から今回はメルケル首相の姿勢や政策を徹底的に批判。シュタインブリュック前財務相も第1次メルケル政権での財政当事者として「南欧を助けることは(各国の経済を再建させ)ドイツを助けることになる」と「情けは人のためならず」的な主張を大々的に展開しメルケル政権に批判的な有権者の票を集めることで緑の党との連立再樹立を狙い、前回より得票(およびFDPの喪失分も含めた議席)をかなり回復させることには成功したものの、それでもCDU/CSUの勢いには遠く及ばなかった。ガブリエル党首の責任を問う声もあがっている(ドイツの政党・選挙では党首と首相候補は別であることが多い)。
緑の党は一時「フクシマ」後の脱原発の勢いによって支持を急伸させ、「フクシマ」直後に行われた一昨年のバーデン=ヴュルテンベルク州議会議員選挙では第2党となる大勝利をあげて第3党となったSPDとの連立により同党初の州首相となるクレッチュマン州首相を実現した勢いを持ち込むかにみられた。しかし躍進によって党内の原則派が勢いを増し「週に1日、食堂に肉のない日をつくる」などの動物保護・肉食忌避による菜食主義的な主張を展開。これはハム・ソーセージに代表される肉食文化の根強いドイツ(菜食主義への反発はもちろん、一生のうちで1度も魚を食べないドイツ人も多いとされる)では無謀な主張となり、さらに30年前の党草創期に一部の支部が小児性愛を認めるかのような主張を掲げていたことも発覚し児童虐待容認として大スキャンダルに発展、支持の急減を招いた。加えてメルケル首相が脱原発に舵を切ったことでこの分野での政策の独自性も失い、結果としては一時の大躍進の予想にもかかわらず変わった政策ばかりクローズアップされて減票、左翼党にも抜かれて第4党にとどまった。
民主社会党(PDS、旧東独共産党が源流)とラフォンテーヌ元財務相(元ザールラント州首相)ら社民党左派離党組が合流した左翼党も前回総選挙では旧東独部で次々と小選挙区を制するなど全州で5%を突破した勢いを失い、ギジ議員団長を先頭に伝統的に強い旧東ベルリンの4小選挙区のみで勝利するなど後退した。これは前回の躍進の原動力となった、新自由主義への批判的な声を基礎とする反体制票が海賊党(後述)の新登場により分裂したこと、ラフォンテーヌの病気引退により旧西独部でのカリスマ的指導者を失ったことが大きい。しかし、その海賊党も勢いを失ったことで支持を部分的に取り戻し、緑の党が急後退したこともあって連邦議会第3党の位置に前進した。とはいえ前回より大きく得票を減らしているが、旧西独部のヘッセン州議会議員選挙(後述)では議席を維持するなど、退潮を食いとめる結果だったともいえる。
今回の連邦議会総選挙で最大の敗者となったのはこれまで与党第2党としてメルケル政権を支えてきた自由民主党(FDP)で、旧西独時代からの通算でも初めて5%阻止条項を割り込み、前回総選挙で大躍進し獲得した93議席をすべて失って一挙にゼロ議席となった。理由としては伝統的に中道右派リベラル政党として経済自由主義に基づく財政保守主義的な緊縮財政を主張してきた同党が、メルケル首相の財政保守主義に対する圧倒的な支持と緊縮財政派の新党・AfDの登場に支持基盤を直撃され挟み撃ちを受けたことや党内紛争の頻発、CDU/CSUとの政党間関係の悪化によりCDU支持者からの得票が減ったことなどが挙げられる。
逆に今回の総選挙で注目されたのがユーロ脱退・マルク復活による通貨発行権の回復など反南欧的・欧州懐疑主義的な(ただし「反EU」ではないとした)緊縮財政策を主張に掲げた経済右派新党・ドイツのための選択肢(AfD)の躍進だった。政党法が厳しく、総選挙直前に結成されるブーム的な新党が珍しいドイツでは異例の現象で、投票日直前には5%阻止条項突破の予測も流れた。最終的にはあと一歩及ばなかったが、FDPを5%割れに追い込んだことで存在感を見せつけた。しかし後述するとおり、メルケル首相にいずれかの積極財政寄りの政党との連立を強いたともいえ、同党の本来の主張とは反する結果となった以上はその責任も負い、評価が分かれるともいえる。
その他の政党では一時期、反著作権とインターネットの自由を掲げて反体制青年層の支持を受け各州議会議員選挙で5%を突破、議席を獲得してきた左派リバタリアン色をにじませる新党・海賊党(Piraten)が各州議会でシングルイシュー政党ゆえの政策的なまとまりの稚拙さを露呈したことで失速。憲法裁判所による政党解散判決の可能性もささやかれ注目された極右ネオナチ政党・国家民主党(NPD)は強い政治圧力の前に得票を微減。南ドイツを基盤とする自由な有権者(FW、無党派有権者とも訳せる。この団体は政党ではないが、実際にはCSUを離党した一匹狼的な女性政治家、パウリ氏の個人政党の色が強い)は1週間前のバイエルン州議会議員選挙で議席を獲得した勢いを他州に広げられず、「動物の権利・動物福祉」を前面に掲げて緑の党以上に急進的な菜食主義を掲げた人間環境動物福祉(MUT)は奇矯な主張を掲げる「過激な緑」として緑の党の頑迷さを際立たせるだけで終わり、緑の党草創期の党内右派が源流の中道環境政党・エコロジー民主党(ÖDP、ドイツの歴史的伝統に基づく環境政策を主張し必ずしも市民運動的な「新しい社会運動」を背景としないのが特徴)と右派ポピュリストの共和党(REP、かつて旧西独末期、欧州議会選で全国で5%を突破したことがあり「危険な極右」の象徴視された)は南ドイツの支持基盤から進出できなかった。
今回の結果を受けてメルケル首相はCDU/CSUの躍進にもかかわらず連立の組み替えを迫られるため、その行方が注目されるが、政策面で積極財政、南欧支援など野党色を濃厚にしてきたSPDは「大連立」政権の復活となる場合、さらに富裕層増税などの譲歩をメルケル首相に強く求める姿勢で、その政策的ハードルが高くなった場合は今度はメルケル首相が緑の党との「黒緑連立」の可能性も探るとみられている。しかしCDUと緑の党の「黒緑連立」は州レベルで実現されてきた経緯もあるが、両党とも与党経験があるとはいえイメージの違いから長期にわたる政権維持はされにくい。いっぽう左翼党は州レベルではSPDと連立した実績もあるが、NATO離脱など外交安全保障面で主張が非現実的なことから連邦レベルでの連立はまず無理で、SPDも緑の党も左翼党との連立よりCDU/CSUとの連立を優先させる姿勢。数字上はSPDと緑の党の「赤緑連立」を復活させた上で左翼党が閣外から支える「赤緑連立」樹立の可能性もあるが、旧西独部ではこれを州レベルで成立させた場合にSPDからの穏健・中道派有権者の大量離反を招いた経緯もあり、実現の可能性は乏しい。いずれにせよメルケル首相とCDU/CSUは「黒緑連立」を、またSPDは政策要求をそれぞれカード、あるいはブラフとして緊迫感のある連立交渉は確実で、その長期化を予想する声もある。
ドイツではワイマール共和国時代に安定政権を欠いた経験から憲法(基本法)のうえで総選挙後の新首相選出には連邦議会総議員の絶対過半数が必要と規定されており、CDU/CSUのみでの少数政権樹立の可能性はほぼ皆無。しかし、それでも政権が成立しない場合にのみ普段は名誉職の大統領に連邦議会解散権が生じるため、SPDが主導して選出されたガウク大統領の判断が注目されるが、今のところは各党間の協議を優先させ調停に乗り出す方向。また大連立なら左翼党が野党第1党になることを懸念する報道もある。
加えて日本ではほとんど報じられていないが、今回の連邦議会総選挙から憲法裁判所の判断により選挙制度改革が行われ、小選挙区で特定政党が圧勝して「超過議席」が生じた際には他党へも比例代表議席が上積みされる規定を採用、5%阻止条項以外はほぼ完全な比例代表制となった(これは日本で政治改革の議論がされた際に小林良彰・慶応大教授が提唱した「両立制」に近い)。これは同時に今後、当選する議員数が一定しないことも意味するが、ドイツではワイマール共和国時代に「バーデン式比例代表制」(得票の絶対数によって議席数を決める制度で、具体的には6万票あたり1議席だった。したがって人口や投票率の増減で総議席数も変動する)を採用した過去もあり、目新しい制度ではない。
なお同日に旧西独中部にありフランクフルトを抱えるヘッセン州の州議会議員選挙(定数110、5%阻止条項つき小選挙区併用型比例代表制)が行われ、CDU、SPD、緑の党に加え、左翼党とFDPもぎりぎり議席を獲得した。しかし、ここでもFDPが惨敗したことには変わらず、CDUとFDPによる中道右派連立の継続は難しくなり、連邦レベルと同様に連立の組み替えを迫られる。
連邦議会総選挙の結果は次のとおり(カッコ内は小選挙区獲得議席と前回比で、今回の当選者は630名。小選挙区併用型比例代表制のため小選挙区議席は全体の政党別勢力分野には影響しないが、各党の勢いは反映される)。
キリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)311(小選挙区235、+72)
・ドイツキリスト教民主同盟(CDU)255(小選挙区190、+61)
・バイエルンキリスト教社会同盟(CSU)56(小選挙区45、+11)
ドイツ社会民主党(SPD)192(小選挙区59、+46)
左翼党(LINKE)64(小選挙区4、-12)
同盟90・緑の党(GRÜNE)63(小選挙区1、-5)
ヘッセン州議会選挙の結果は次のとおり(カッコ内は前回比。なお前回は定数118で、8減)。
キリスト教民主同盟(CDU)47(+1)
社会民主党(SPD)37(+8)
同盟90・緑の党(GRÜNE)14(-3)
左翼党(LINKE)6(±0)
自由民主党(FDP)6(-14)
投票率は連邦議会が71.5%、ヘッセン州議会が同日選となったことで大幅に伸び73%を上回った。また、これまでも移民出身の政治家を輩出してきたドイツではあるが、初めて黒人の連邦議会議員が2名誕生したことも話題となった。
ドイツ社会民主党 公式サイト(ドイツ語)
http://www.spd.de/
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さまざまな技術上のトラブルが多発し、執筆が大きく遅れましたことをお詫びします。
キリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)は欧州経済および統一通貨ユーロ(ドイツ語では「オイロ」)を支える中枢として緊縮財政策を進めるメルケル政権の最大与党であったことから、高い評価を得た。この背景には「自分たちの税金を放漫財政の南欧諸国につぎ込むのは許せない」とする、財政保守主義・新自由主義的なドイツ有権者の意識があった(後述するがこの世論は新党・ドイツのための選択肢(AfD)の躍進の原動力となった)。当然ながらこの考えは南欧諸国の感情的反発を生み、特にユーロ危機の震源国ギリシャではメルケル首相を「緊縮の女王」と報じるメディアまであったほどで「傲慢で強硬なドイツ」の象徴として扱われた。しかしながらドイツ国内では緑の党が得意としてきた脱原発政策の取り込みに「フクシマ」以降は転換したことなどもあわせて、高いメルケル人気に結びつけることに成功した。特に小選挙区では各州で圧勝、CSUの地盤である南部バイエルン州をはじめ、小選挙区を独占する州が続出した。
いっぽう社会民主党(SPD)は、首相候補としたシュタインブリュック前財務相(ルール工業地帯を抱えるドイツで第1位の大州、ノルトライン=ヴェストファーレン州の元州首相)が率直すぎるゆえの失言癖などでメルケル首相に首相としての個人的好感度において大差をつけられたほか、前々回の総選挙結果からCDU/CSUとSPDによるメルケル第1期政権(大連立政権)を組んだことにより党の政策的・イメージ的独自性を失い、前回総選挙で一転して大敗した苦い経験から今回はメルケル首相の姿勢や政策を徹底的に批判。シュタインブリュック前財務相も第1次メルケル政権での財政当事者として「南欧を助けることは(各国の経済を再建させ)ドイツを助けることになる」と「情けは人のためならず」的な主張を大々的に展開しメルケル政権に批判的な有権者の票を集めることで緑の党との連立再樹立を狙い、前回より得票(およびFDPの喪失分も含めた議席)をかなり回復させることには成功したものの、それでもCDU/CSUの勢いには遠く及ばなかった。ガブリエル党首の責任を問う声もあがっている(ドイツの政党・選挙では党首と首相候補は別であることが多い)。
緑の党は一時「フクシマ」後の脱原発の勢いによって支持を急伸させ、「フクシマ」直後に行われた一昨年のバーデン=ヴュルテンベルク州議会議員選挙では第2党となる大勝利をあげて第3党となったSPDとの連立により同党初の州首相となるクレッチュマン州首相を実現した勢いを持ち込むかにみられた。しかし躍進によって党内の原則派が勢いを増し「週に1日、食堂に肉のない日をつくる」などの動物保護・肉食忌避による菜食主義的な主張を展開。これはハム・ソーセージに代表される肉食文化の根強いドイツ(菜食主義への反発はもちろん、一生のうちで1度も魚を食べないドイツ人も多いとされる)では無謀な主張となり、さらに30年前の党草創期に一部の支部が小児性愛を認めるかのような主張を掲げていたことも発覚し児童虐待容認として大スキャンダルに発展、支持の急減を招いた。加えてメルケル首相が脱原発に舵を切ったことでこの分野での政策の独自性も失い、結果としては一時の大躍進の予想にもかかわらず変わった政策ばかりクローズアップされて減票、左翼党にも抜かれて第4党にとどまった。
民主社会党(PDS、旧東独共産党が源流)とラフォンテーヌ元財務相(元ザールラント州首相)ら社民党左派離党組が合流した左翼党も前回総選挙では旧東独部で次々と小選挙区を制するなど全州で5%を突破した勢いを失い、ギジ議員団長を先頭に伝統的に強い旧東ベルリンの4小選挙区のみで勝利するなど後退した。これは前回の躍進の原動力となった、新自由主義への批判的な声を基礎とする反体制票が海賊党(後述)の新登場により分裂したこと、ラフォンテーヌの病気引退により旧西独部でのカリスマ的指導者を失ったことが大きい。しかし、その海賊党も勢いを失ったことで支持を部分的に取り戻し、緑の党が急後退したこともあって連邦議会第3党の位置に前進した。とはいえ前回より大きく得票を減らしているが、旧西独部のヘッセン州議会議員選挙(後述)では議席を維持するなど、退潮を食いとめる結果だったともいえる。
今回の連邦議会総選挙で最大の敗者となったのはこれまで与党第2党としてメルケル政権を支えてきた自由民主党(FDP)で、旧西独時代からの通算でも初めて5%阻止条項を割り込み、前回総選挙で大躍進し獲得した93議席をすべて失って一挙にゼロ議席となった。理由としては伝統的に中道右派リベラル政党として経済自由主義に基づく財政保守主義的な緊縮財政を主張してきた同党が、メルケル首相の財政保守主義に対する圧倒的な支持と緊縮財政派の新党・AfDの登場に支持基盤を直撃され挟み撃ちを受けたことや党内紛争の頻発、CDU/CSUとの政党間関係の悪化によりCDU支持者からの得票が減ったことなどが挙げられる。
逆に今回の総選挙で注目されたのがユーロ脱退・マルク復活による通貨発行権の回復など反南欧的・欧州懐疑主義的な(ただし「反EU」ではないとした)緊縮財政策を主張に掲げた経済右派新党・ドイツのための選択肢(AfD)の躍進だった。政党法が厳しく、総選挙直前に結成されるブーム的な新党が珍しいドイツでは異例の現象で、投票日直前には5%阻止条項突破の予測も流れた。最終的にはあと一歩及ばなかったが、FDPを5%割れに追い込んだことで存在感を見せつけた。しかし後述するとおり、メルケル首相にいずれかの積極財政寄りの政党との連立を強いたともいえ、同党の本来の主張とは反する結果となった以上はその責任も負い、評価が分かれるともいえる。
その他の政党では一時期、反著作権とインターネットの自由を掲げて反体制青年層の支持を受け各州議会議員選挙で5%を突破、議席を獲得してきた左派リバタリアン色をにじませる新党・海賊党(Piraten)が各州議会でシングルイシュー政党ゆえの政策的なまとまりの稚拙さを露呈したことで失速。憲法裁判所による政党解散判決の可能性もささやかれ注目された極右ネオナチ政党・国家民主党(NPD)は強い政治圧力の前に得票を微減。南ドイツを基盤とする自由な有権者(FW、無党派有権者とも訳せる。この団体は政党ではないが、実際にはCSUを離党した一匹狼的な女性政治家、パウリ氏の個人政党の色が強い)は1週間前のバイエルン州議会議員選挙で議席を獲得した勢いを他州に広げられず、「動物の権利・動物福祉」を前面に掲げて緑の党以上に急進的な菜食主義を掲げた人間環境動物福祉(MUT)は奇矯な主張を掲げる「過激な緑」として緑の党の頑迷さを際立たせるだけで終わり、緑の党草創期の党内右派が源流の中道環境政党・エコロジー民主党(ÖDP、ドイツの歴史的伝統に基づく環境政策を主張し必ずしも市民運動的な「新しい社会運動」を背景としないのが特徴)と右派ポピュリストの共和党(REP、かつて旧西独末期、欧州議会選で全国で5%を突破したことがあり「危険な極右」の象徴視された)は南ドイツの支持基盤から進出できなかった。
今回の結果を受けてメルケル首相はCDU/CSUの躍進にもかかわらず連立の組み替えを迫られるため、その行方が注目されるが、政策面で積極財政、南欧支援など野党色を濃厚にしてきたSPDは「大連立」政権の復活となる場合、さらに富裕層増税などの譲歩をメルケル首相に強く求める姿勢で、その政策的ハードルが高くなった場合は今度はメルケル首相が緑の党との「黒緑連立」の可能性も探るとみられている。しかしCDUと緑の党の「黒緑連立」は州レベルで実現されてきた経緯もあるが、両党とも与党経験があるとはいえイメージの違いから長期にわたる政権維持はされにくい。いっぽう左翼党は州レベルではSPDと連立した実績もあるが、NATO離脱など外交安全保障面で主張が非現実的なことから連邦レベルでの連立はまず無理で、SPDも緑の党も左翼党との連立よりCDU/CSUとの連立を優先させる姿勢。数字上はSPDと緑の党の「赤緑連立」を復活させた上で左翼党が閣外から支える「赤緑連立」樹立の可能性もあるが、旧西独部ではこれを州レベルで成立させた場合にSPDからの穏健・中道派有権者の大量離反を招いた経緯もあり、実現の可能性は乏しい。いずれにせよメルケル首相とCDU/CSUは「黒緑連立」を、またSPDは政策要求をそれぞれカード、あるいはブラフとして緊迫感のある連立交渉は確実で、その長期化を予想する声もある。
ドイツではワイマール共和国時代に安定政権を欠いた経験から憲法(基本法)のうえで総選挙後の新首相選出には連邦議会総議員の絶対過半数が必要と規定されており、CDU/CSUのみでの少数政権樹立の可能性はほぼ皆無。しかし、それでも政権が成立しない場合にのみ普段は名誉職の大統領に連邦議会解散権が生じるため、SPDが主導して選出されたガウク大統領の判断が注目されるが、今のところは各党間の協議を優先させ調停に乗り出す方向。また大連立なら左翼党が野党第1党になることを懸念する報道もある。
加えて日本ではほとんど報じられていないが、今回の連邦議会総選挙から憲法裁判所の判断により選挙制度改革が行われ、小選挙区で特定政党が圧勝して「超過議席」が生じた際には他党へも比例代表議席が上積みされる規定を採用、5%阻止条項以外はほぼ完全な比例代表制となった(これは日本で政治改革の議論がされた際に小林良彰・慶応大教授が提唱した「両立制」に近い)。これは同時に今後、当選する議員数が一定しないことも意味するが、ドイツではワイマール共和国時代に「バーデン式比例代表制」(得票の絶対数によって議席数を決める制度で、具体的には6万票あたり1議席だった。したがって人口や投票率の増減で総議席数も変動する)を採用した過去もあり、目新しい制度ではない。
なお同日に旧西独中部にありフランクフルトを抱えるヘッセン州の州議会議員選挙(定数110、5%阻止条項つき小選挙区併用型比例代表制)が行われ、CDU、SPD、緑の党に加え、左翼党とFDPもぎりぎり議席を獲得した。しかし、ここでもFDPが惨敗したことには変わらず、CDUとFDPによる中道右派連立の継続は難しくなり、連邦レベルと同様に連立の組み替えを迫られる。
連邦議会総選挙の結果は次のとおり(カッコ内は小選挙区獲得議席と前回比で、今回の当選者は630名。小選挙区併用型比例代表制のため小選挙区議席は全体の政党別勢力分野には影響しないが、各党の勢いは反映される)。
キリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)311(小選挙区235、+72)
・ドイツキリスト教民主同盟(CDU)255(小選挙区190、+61)
・バイエルンキリスト教社会同盟(CSU)56(小選挙区45、+11)
ドイツ社会民主党(SPD)192(小選挙区59、+46)
左翼党(LINKE)64(小選挙区4、-12)
同盟90・緑の党(GRÜNE)63(小選挙区1、-5)
ヘッセン州議会選挙の結果は次のとおり(カッコ内は前回比。なお前回は定数118で、8減)。
キリスト教民主同盟(CDU)47(+1)
社会民主党(SPD)37(+8)
同盟90・緑の党(GRÜNE)14(-3)
左翼党(LINKE)6(±0)
自由民主党(FDP)6(-14)
投票率は連邦議会が71.5%、ヘッセン州議会が同日選となったことで大幅に伸び73%を上回った。また、これまでも移民出身の政治家を輩出してきたドイツではあるが、初めて黒人の連邦議会議員が2名誕生したことも話題となった。
ドイツ社会民主党 公式サイト(ドイツ語)
http://www.spd.de/
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さまざまな技術上のトラブルが多発し、執筆が大きく遅れましたことをお詫びします。
2013-09-27
【スリランカ】州議選で与党・自由党が優勢、タミル民族派も善戦
21日、スリランカの9州のうち3州で州議会議員選挙(比例代表制)が行われた。うち、中央州と北西州ではラジャパクサ大統領を支える最大与党で民主社会主義を掲げるスリランカ自由党(SLFP、社会主義インターには非加盟)を中心とする「統一人民自由同盟」(UPFA)が過半数を獲得したが、長らく残忍な自爆攻撃を行うなど猛烈に政府と戦ってきたタミル人反政府過激武装組織「タミル・イーラム解放の虎」(LTTE、タミル・タイガー)の影響力がその壊滅まで強かったため選挙が不可能だった北部州議会ではLTTE崩壊後も残るタミル人穏健派を基盤とする政党連合「タミル国民同盟」(TNA)が8割近くを得票し圧勝、同地域でのタミル民族主義への根強い支持が浮き彫りになった。2大政党の一方である保守系の統一国民党(UNP)は大敗し、ほかにラジャパクサ大統領と並ぶ内戦勝利の立役者ながら前回大統領選挙で立候補、敗退後に逮捕・収監されたフォンセカ元軍参謀長(昨年釈放)の民主党、スリランカ・ムスリム会議などが少数の議席を得た。
SLFPは民主社会主義を掲げると同時にスリランカの多数民族であるシンハリ人の民族主義および仏教(上座部仏教)への特権付与を主張してきたため、ヒンズー教徒の多いタミル人とは英国植民地時代から対立してきた。また、スリランカでは共産党や平等社会党(トロツキスト)など左翼勢力もSLFPと同調してきた経緯がある。最近はこれに加え、仏教僧ナショナリストの国民遺産党(JHU)や、タミル人勢力ながらLTTEと対立し、その内ゲバ的な武力攻撃を受けてきたイーラム人民民主党(EPDP)なども与党連合に加わっている。ほかに共産党から数十年前に分裂した極左毛沢東主義でシンハリ民族主義の元武装組織・人民解放戦線(JVP、かつては南部ジャングルを拠点としていたが現在は政府と和平を結び政党化)もあり、一時は与党連合に加わり自由党に次ぐ与党第2党になったが、前回大統領選を前に与党を離脱しフォンセカ陣営について以来は勢力を失い、今回も惨敗した。加えて、シンハリ人には「スリランカでは多数派だが、スリランカのタミル人の背後には南インドのタミル人が控えている(人口はシンハリ人の4倍にのぼる。ただし、そのタミル人も北インドに対しては少数民族)」という意識も根強く、いわゆる「左=右」の対立軸よりもインドとも絡む複雑な民族問題が焦点となっている。
今回、特に北部州議選はLTTEの壊滅によるスリランカ内戦の終結後、民主主義の審判を州レベルで仰ぐ最初の機会となったが、内戦が終結したとはいえ特にタミル人のあいだに国内難民はじめ生活困窮者が蔓延するなか、独立要求を取り下げているものの「高度な自治権付与」を求めているTNAの圧勝は、南アジア(インド圏)のなかでは高度の福祉国家といえるスリランカにおいてさえも、その内部に抱える民族対立が今なお深刻であることを示している。
各州の選挙結果は次の通り(カッコ内は前回比、北部州には無い)。
●中央州(定数58)
統一人民自由同盟 36(±0)
統一国民党 16(-6)
民主党 2(新党)
セイロン労働者会議 2(+2、国政では統一人民自由同盟に参加)
高地人民戦線 1(+1、国政では統一人民自由同盟に参加)
スリランカ・ムスリム会議 1(+1)
●北西州(定数52)
統一人民自由同盟 34(-3)
統一国民党 12(-2)
民主党 3(新党)
スリランカ・ムスリム会議 2(+2)
人民解放戦線 1(±0)
●北部州(定数38)
タミル国民会議 30
統一人民自由同盟 7
スリランカ・ムスリム会議 1
#選挙は各州内の県を選挙区に行われるため、県別に各小政党は例えば統一人民自由同盟に参加したり独自に立候補したり、まちまちである。
SLFPは民主社会主義を掲げると同時にスリランカの多数民族であるシンハリ人の民族主義および仏教(上座部仏教)への特権付与を主張してきたため、ヒンズー教徒の多いタミル人とは英国植民地時代から対立してきた。また、スリランカでは共産党や平等社会党(トロツキスト)など左翼勢力もSLFPと同調してきた経緯がある。最近はこれに加え、仏教僧ナショナリストの国民遺産党(JHU)や、タミル人勢力ながらLTTEと対立し、その内ゲバ的な武力攻撃を受けてきたイーラム人民民主党(EPDP)なども与党連合に加わっている。ほかに共産党から数十年前に分裂した極左毛沢東主義でシンハリ民族主義の元武装組織・人民解放戦線(JVP、かつては南部ジャングルを拠点としていたが現在は政府と和平を結び政党化)もあり、一時は与党連合に加わり自由党に次ぐ与党第2党になったが、前回大統領選を前に与党を離脱しフォンセカ陣営について以来は勢力を失い、今回も惨敗した。加えて、シンハリ人には「スリランカでは多数派だが、スリランカのタミル人の背後には南インドのタミル人が控えている(人口はシンハリ人の4倍にのぼる。ただし、そのタミル人も北インドに対しては少数民族)」という意識も根強く、いわゆる「左=右」の対立軸よりもインドとも絡む複雑な民族問題が焦点となっている。
今回、特に北部州議選はLTTEの壊滅によるスリランカ内戦の終結後、民主主義の審判を州レベルで仰ぐ最初の機会となったが、内戦が終結したとはいえ特にタミル人のあいだに国内難民はじめ生活困窮者が蔓延するなか、独立要求を取り下げているものの「高度な自治権付与」を求めているTNAの圧勝は、南アジア(インド圏)のなかでは高度の福祉国家といえるスリランカにおいてさえも、その内部に抱える民族対立が今なお深刻であることを示している。
各州の選挙結果は次の通り(カッコ内は前回比、北部州には無い)。
●中央州(定数58)
統一人民自由同盟 36(±0)
統一国民党 16(-6)
民主党 2(新党)
セイロン労働者会議 2(+2、国政では統一人民自由同盟に参加)
高地人民戦線 1(+1、国政では統一人民自由同盟に参加)
スリランカ・ムスリム会議 1(+1)
●北西州(定数52)
統一人民自由同盟 34(-3)
統一国民党 12(-2)
民主党 3(新党)
スリランカ・ムスリム会議 2(+2)
人民解放戦線 1(±0)
●北部州(定数38)
タミル国民会議 30
統一人民自由同盟 7
スリランカ・ムスリム会議 1
#選挙は各州内の県を選挙区に行われるため、県別に各小政党は例えば統一人民自由同盟に参加したり独自に立候補したり、まちまちである。
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